最悪だ。

肩が重い。


「と〜も〜の〜り、のけ」

背中に乗っている男・知盛を退かそうとするが、
がっしりつかまれいるためほどけそうにない。
知盛といえば、嫌がっている姿をみてクククと笑っている。
その嫌味な姿でさえ、絵になるものだからどうしようもない。
神様が間違えたと思うほどの美形は、平 知盛という。
名前から分かるとおりこいつは、平家だ。
ならばなぜ、私がここにいるかと言えば。
負けたからだ、この男に。
そして何が気に入ったか知らないが従者として連れ帰られたわけで

知盛が、そっとの左目を触った。
左目を覆う黒い牛皮で出来た眼帯に、笑みを深める。
下にあるのは知盛がつけた傷。それは自身の所有である証だ。

「お前は俺のだ。これがある限りな」

は、表情がない顔で知盛を見返していた。
それすら面白そうに笑うから、は舌打ちをしたい気持ちを押さえた、
この男は自分が反発する姿を喜んでいるのだ、だから表面上には出すのは
負けたような気分になる、は前を向いて知盛をくつっけたまま歩き始めた。
後ろから楽だという言葉を無視して。

知盛の従者というのは、ルシのときよりも面倒だった。
朝起こすと、寝所に無理やり入れられるは、時々女が入っているはで、
知盛は私の反応をみて喜んでいた。
そしてとうとう我慢の限界。は知盛に直訴しに行った。


「どうにかしないとどうにかするぞ」

その言葉に、昼寝をしていた知盛がピクリと動き目を開かせる。

「どうにかとは?」

「例えば、お前が好きで最後までとってあるものを先に食べるとか。
お前の服を一枚ずつ女ものに変えるとか、あとは男衆に気があると言ったり、
私がお前の寝所にひそみこむぞ!」

は仁王立ちをしながら胸を張っていい案だと喜んでいる姿に、知盛は
目だけを向けて呆れていた。ほとんどただのイタズラだし、最後にいたっては、
どうにかなるのは自分でなく自身であることに気付いていない。
そんな知盛の姿を見て、は自己完結をし、

「そうかー嫌か、だったら、
せめて女を連れ込むときは一言言ってください。ガチで」

今度は、土下座してきた。
コロコロと変わる表情と行動に知盛は笑みを深くした。
色々な女と付き合ってきたが、こんな女ははじめてで飽きることを知らない。
まったくいい拾い物をした。

知盛は、土下座をしているの腕をとると自分の腕の中に閉じ込めた。
ぬくぬくと子供体温であるは温かいが、それを言えば以前
太ってないともの凄く怒られたから言わない。
腕の中では、多少抵抗しているもののどこか諦めたがいた。
殴っても暴れても怒っても無駄だと、分かっているようで、
どこか悟りの境地の目をしていた。

、いいぞ」

の髪を軽くいじりながら、知盛は目を細めた。
は、知盛の言っている言葉が分からずに首をかしげると

「女は寝所に連れ込まない、お前が代わりにいればな」

目を丸くさせたは、自分の言葉を思い出して、あたふたと慌て、
あれは違うと言い訳をし始めたが、知盛の中で決定してしまったようで、
その後、知盛とが一緒に寝所から出るところを目撃されるようになった。

今では、知盛が背中に乗るのも抱きしめられるのも膝枕するのでさえ、抵抗がない。
ああ、慣れって怖い。














2009・3・10