やっぱりね。

この世界で私は一人ぼっちだ。



夕方、妖怪類のもの達が騒ぎ立てる時間。
は、静かに夕日を見ていた。
オレンジ色で大きくて初めて見たときから何も変わることのないその姿。
弁慶のときにもみたその美しさ。


「ルシ」

少しだけぼやけて歪んで見えた。

「私はここにいて本当にいいのかな?」

リズはとてもいい鬼で、私を誰かに差し出したり殺そうと思ったり、
裏切ろうなんて思ったりしていない。
でも、彼の大切な人、神子。
時々、彼はなぜだか私の後ろを見ているような気がするんだ。
全然顔も、雰囲気も性格だって全部違うのは分かってる、
だから勘違いだと思ってた、彼が私をみて微笑むのも優しい顔をするのも
なでてくれるのも全部私じゃないなんて、違うって思ってたんだ。
でもさ、リズに神子を話してもらって、ああ、やっぱりなって思った。
同じ顔で話すんだ。
私を見るときとまったく同じ顔で神子を語る。

「私は同じ世界から来たけど、神子じゃない」

けど、私をみて。なんて、言えるわけがない。
だって、神子はリズにとって全てだから、
それに私がリズにとってどうありたいかなんて分からない。

子供の我が侭。

そんな感情、ただでさえいらせてくれてるだけでもありがたいのに、
息を吸い込んだら、私もオレンジに染まれるかなんて馬鹿なことを考えていた。



このまま行けば、私は神子を嫌いじゃなくて、憎くなってしまう。


その前に、

「リズ、ちょっと行く所があるんだ」

「こんな季節にか?」

「うん、どうしても見ておきたいものがあるんだ」

リズは寒くなるから春にといったけど、私がどうしてもといって無理やり承知させた。
とても優しい人、とても温かい人だから、どうしても
どうしても、認められたかった。

――――――私を認めて欲しかった。



また道なき道を歩き出す。後ろを振り返ってしまったら、
悲しくて泣いてしまうから、そのまま唇をかみしめて走った。


ルシと見た景色を見れば、私を見てくれないとかそんな小さなこと忘れられるから。
リズは神子が大好きだねって、笑っていえるから。まってね。
もう、たいそれたこと望まないから、すぐに帰るよ。
そしたら、笑ってね。それから、大好きな手で頭を撫でてお帰りって言ってね。


途中、どっかに行ってしまった槍を見つけた。
倒れている男に刺さっていた。
真っ白蒼白で、悲惨な死をしている男に申し訳なく思いつつ、
容赦なく槍を引っこ抜いた。

自分以外の人間が、こういう風になるのは何度か見たので、慣れたといったら聞き覚えが
悪いが、歩けばどんなにリズとの生活がありがたかったか、分かる。
それと、自分がいかに自分勝手に生きているか。


自己嫌悪しつつも、進む。
全部洗い流されたくて、向かう、天国のような場所に、
草をわけて枝をわけて進んだら、きっと私は全てを許せる。


ついた場所に目を疑った、自分の土地勘は立派で一度行った場所を間違えるわけもないし
地図さえあれば、誰に聞くことなく進みことが出来る。
だから、ここはあの天国。

そのはずなのに。


そこでは、兵士達が騒いで血が流れてめちゃくちゃだった。
うるさい音に、臭い匂い。天国が地獄へ変わっていた。


私は、手に槍を握り締めると
獣のような叫び声をあげて、人の群れの中に突っ込んだ。

そのときは、生きることさえも忘れて、感情のままに槍を振り回し血を浴びた。
聖域を壊されたんだ。自分の最後の砦のような場所で、そこだけは穢しちゃいけなかった。



「ほぅ、面白い」

声が聞こえた。

「お前が、噂の『赤鬼』か・・・・・・ククッ、つまらないと思っていたが、
こんな面白いものにあえるとは」

顔を上げてみると、白銀の雪の短い髪と均整のとれた体に華美な鎧に上の地位にある人物だと分かる。
鋭い瞳はギラギラと獣を狩るときのようで下にあるペイントもあいまって印象的だ。

は、頬に落ちる涙を舐めて、相手の挑戦的な笑みを睨みつける。

部下らしい人たちが止めているがその男は、二本の剣を取り出して、

「いくぜ」

振り上げた。


この世界は、味方よりも敵が多い。







2009・3・9