冬が来る。また季節が戻った。
この時代に来てから、もうそろそろ一年が経つ。

外は、嵐なので今日は家の中でのんびり過ごしている。
は、仲良くなった森の動物達と、リズヴァーンは書物を読んでいた。
部屋のなかでは、外の激しさと本の捲る音だけが響いていた。
最後のページを捲り、いやに静かだと思えばは遊び飽きたのか寝ていた。
しかたがないと、近づいてに触れるか触れないかの距離で、は目を覚ました。
ぎっと睨みつけるような目で、リズヴァーンを見ればなんだリズかといって
もう一度瞳を閉じた。
リズヴァーンは、息を吐き出した。
さっきの緊迫した雰囲気が嘘のように、はすやすやと寝ている。
寝顔を見ながらリズヴァーンは呟いた。

「一体どういう境遇にいたんだ」

手には白い包帯が巻かれていて、そこからは傷やつぶれた血豆などたくさんあることや、
白い背中に後ろから斬られた跡や無数の細かい傷があるのを知っている。
今だって、気配を感じたら起きるなんて、
どれも、普通の暮らしをしていれば出来ないもので、彼女が茨の道を歩いてきたことを
示していた。

そして、一緒にいながらもお互いのことをよく知らないことに気付いた。

は少しして目を覚ました。
夢見が良かったのだろうか、
頭を左右に小さく動かし、鼻歌を歌いながらとても幸せそうな顔をしていた。

「いい夢だったのか?」

「うん、凄くいい夢だったよ。ねぇ、リズ聞いてよ」

頭を振るのをやめるとは、足を抱えリズヴァーンのほうへ向いた。

「大好きなね人が出てきたんだ」

それから、は嬉しそうに身振り手振りで話す。
ルシという人物について、それは楽しそうに。
ひとしきり言い終わればは、お茶をいれてくると土手のほうへ向かった。
後姿を眺めながらリズヴァーンは、ルシという言葉を思い出した。
最初、自分と間違えて言った人物の名前で、嬉しそうに語る大好きな人が
なぜ一緒にいないかなんて、分かってしまった。
帰ってくると、はリズヴァーンの前にも湯飲みを置いて、
女らしからぬあぐらをかいた。いくらいっても直らなかった。
それから、息を吹きかけながらちびりと喉を潤していた。




「ん?」

「その赤い服、そろそろ代え時期だ、今度町で」

「いーよ。これはさ。これでいいんだ」

「そうか」

「理由、聞かないの?」

の表情で分かった。さっきと同じ表情で服を優しく触るから、
それがルシが関わっているくらい分かった。
から、ルシという人物をなぜかこれ以上聞きたくなくて私は、
口を覆う布をとり、お茶を口にした。の入れるお茶は薄かったり濃かったりして
マチマチだ、今回は薄い。ふっと、視線を感じれば、がリズヴァーンの顔を凝視していた。
多少の居心地の悪さを感じて。

「・・・・・・なんだ?」

「リズってさ、その火傷の跡、なんで?」

は、時々子供の純粋さで、酷いことを聞く。
私が、口元を覆い隠そうとすると、は口を突き出しむくれて言う。

「別に、醜いとか思ってないよ。その逆だし、火傷の跡より美しさのほうが際立って
もったいないなって思っただけだし」

独特の感性。真っ直ぐ見つめる目は嘘をついていないと分からせる。
リズヴァーンは手を彼女の頭の上に置いた。
それから優しく撫でれば、うつむいて静かになる。

「本当だから、リズはとっても綺麗だ」

「そうか」

「ねぇ、リズ私が好きな人を話すのは、同じく好きな人だけだよ。
だから、さ。私もリズが好きな人、神子を知りたいと思うんだ」

黒い瞳がかち合った。目の中には驚いた自分が映っている。
感情を前に出したつもりはなかったのだが、分かられていたようで
隠そうとするものならば、彼女の瞳にすべてが見透かされそうで、
私は、初めて神子の話を人に話した。
それは、とても美しく神聖な儚い人の話を。
苦しくて仕方がない、未来の話を。


私は、神子しか見えていなくて、目の前にいる人物の表情なんてみていなかった。
見えていたならば、未来は変わったかもしれない。










2008・3・7