いつのまに私は殺すことに躊躇わなくなったのだろう。
呪いのせい?そんなご立派なもんじゃない。これは人が人へ継がせる恨みだ。

「なぁ、そう思わないか?」


人という瓦礫の上で、下にいる男に話しかけた。
答えの代わりに言ったのは、

「お、鬼」

「あーだから、私はそれを探してんだ。答えろや」

「目の前にいる、お前が鬼だ、『赤鬼』」

そういえば、くたりと地に落ちた。
つまんない。殺しが好きなわけではないから私は適当に金目のものをとって
みちなき道を歩き出す。ここも外れだった。それから頬を伝う涙を拭った。

人を殺すことに何も思わないのに私は涙を流し続けている。
なぜだろう?ペロリと舐めればしょっぱい塩の味。


赤をベースに白い刺繍の着物を上に羽織り辛うじて紐でくくってある程度のラフな着方。
下は黒いスカートに膝が隠れるくらいのあみあみのブーツ、異質な格好しては歩いていた。
髪は背中まで伸びてボサボサだ。紐でくくっても戦闘になるといつもどこかへいってしまい
面倒くさくなってそのまま流している。
目的は、鬼に出会い帰る方法をみつけるというシンプルなものだが、
向かってくる敵全てを相手にしていたら、いつのまにか『赤鬼』とかいう大層な名前をつけられた。
突然現れ敵味方関係なく、人を喰らい殺す涙を流す赤き羽衣を羽織る鬼。
トトンと肩で軽く一本の棒で叩く。
ただの棒に見えるこれは実は二つの槍だ。二つを逆さに合わせれば棒になる。
黒と白の二本の槍になったあの日から槍は収納できるようになった。
いつも運ぶのが面倒で目立つと文句言っていたからかもしれないこんな風にしたのは。
今でも背中に感じる誰かの感触を忘れることは出来ない。
上に羽織っている着物が彼女のだというのもあるかもしれない。

苦しくてしかたがない。誰か助けてくれよ。

そう、思ったのが悪かったのか私は腹をくだした。
食べ物が悪かったのかもしれない。それとも水か。
けれど今言えることは、私は腹をくだして死ぬかも知れない。

それはなんか遠慮したい。心から!!
かっこ悪すぎる・・・・・・そう思っていたのに私は腹を抱えたまま倒れた。
殺されるよりもあっけないような気がする。
それとも目が覚めたなら平家やら色々殺しまくったから吊るしあげられるかも知れない。
ああ、どっちにせよ。最悪だ。


「大丈夫ですか?」


目が覚めたら美人がいた。







美人さんは、弁慶というらしい。
聞いたことがある名前にそうかここ平家と源氏の時代だと思うよりも
弁慶ってこんなんだったのか?とジロジロ見てしまった。

「そんなに見られると照れますね」

「そう?慣れそうだから照れないかと思ったよ」

「フフフフ言いますね」

「生憎、黒属性には強くてね」

「そうですか、ならこの薬も大丈夫でしょう。いつもより効くようにしてましたから」

目の前にどうみても飲み物じゃないものを置かれた。
うっと汗をたらす。
さぁさぁと笑顔でにじりよられたらもう負けだ。
私は涙を流しながら薬を飲みほした。
弁慶は、道で落ちていた私を、薬草を摘みにきたときに拾ったらしい。
腹痛でうんうんうなっている所を助けられて、治ればすぐさま出ていこうと思えば
傷が化膿して熱を出しまたダウン。その後出るわ出るわ。
抱え込んでいたすべてのものが溢れるように・・・・・・。
疲れと栄養失調と睡眠不足に腹痛に頭痛に熱に最悪コンボ。
うつらうつらする頭で布団の中から、他の病人に薬をやる弁慶の姿をみる。
自分の部屋には暗くて弁慶がいる場所は光が差し込んでいた。
そこに手を伸ばしたくなったけど、自分の手のひらに巻かれた包帯がとけていて、
無数の血マメと細かな傷が目に入った。

「痛いの?」

顔を上げれば、ボロボロの服まとって怪我を治療された少年がいた。
ここまで、近寄られて気がつかなかったなんて、きっと薬のせいだと
少年をみれば、ペタリと小さくて暖かい温もりを頬に感じた。

「痛いの?おにいちゃんは痛いの?」

泣きそうな顔で、私が痛かったとしても少年は痛くないだろうとか、私は女だとか
そういう感想よりも久しぶりに人らしい温かみで。

「泣かないで、あーいたいのいたいの飛んでいけ〜」




泣きやんだ私に泣いた少年と一緒に遊んでいれば、
薬を貰いにきて暇をもて遊んでいた子供たちがよってきた。
とても斬新なおとぎ話に、お手玉に、いつしか布団からでて外で鬼ごっこなどをしていた。

「はーい、見つけた。おーい全員見つけたから、最初見つかった奴が鬼な!
ああ、でもそれじゃぁ面白くないから、次は半分鬼で見つかったやつらは鬼の傘下に」

「はいはい、ここで終わりですよ」

弁慶が私の肩をつかんでにっこり笑っていた。
顔をみてしまったことに後悔するほど素晴らしい笑みで
私は捕まえていた最後の子供の肩を手放した。
えーという子供たちの非難の声に、弁慶が待っている家族を指差すとみな帰っていった。
卑怯者め。

「あなたはまだ病人のはずですが?」

掴まれた肩が痛い。言い訳を必死に考えていると。

「おにいちゃん。また、遊んでね」

少年はにっと可愛らしい笑顔で私に手を振った。
顔がニヤけるのが止まらずに少年が手を振り終わるまで手を振り続けた。


その間、変な顔をしている弁慶なんて気がつかなかった。










2009・2・28