「ありがとう。。最後まで傍にいてくれて」
ゆっくりと落ちていく
とても綺麗な笑顔
徐々に冷たくなる
そんなはずはない
声にならない音があふれ出す
砂時計は壊れてしまった
握った手はさらさらと風に流される
違う 違う
そんなはずが
「おやぁ おきちゃった?」
目を覚ますと北雪がいた。
「?どうかしたぁぅあ」
ぎゅと抱きしめる
温かい
心臓の音がする
大きな背中自分とは違う体のつくり
北雪の匂いも感触も
触れているところから感じる
それでも暗闇の荒波が私を襲う
小さく言う
そんなはずはない
自分の手がカタカタと震えていることにも気付かずに繰り返し同じ言葉を言う
北雪は何も言わずただ私のなすがままになってくれた。
ポンと頭に手を置かれた
私よりも大きなゴツゴツとして長い指が頭を撫でる。
それがあまりに優しくて
やっと彼がここにいるんだとあれは悪夢だったんだと理解して
じわっと温かいものが体を廻った。
ふわふわとした緩やかな時間。
二人でぼーっと家の庭の咲かない桜でも見ていた。
北雪に抱きかかえられて温もりを感じながら名前を呼んだ。
「北雪」
「うん?」
もう一度願うように名前を呼んだ。
「北雪 北雪」
「うん」
「とても怖い夢を見たんだ」
「へぇどんな?」
「・・・忘れた」
私は北雪の腕にもぐる。
あの冷たさを忘れるぐらいに
北雪は
あの夢と同じ笑顔で笑う
あの夢と同じ声で話す
あの夢と同じ手で撫でる
そんなはずはない
北雪はここにいる
貴方がいない世界なんて いらないよ
2008.5.17