「骸、骸」
懐かしい声が聞こえた。けどそれは幻聴だろう。だって彼女はここにいない。
髪を優しく撫でられる、何度も何度も・・・・・・。
きっと、それは泡だ。


僕は、ときに思う。
世界が、僕と君だけだったら、僕は、君を選べたのに。
それはなんて幸せだろう、と。
この監獄の中で、ありえない夢をみる。
冷たい水の中で機械によって
必要最低限の生き方をすることが、僕の望んだ世界の終焉だろうか。


落ちていけば、夢の世界。
僕は、自分の世界を見る。
なにも変わらずにあり続けていたそこに小さな変化があった。
いつの間にか小さな小さな赤い扉が出来ていて、横の彼女の世界へと繋がっていた。


僕は・・・・・・。
扉を開けようとして流れてくる自分の過去。
決して許せないマフィアという存在。
僕は手をおろして違う方向へ飛んでいく。
まだ、僕は負けていない。まだ、僕は生きている。
殺さず生かした甘い考えを後悔させてやるんだ。


僕が世界を変えてみせる。


そう、思っているのに、いつも始まりは僕の部屋から。
段々と赤い扉は大きくなった。最初はギリギリ入れる大きさから
今では2メートルという身長があっても大丈夫だ。

白い部屋の中で主張している赤い扉。
彼女だろうか。彼女がこんなことをしているのだろうか。
一度言ってしまえばいい、これを毎日不快な思いで見ることはない。
邪魔だと、言ってしまえばいい。


君はもう僕の世界に必要ないと。



僕は、扉を押した。簡単に開いた赤き扉は、
まるで開けられることを望んでいたみたいで。
ギィーと音をたてながら開いていった。
そこで見たものは、真っ白でなにもない部屋ではなかった。
ひび割れて誰かに壊されたかのようにボロボロになった部屋。
そこにはなにもない。
ふよふよと瓦礫が浮いているだけ。
目を疑った。
この世界が壊れているということは新しい世界を創り上げたか、
死んだかどちらかだ。
どちらにせよ。僕は二度と君に会うことは出来ない。

クフフフフフフ。アーハハハハハ。
壊れたように笑い狂う。笑えば笑うほど涙がこみ上げていて
最後には笑っているのか泣いているのかよく分からない声が出ていた。


本当は、
復讐なんてどうでもよかった。
君と一緒なら、生きていきたいと願ってしまった。
本当は、
君が必要なのは、僕のほうで
ほら、君に二度と会えないというだけで
こんなにも苦しい。

綺麗な世界なんて
マフィアがいない世界なんて
君がいない世界なんて


いらない。


僕よ、世界を壊してしまえ。


もしも、生まれ変わったら次こそ君だけを・・・・・・。


そう、思った瞬間。
空から、光が降りかかった。
猛烈な光は、僕が壊そうとしていた世界全てを消し去って
僕も光に飲み込まれた。
光の中は、あんなに激しかった光だとは思えないほど穏やかで
温かい。まるで君のようなそんな光。
そんなことを考えていれば、幻聴も聞こえてきた。

「骸、骸。
・・・・・・このパイナップルヘアー」

幻聴は酷く失礼なことをいった。

「早く起きないと窒息死させるよ。ほれ1・2・3」

カウントダウンされてから急に息苦しくなって鼻と口を塞いでいる手を跳ね除けた
目を開ければそこに君がいて、イタズラが成功して喜んでいる子供の顔をしていた。

「骸、おはよう」

「な、んで貴方がここに」


目をパチパチして君を見れば、なにをいってるんだとばかりに呆れて言う。


「忘れたの?骸は私の片割れでしょう?片方かけたら生きていけないよ」


そう言って血だらけの君。君の血と返り血が混じっている。

「さぁ、帰ろう」


差し出された手はあの日と変わらず温かくて、凍っているかのように冷えている
自分の手をさしだすことをためらったが、君は無理やり僕を連れて出て行く。
僕がいた場所は、ガラスが割れてコードが引きちぎられて倒れている人が何人もいた。


丘の上で僕たちは、手をつないで監獄をみていた。
思っていたのと違い。そこは最初と同じ風貌でドンと威厳ありげに立っている。
あんなことしながらも誰も動かない。
おかしいと思いながらも君は満足そうに笑うから、何も聞けない。

「骸」

君の顔から笑顔が消えた。

「私にとって現実はとてもおっかないもので矛盾ばっかりの世界だったよ。
世界を選べって言われるなら、
あの白い世界も世界と呼べるなら、私はそっちを選ぶ。
そこには矛盾も汚いことや怖がるものがない。
けどね、あの世界にいても心はからっぽだった。
何日も何日もずーっと変わらない景色に嫌気が差して、ね。
おかしいよね。二人だったときはなにも怖くないし楽しかった。
幸せだった。けど、今は虚しいだけ。それでねやっと気付いたの。
あれはね、私と貴方だけの世界だったって。
だから、その世界をもう一度つくったんだよ。今度は現実に」

君が振り返って、僕を見た。

「ねぇ、骸大好きよ」


君はそう言って僕を見て泣いた
その姿があんまり綺麗で、思わず言葉を詰まらせた。
ようやく搾り出せた言葉は。

「・・・・・・僕も、好きです。ずっと」

僕は君を抱きしめて泣いた。
現実の世界で泣けたのは久しぶりで悲しいじゃなくて嬉しいで泣いたのは初めてだった。




世界が、僕と君だけだったら、僕は、君を選べたのに。
でも、
君と一緒だったら世界なんてもういらない。
いいや、君と僕とで新しい幸せな世界を創るんだ。
マフィアとか復讐だとか関係ない。とても平凡で小さな幸せを。


ウフフと音が出るほど幸せな顔をしている君に、僕もつい頬を緩ませる。
急に僕は気になる点を思い出した。

「そういえば、どうして誰も騒がないんでしょう」

なぜ投獄したのに誰も追ってこないんだろうその疑問を投げかければ、
君は一瞬バツの悪そうな顔をした。

「そんなこと簡単だよ。ボンゴレと契約したんだ。
骸の世話は私が一生かけてみるってね。でも、襲われて殺されたってことにしとかないと
格好がつかないってわけで、あ、大丈夫だよ。京洛家のことはどうにかまとめれたから」

「・・・・・・も、もしかして」

「骸、平凡は無理だけど一緒にいれるし、
ほらボンゴレはツナ君だし。実験はしないから」

骸、一緒にボンゴレで頑張ろうね。と嘘くさい笑顔で笑われた。
たとえ、嘘でも君がやれば本物になる。
つまり、惚れたもの負け。
僕はしょうがないですねとため息を吐くと、君と一緒に歩く。

日本へ向けて。



世界は君と僕だけじゃないけど、僕の世界の中心は君で、
そして君の中心は僕でありたい。








2009.1.20