彼女は、知らないだろう。
君が僕を知るより先に君を知っていたこと
そして、彼女を憎く思っていたことを。


彼女の世界を覗いたのは本当に偶然だった。
その時まだ、彼女の部屋は、真っ白で物がない部屋じゃなかった。
桜が絶えずに狂い咲き。
穏やで平凡で四季を感じさせない部屋だった。
彼女はいつも桜の木の上で寝ていた。
僕は彼女に興味がなくて、
ただ、桜というものを知らなかったから、
白い花弁を撒き散らす木が綺麗だと思った。
時々、ふと気になったときに見に行く。
そんな場所だった。
けれど、あの日、そこは火の海で
寝ていた彼女は起きていてそれを見て笑っていた。
その狂気さに鳥肌がたったが、なぜか目を逸らせない。
目があった瞬間自覚した。
彼女はとても似ていた。僕と。

彼女はあの時、笑っていたけど、本当は泣いていて、
だから、僕も笑っていようと決めた、君と僕とが同じである限り。

現実では会えないから、夢の中で語り合った。
僕たちは現実では交じり合わないと思っていたから、
そのぶん自由だ。
誰かの世界を見に行って笑って怒って、
感覚がない手の感触でも、幸せだった。

同時に、怖かった。

いつしか僕はお隣さんになっていた
彼女を知れば知るほど傍にいて安らいで、
僕は本来の目的を失ってもいいから一緒にいたいと思うようになっていた。
それじゃいけないのに、
現実世界は冷たくて暗い。
だから、君を憎んでもいたんだ。


そして、会わないはずの二人は会えてしまった。
君は、夢の世界じゃいつも白い着物だったから
なんだろう。制服姿の君の姿を見たときには、息が止まりそうになった。
荷物を重そうにもって、汗を流して、
君が、ちゃんと現実に生きていたということがリアルに感じる。
僕は、それで君とさようならをしようとしていたのに、
君は笑っていう。
私を使っていいよ。と

そうか、君もこの世界を・・・・・・
君は僕がすることも知っていた。
君は僕がどうなるか分かっていた。
それでも、何も言わない。けど、卑怯だとは思わない。
だって、僕もずるい。
君がすべてを捨ててきてくれたのが嬉しくって
手の暖かさを知ってしまったから
さようならの言葉をいえなかった。
君を思えば言えた言葉だけど、僕は君と一緒にいたかった。

二人でいたときは短いけど、すべての幸せを圧縮したような時間だった。
夢では知らなかった君のこと。
料理がうまいとか、髪はふわふわで体からは君の匂いがして。
辛いものが駄目で甘いものがすき。
一緒の共通点もあって、

そのときだけは世界なんてどうでもよかった。


僕たちは終わりが分かりながら、一緒にいた。
外から、血の匂いがする。
僕は、髪を撫でながら君に術をかけた。
君が、もうこれ以上苦しまないようになにも見なくていいように。

健やかに眠る、君は何も知らない赤ん坊のように純粋で
それは、僕たちが求めてやまないものの姿だった。
弱いと嘆く君は、本当は弱くありたかったあの日の君の姿。
だって、君はいまでも弱くはない。

黒い影が出てきて、君をみて驚く。
ああ、貴方も惹かれてしまったんですね。
その男の君を見る目は、そういう類の目で
そのくせ、この男は自分の感情を理解していない。
僕は、この男が殺したい。
君と一緒にいれるこの男を殺したい。
惨めに横たわる男は、それでも君を見続けていた。

僕はマフィアを殲滅したかった。
そうすれば、純粋でいい世界になると思ったから。
そうすれば、君と・・・・・・・・・。

結局、僕は負けた。
お人よしすぎるボスによって、これからのことを考えてもっと酷くなることも
分かっていたけど、心は晴れやかだ。
心残りがあるとしたら、君だけだ。
それが、倒れている僕とゆらゆらと立っている僕とを分裂させた。
あの男の下で寝ている君。僕はこのままさようならといっていなくなる
はずだったのに。
それなのに、君は。
本当に、馬鹿みたいな行動をして僕を驚かせた。

君は僕の術を解いて、僕の名前を叫んだ。
それから、それから・・・・・・
君は本当に全てを捨てて僕についてこようと、



泣かない君に合わせて僕は泣かない。

だから、良かった。
君がこっちに来なくて。

頬を伝う温かいものを気付かれずにすんだから。



君は僕にとって水底から見えた光でした。
神様なんて信じていないけど、初めて祈ろう。

、どうか、幸せでいて。





2008.12.29