【拾ったものは最後まで】カルテット 仁王との出会い編
「ねぇ、いい男が何してんの」
それが、俺とアイツの出逢いだった。
雨に濡れた髪が視界を邪魔したけれど、目の前にいるのが女だというのは分かる。
俺は、一人でいたくて、女が邪魔で、無視して横を通り過ぎようとすれば、
強い力で、引っ張られそのまま地面に体がついた。
「うん、心配されるうちが華だよ」
俺を倒したと思われる女は、傘をそのまま俺に渡すと、
何も聞かずに、ただ豪快に笑って俺の髪をぐしゃぐしゃにした。
初めは呆気に取られたけれど、イラだちが募っていく。俺は手を払い傘を捨て
そのまま起き上がった。
「傘の意味なんてなか」
「おや、ようやく喋ったか」
「っ、なんじゃ、お前は、うっとおしんじゃよ。俺に構うな」
強い否定な言葉を言って、女が去っていく姿を思い浮かべて、
俺は、少しの安心と後悔をしたけれど、女は俺の予想を裏切った。
「イヤ」
初対面で、まったく知らない女は綺麗な目をして真っ直ぐ俺を見た。
「おんしには関係なかろう」
自分が思っていたよりもか細い声が出てきた。
「ううん、関係なら、最初声かけたときから出来てんのよ」
にかっと女にしとくには惜しい男前の笑顔を浮かべて女は立っていた。
強い雨にいつの間にか女の姿はびしょぬれで、
その言葉が、その笑顔が、全て不意打ちで俺は、なんじゃよ。と言いながら泣いていた。
女は、気付いているのに、なにも知らないふりして、俺の言葉に相槌を打つだけだった。
他の奴に比べて自分の実力不足や、仲間達、友達、
俺というものを勝手に形成していく周りの奴ら、それに全部疲れて、どうしようもなくて、
自分が自分を作っているのか、
周りが自分を作っているのか、
いつか俺がいなくなることが怖くてしょうがないということを言っていて、
やっぱり、女は俺の視線を逸らさずに、うんと力強く頷くだけだった。
びしょぬれだった俺を、救った彼女もまたびしょぬれでどうしようもない所を、
また違う誰かが助け出してくれるまで、数分。
その数分で俺は全てを女に取られてしまった。
朝、目を覚めれば、あんな雨の中濡れていた罰のように、風邪を引いた。
風邪を引いて重い頭と体、だけれど心はすっきりしていて、
目を瞑れば、あのとき会った女のことを思い出していた。
名前、聞いとけば良かった。とか年上だろうか。とぐるぐるめぐる思いと、
最後に言われた頑張ったね。という言葉にすぅっと意識を落とした。
ひんやりとした冷たいものが頭の上にある。何かと思えば、水ぶきんだった。
自分じゃ置いた覚えがなくて、誰か仲間のうち心配して来てくれたと思うけれど、
「お、起きた?」
女の声がした。
その声にがばっと起き上がれば、くらりとくる眩暈。ハハっと笑いながら、
煎餅を貪り食う女は、俺の横に薬と水とリンゴを持ってきて、おでこに手を当てて、
「ん、下がったな。ほいで、これ食って、これ飲んで」
とテキパキ動くさまに何できずなすがままだったが、混乱した頭が正常になる。
「なんで」
「え、なんでって、倒れたから介抱したんですけど」
至極当たり前だろうという可笑しな答えが返ってきて、なんだかもうどうでもよくなってきた。
それと、傍に誰かいてくれたのが嬉しくて、会いたかった人だからなおさらだとか、
全てひっくるめて幸せを感じてしまったことに照れて。
「なんで、っていうのは、俺は熱出たのに、お前さんは熱でなかったことじゃ」
これが、俺と の出会い。