簡単に頷いたは、初めてのメンバーとの遊びに心浮かれていた。
友達が増えることはいいことだ。
悲しいことがあっても、辛いことがあっても、出会いはいいものだ。
そう、何があっても。
は、初めて訪れた部屋、精市の部屋にそわそわと落ち着かない気持ちを、
弦一郎の袖を強く引っ張るという行動で表していた。
「凄いな真田。お前の部屋とまったく違う洋風だ。
しかも、見てみろ、真田。植物が置いてあるぞ。というか、この綺麗さは、
普通なのか?お前も綺麗な部屋だし、なんか自分の部屋は誰にも見せれない気がしてきたよ」
「、ちゃんと静かにしろ。ああ、動き回るな」
ここに、精市がいなくて良かったと思う、
先ほどからのを見れば、弦一郎と嬉しそうに話、表面上はお父さんと娘だが、
弦一郎が同学年としっている俺からすれば、いちゃいちゃしているようにしか見えない。
弦一郎もまんざらじゃないらしく、いちいち言葉を返す。
その姿に、提案した仁王が、いつものような飄々した顔ではなく僅かに顔をゆがめているし、
その横では、赤也と丸井と柳生が、信じられなそうに二人を見ている。
俺も、情報では知っていたが、現実それを目の当たりにするとなれば、
信じられないことだった。あの弦一郎が、中学生に見えるのだから。
しかも、バカップルという名のあれに、これをいつも見ていれば、に興味がある幸村が、
部活中にあんなになるのはしょうがない。
しょうがないが、今下からものすごい音がした。
自宅に呼ぶときの精市の真っ赤な顔から予測すると、動揺して皿を割ったのだろう。
「ん?今凄い音したね、真田、ちょっと下行ってくるよ」
なぜ、いちいち弦一郎に報告するのか分からないが、彼女が下に行ったのをいい機会に、
俺は弦一郎の耳を引っ張った。
「!な、なにをする、蓮二」
「なにをするじゃない、弦一郎お前あれはないだろう」
「あれ?」
よく分からないと言いながら頭をかしげる弦一郎に、もしかしてと頭によぎった思いを仁王は口にした。
「無理じゃ、参謀。あのやり取りどうみても日常じゃ。それにしても、
ようアイツがここまで懐いたのぅ」
「俺副部長が、初めて二個上だって思いましたよ。
ってか、あの人って副部長の彼女ッスか?」
きょとんと頭をかしげた赤也が、爆弾発言した、シンとした部屋では下からの物音が大きく聞こえる。
「・・・・・・不吉なこと言わんしゃい。もし、そうだったら」
「・・・・・・ご臨終だな」
それよりも、弦一郎が何も言わないことに少しだけ違和感を覚えた。
はっきりした奴だから、違うなら違うって言う奴だから。
俺は、いつもどおりノートを手に確率を考えようとして・・・やめた。
トントンと軽快なリズムに乗って、階段を下りる。見慣れない壁とか雰囲気とか
どこかよそよそしさを感じてしまうのは初めてきた場所だからだろうか、
それとも、幸村の家だからだろうか。
仁王に言われて、近場って言えばゲーセンとかカラオケとか色々あったのに、
柳が、指導係が見回っていると言ったから、じゃ今度にしようと言う言葉を遮られた。
大きな声が聞こえて、見れば幸村が手を上げ、家に招待されたわけだ。
私は、幸村は結構警戒心が強い、仁王みたいな奴だと思っていて、仲間ならいざ知らず
時々喋るくらいの私を招待してくれるとは思っても見なかった。
真田が言っていた親しい人にも見せてくれる一面を私にも見せて欲しいと思う。
だから、今回は丁度良かった。
一階に降りて、目の前の扉を開けると、一生懸命に破片を片付ける幸村を見つけて、
声をかける。
「幸村、大丈夫?」
「え、そ、さん?」
いや、私ですよ。なんでそんな驚いた顔を。と思えば、
掴んでいた皿の破片をそのまま床に落としていた。
「っ」
「幸村、手」
白くて細い私よりも綺麗な手は、破片により血が出ている。
私は、素早く幸村の手をとり、そのまま水道で血をゆすぎ、ポケットから、
消毒液とバンソーコーを取り出した。
まじまじと見れば、それほど深く切れていない、
スポーツをしかも、手を使うテニスプレーヤーだから、良かったと息を吐き出し
素早く処置していく。その時、幸村の顔なんて見てなくて、真っ赤でいたなんて気付かなかった。
「よし、ま、大丈夫だよ。あ、でも幸村はそこに座っててください」
「え?」
私は、幸村を無理やり椅子に座らせ、落ちていたホウキとチリトリを使い、さっさと破片を集めていく。
最初は、呆気にとられていた幸村は私の行動をみて、あたふたし始めた。
「さん、いいよ、俺がするよ」
「ん、大丈夫、大丈夫、怪我している人にそんなことさせるほど非情じゃないんだよ」
破片を集めてビニールに入れてにっと笑えば、そうじゃないとこっちに来る手伝う幸村。
「だって、さんはお、女の子だし危険なことさせれないよ」
「んーどっちかというと、幸村のほうが可愛いし、私はほら、頑丈だからちょっとやそっとや
傷つかないんだけど」
あ、幸村の眉間に皺が寄った。真田みたくは深くないけど似合わないそれに、
男の子に可愛いはまずったかと、内心ひやひやしていた。
仲良くなろとして逆なことをしてどうする私と、心の声が聞こえるけれど
言った言葉を取り返すことは出来なくて、沈黙だけが続いた。
「さんは」
「ん?」
カチャカチャとガラスの音だけが響く。
「女の子だよ。それに、俺よりもずっと可愛い」
意外と近くにあった綺麗で可愛い顔。
言われた言葉に、呆気にとられたものの
いやいやお前のほうがとしか出てこない。いや、言おうとした。でも、
「俺がさんに傷ついて欲しくない」
まじかにあった顔をずっと見ていたはずだ。一瞬たりとも目を離してなかった。
口を開くのも目を閉じるのも忘れて、馬鹿みたいな顔が彼の目に映っていた。
初めて言われた言葉は、お尻辺りがむずむずしてくすぐったい。
「そう」
ということしか出来なくて、手を止めた。
拾っている姿を見れば、男の体で綺麗な顔をして、やっぱり私よりも綺麗な手をしていた。
いつの間にか終わっていた作業、
それどころかいつの間にかクッキーまで乗っけられているお盆を手にした幸村が近くにいて驚いた。
上に行こうと少し眉が下がっている幸村に、私は。
「幸村」
「・・・・・・なに?」
「うん、きっと多分、ありがとう」
私の最大限の笑顔を出したはずだ。そのまま、上に先にあがる。
自分らしくないのも分かっているけど、私にそういった人は初めてで、嬉しかった。
駆け上がるときにさっきの顔を思い出して、打ち消す。
ちょっとだけ男の顔をしていた幸村を。
2009・7・2