足を宙に少しだけ浮かせ、手首を軽く動かす、手に持っていたボールは、
美しい軌道を描き白いネットのゴールに吸い込まれるように入っていった。
その姿をあんぐりと口を開けて見ているものや歓喜に沸くもの、それら全てにはにんまり笑った。
不敵とも憎らしいととれるその笑顔に、歓声の声が大きくなった。
可愛らしく震える後輩の手で差し出されたタオルには笑顔でかえせば、キャァとわきあがる。
その姿に、一緒にバスケをやっていた奴からこづかれる。
「かっこよすぎるぜ。」
「当たり前」
それからは、賭けをしていた奴からお菓子を徴収、
ほくほくと喜ぶ姿に和んだ高等部のお姉さまから、焼きそばパンを貰った。
教室に帰って口に運べば、そのまま男達と会議。
くだらない会話に、花が咲く。
自分の席に周りに集まる、いつもならば違う場所だけど今は横の席のものがいない。
ミーテングでいない空席には少しだけつまらなく感じていた。
にとって彼はとてもからかいがいがある奴だから。
の気持ちなど知らずに男達の話は進んでいく。
「あーモテたい」
「あれ。お前彼女いなかったけ?」
「。こいつちょっと前に別れたんだよ」
「あーそういや、つまんないとか言われたんだっけ」
「ちょ、人の傷跡ひっくり返さないで」
ぐったりと机に突っ伏する男子生徒には哀れみの目線を送り、それから手に持っていた焼きそばパンを置いた。
「お前はつまんなくないし、自信もて、次はもっといい女みつかるよ」
の言葉に、男がガバッと起き上がった。
そのせいで焼きそばパンが落ち無残な姿になっている。
はもったいないと拾おうとしたが、男に手を握られて身動きが取れない。
「うわぁー今のグッときたぁ、付きあって」
は手を握り締めた男の頭に一撃チョップを入れた。
「冗談でもそういうこと言ったらダメです」
「冗談って」
「ハハハ振られてやんの」
周りが笑う姿に、男は少しうらみ目でをみて。
「ってかさ、って好きな奴とかいんの?」
答えは授業開始のベルによってかきけされた。
は、呪文のように聞こえる先生の言葉を流しながら窓をみた。
自分の姿が映っている。
さっきの言われた言葉を頭でリフレイン。
好きな奴と言われても想像することが難しかったので、
少女が憧れる結婚式を思い浮かべた。
白いウエディングドレスとベールを被り花冠をしている自分の姿に似合わないと感じる。
いいや、もはや嫌悪感、それを証拠に腕の鳥肌は凄いことになっている。
少女らしくない自分の考えを悲しむより、行き過ぎた空想を笑った。
そこで、はたっと思い出す。
友達と幸村同盟に入っていたことを。
このごろ何も動かないし、何も言わないので、すっかり忘れていた。
今までの自分と彼の行動を振り返る。
真田と幸村とで昼食を食い、休み時間は真田をからかいそのうち幸村がきて、
・・・・・・・・・・あれ?フラブ立ってない?
真田の。
真田に関する自分との情報を並べると。
家族に紹介される。家族と時々一緒に夜ご飯を頂いている。
近頃、嫁に来ないかと冗談を言われはじめる。
・・・・・・・やっべ、確実に真田エンディング。
真田を見れば、真剣に鉛筆を。おいおい、真田今は21世紀だぞ。
鉛筆じゃなくてシャーペンってもんがあるんだぞ。
ってか、その削り方は、もしかしなくてカッターか?
どんだけだよ。お前。いや、筆であって欲しかったというべきか。
「なんだ。」
があまりに見すぎていたのか、真田が小さな声で問いかける。
一瞬、奴の頭の上にベールと花冠が見えて、
「いやいやいや、それはない!!」
とは大声を発して顔を青くして、大量の鳥肌を立てた。
その後、担任から保健室へいけと無理やり外へ出されれば後ろから幸村が来た。
「俺、今日日直だから連れて行くよ。保健室」
ほーと、頷いたは幸村の言葉のおかしな点を聞き逃していた。
保健室連れて行くのは、保健委員で、日直ではないことを。
二人で保健室までの道のりを歩けば、教師の小さな声しかしない。
そのせいか二人の間の沈黙が重くのしかかった。
そういえば、二人で話すことは遊園地のUFOキャッチー以来で
いつも真田を介していること事に気付いた。
なんでかは分かっている。自分と馬鹿やっている男と違うという印象と罪悪感からだ。
冗談はよせ、とさっき言った言葉を自分に返したい。
幸村がどんなにいい奴か分かってしまった今では、どうしようもないほどいたたまれない。
どう扱ったらいいのか分からない、そんな自分勝手な理由なのに、
幸村はよく自分に話しかけてくれる。
私だったら、放っておいてるのに。
だからどうにか今の関係を打破したい。
それの第一歩に、は幸村との接点を思い出した。
幸村があのブサイクなぬいぐるみを覚えているかは分からないけれど。
「幸村」
「な、なに?」
「(なんかどもった)あのぬいぐるみどうした?」
「あ、ありがとう」
急にお礼を言われて何のことかと思って、いつの間にか後ろにいた幸村をみれば、
顔を真っ赤にさせて。
「あの時のお礼言い忘れて、ずっと言えなかったから、大切にしてるよ。ネコ!!」
ネコなんだ。あれ。と冷静な頭で思うのと。
幸村の頭の上にベールと花冠が見えた。
いやいやいやいや。似合いすぎもどうよ。
はすんでの所で叫ぶ声を飲み込んだ。
幸村との第一歩。それはブサイクな猫のぬいぐるみ。
2009・5・11
修正:2009・5・20