後悔とは、辞典で調べてみると、
『自分のしてしまったことを、あとになって失敗であったとくやむこと。【ヤホー辞典】』
とある。
後ではない、初めから悔やんでいたのならそれはなんと言うのだろうか。
小説を開けば、文字の羅列に美しくも悲しい物語、楽しい物語が書かれている。
私こと は、リンゴジュースのパックにストローを挿し、
汚さないように本を前に出し、机の上に顔を置いた。
ジュジュジュウウウウジュズズズズズズ
「はしたないし、うるさいぞ!!」
私の隣で、今日も真田が吼えている。
今日も物を食べていれば、横からおかんさながらに、注意する真田。
遊びに行ってからというもの、真田のおかん率が上がった。
はっきりと真田に嫁に来てくれといえば、万事解決する。
ちらりと真田を見れば眉間にしわが寄っている。
おしいな、顔はいいのに。そんな顔をしているから女が寄り付かないし、
なにより同じ年に見られない。
「・・・・・・なにをしている?」
「眉間に指がどれくらいはいるから実験中?」
の指は、しっかりと真田の眉間にめりこんでいた。
真田がプルプルと肩を振るわせたのをみて、は耳を塞ごうとしたが、
その前に真田が急に止まった。文字通り、止まったのだ。
そんな器用なことが出来ることを褒める前に、視線の方向にどんなものがあるのかという
好奇心に負けて振り向けば、幸村が笑っていた。
うわぁ、エンジェルスマァイール。
花も飛びそうだ。確かに、同性のこの顔をみて、自分の性癖を疑ってしまうのは仕様がない。
どうやら、友と同類のようだ。私はそういうことに偏見はない。
お前が男を好きでも、彼ならばしょうがないと大丈夫だ真田。思いっきり青春しな。
という意味をこめて真田の肩にポンとたたき、男すら魅了した幸村を見据えた。
ちょっと見すぎたのだろうか、幸村は少し顔を逸らした。
それとも、今食べている真田家のお弁当に気付いたのだろうか。
ぷるぷると何かを耐えるようにふるえていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
復活した真田に殴られそうになるのを、幸村に止められてどうにかなったが、
心の狭い堅物片思い野郎に、昼食をおごることになった。
ちっ。
今度からお弁当二つ持ってきて、美味しかった。といえば幸村がお弁当を少しくれた。
いい奴だ。
席替えによってさんと真田が隣の席になった。
俺はそのとき、ああ、そうかぐらいで頭の片隅にしか入れていなかった情報が
いまはこんなにも憎らしい。
さんは今日も大量の食事をとりながら真田をからかっている。
真田も真田でそのたびに突っかかるものだから、
さんはそれを面白そうに笑って・・・・・・くそ。羨ましい。
後ろでは、仲がいい二人を揶揄する声が聞こえる。
”あいつらできてんの?”
俺はぎゅっと拳を握り締めて、二人の傍に近づいた。
さんは、真田の眉間に指を突っ込んでめり込んだ指の長さを測っていた。
それを怒る真田はいつもの大人にしか見えない老け顔が、年相応に見える。
二人の仲の良さを見せつけられているようで、俺の顔がどうなっているかなんて、
真田の顔を見ればよく分かる。
まだ俺のことに気付いてないさんは不思議そうに真田を見て
それからやっと俺をみてくれた。
彼女のけだるそうな瞳の中に自分が映っていることを意識してしまって、
ちゃんと笑えたか分からないけど、彼女の表情はまったく変わらずに、
急に真田にポンと叩き、片手には真田の弁当を持ちながら、
俺を凝視し始めた。もぎゅもぎゅと頬一杯につめて幸せそうにほお張っている。
その姿が可愛すぎて、とっさに目を逸らしてしまった。
ヤバイだって、なんか撫でたくなる。でも、嫌がられたら・・・・・・・ああでも撫でたい。
俺の葛藤を、真田の声がかき消した。
ちっ。
幸せ気分に浸ってたのに、まぁでも、一緒に食事できたから許してあげる。
2009・4・22
修正:2009・5・20