積み上げて綺麗に完成されたものを、なぜ人は壊したくなるのだろう。
小さい頃、綺麗な長方形をしたタワーを崩すゲームを見て思った。

何が楽しいの?と聞けば崩れるかもしれないスリルが楽しいんだと笑って言う友達に、
ふーん、つまんなそうと返せば、いいからやってみろとゲームに入れさせられた。
そこで理解したのは、動かしてしまえば歪な形になって二度と同じにはならないこと。
そして、崩してしまったほうが負けなんだと言うこと。


柳に、ノートを渡されたときに言われた。
彼女をどう思っている?と。俺は真面目な顔で答えた。
 。クラスメート。
ご飯を食べることが大好きで、素晴らしい運動神経と気さくな人柄とかっこいい人。と
はぐらかされたと分かった柳は、それ以上何も言わなかった。
ここが柳のいい所だろう引き際をちゃんと分かっている。
今の俺は質問に対して明確な答えを持っていない。
あえて、答えるならば子供ながらの崇拝じみた憧れとしかいいようがない。
それ以上の思いは全部分からないで閉じ込めて。
じゃないと気付きたくないことにも気付いてしまう、
俺と彼女の関係は、ただのクラスメイトで、真田以下だってこと。
休み時間も昼休みも、君は楽しそうに真田をからかっているけど、
俺の元に来ることはないって、そんなことを認めたくなくて、無理やり二人の間に入っていった。
彼女は相変わらず何を考えているのか分からない目をしているけど、
なぜかキラキラ光ってて、視線なんて合わせられない。
外では、みんなでドッチして笑いあう姿を見ているだけで、胸がドキドキして苦しんだ。
ああ、光で汗が反射して綺麗。
俺と知り合って結構経つのに、最初と変わらずに、
真田とは友好を深めていく姿に何度怒りをぶつけただろう。
でも、特別って言われただけで、君にとっては適当な言葉でも
俺にとっては最重要な言葉で簡単に気分は浮上する。



理不尽だって分かってる、だから今日はいい日で、境なんだ。

仁王により、俺の家に今さんがいる。しかも俺の部屋だ。
よくやった仁王。お前の噂は流さないでおくよ。
とても嬉しいけど、いるというだけで、やばいし
傍にいると顔を赤くしているだけで終わってしまいそうなので
ちょっとお茶とってくるといって下へ降りた。
彼女が家にいるというだけで、全てが違って見える。階段も壁もテーブルも椅子も、
椅子は本当に変わっていたけど。そういえば昨日買ったっていってたっけ。
冷蔵庫に真っ直ぐ向かったらなにかぶつかった。まぁいいや。
今は最重要事項である食糧確保しか頭の中にはない。
冷蔵庫を開けると姉さんのとっておきのアップルパイがあった。なんて運がいいんだ。
餌付けたらまたきてくれるかなって想像して、そっと箱を取り出して皿にのせた。
もちろん、全部彼女のものだ。他のやつらの事は知らない。
俺の脳内ではさんが笑顔で俺の名前を呼んで、美味しいって笑ってくれて、
もう真田なんていらない精市だけでいいって、言ってくれるなんて
ありえないけれど思わず笑みがこぼれる。

「幸村、大丈夫?」


どうやら、俺の妄想は目にも映るらしいと末期だなと思えば、
本人で焦って皿を落としてしまった。

手に傷が付く、頭の中ではテニスのことで一杯になったのに彼女に触られた途端彼女で一杯になった。
なんて単純なんだ俺は。彼女の手際が良くて離れていく手の温もりを寂しく感じるのもつかの間、
彼女は壊れた皿を片し始めた。なんて情けない俺。破片は危なくて危険なのに。


「だって、さんはお、女の子だし危険なことさせれないよ」

「んーどっちかというと、幸村のほうが可愛いし、私はほら、頑丈だからちょっとやそっとや
傷つかないんだけど」

さんはそう言って笑った。さんの笑顔はいつもキラキラ輝いていて綺麗で、
俺を可愛いと言うなら、さんは依存性を含めた可愛さとしか言いようがない。
そんな考えをどうにかすみに置いて、俺はさんの言葉を反芻する。
怪我を治してくれたときの顔をみて、俺がテニスプレーヤーだから気を使ってくれるのは分かった。
いとも簡単にカッコいいことをしてくれる彼女に、自分が男だって忘れてしまいそうになる。

言いたいことたくさんある。
言えたこと少ししかない。
ここで言わなくちゃいけない気がして。
でも、頭の中で止める俺。
天使も悪魔も声をそろえて言う。このままでもいいだろう。
彼女に憧れているだけなんだろう。嫌われるよりも今でいい。
それもそうだって言わないって決めたのに、彼女の横顔を見ていたら口が滑っていた。

言ってしまったあとは、ずっと後悔。
彼女は一言、そうといって以来何も喋らないで椅子に座って俺を見ていた。
いつもならば、見られていることに心臓がバクバクいっている今は違う意味で爆発しそうだ。
嫌われたかもしれない。そんな思いが頭をしめて泣きそうだ。
言葉は取り返しがつかないと分かっているのに、手に持っている皿にはアップルパイの変わりにクッキーになっていて、
甘酸っぱい匂いは、近づかないと匂いが分からないほどのものに変わっていた。
相変わらず彼女は、何も言わずよく読めない顔していた。

俺は今とてつもなく情けない顔をしているだろう。
神の子と言われてきたがそれはコート内だけで、他はまだ子供だった。
それに気付いてくれた人は少ない。
部員ですら、どこか一線を感じるのに、彼女は違った。
俺に気付いてくれたと言うよりも、
子供だらけで背伸びしている周りの中で彼女だけはそのままで、自然であった。
俺の憧れは彼女で、彼女はいつもカッコ良かった。
俺とは違う何かを持っていて、それが羨ましくもあり、
彼女だからこそ輝いているものだと信じて疑わなかった。

だけど、彼女は。

「幸村」

思考は彼女の言葉で中断された。何を言われるのか身構えれば。

「うん、きっと多分、ありがとう」


彼女はいつもの無邪気な微笑みじゃなくて、優しさを称えた微笑を零していた。
目が覚める思いというのはこういうことだろうか。
俺は自分自身の感情をよく分かってはいなかった。
カッコいいと憧れる感情と、もう一つのまったく逆の感情。
口に出てしまった思いを。

彼女は、女の子で、傷ついて欲しくない。

今なら柳の質問に答えることが出来るし、真田や仁王への攻撃だって理不尽じゃなくなる。
動いてしまえばもう二度と綺麗な形であることは出来ない、
それでも、僕は君の傍にいたい、君の一番傍にいたい。
負けるのは嫌いでも、惚れたら負けって言葉があるくらいだし。
君なら全て愛おしく感じるから。


まずは、俺を可愛いじゃなくて男としてみてもらうことにしよう。
それと真田への制裁を強くして、よく理解している仁王からは情報と言う情報を吐かせよう。
フフフフフ。楽しみだ。

君を絶対誰にも譲るわけにはいけない。













2009・8・2