これで
これで私はもう完全な傍観者になった
それは少しだけ悲しいことけど私の心は静かだった
最初からこの世界で私は傍観者だから



「にへへ。ちゃん私恭弥さんと付き合うことになった」


玲奈は笑った
玲奈が笑うたびに髪が揺れる。
長くさらさらと流れる髪からふわっと香る彼女の匂いは太陽の匂いだった


「良かったね」


は満足そうに笑った
それは周りから見れば悲しさを押し堪えているように見えただろう
無理して笑っていると

は笑った
自分が言いたかった名前も
自分がなりたかった関係も全部嘘だったかの様に
からは何の匂いもしなかった


幾人もの人がを慰めた
慰めたといっても遠巻きでの同情の視線だけだ
それをみて玲奈は嬉しそうに微笑んだ
の笑顔になんの疑いももたないで優越感だけが彼女を支配していた



狂おしいくらい求め続けているものがあるとするなら
それは



久しぶりに屋上へ来た
ツナ君のとき以来だろうか
バカと何とかは高いところが好きだというなら
私はバカということになる

は柵の近くで仁王立ちして空を見た
その姿はすべてを受け入れているようで
その姿はすべてを拒否しているようで

雲一つ無い青
痛すぎる太陽
授業をサボってまでみたかった光景がこれだったのかと思うとは自然に笑みが出た

昨日のカンが当たり玲奈と雲雀先輩は付き合うことになった
最初から二人が出会ったときからそんなこと分かっていて
いやそれよりも前から私はそうなるようにリサーチしていた
だから結果がでたそれだけだ


どこの組か体育をしているのか
わぁわぁとした声が聞こえる無邪気に笑いあい怒りあう姿
目をそらした
太陽が眩しすぎたせいだ

もう、帰らなくては
は扉に近づこうとするといつからいたのか山本君が立っていた

「よう」

「サボリですか?」

「はは、京洛だってサボリだろおあいこ
だからそんな顔すんなよ」

そんなに変な顔をしているつもりはなかった
山本くんは爽やかな笑顔のまま私の近くに来ると空をみていた
会話がないまま、少ししてはポツリとしゃべった

「今日はとてもいい空なのですよ」

「そうだな。こんな日は野球がしたくなる」

山本はしっかりと前をみつめて嬉しそうに腕をさわる
よほど野球がしたいのか
口元にうっすら笑いを称えながらは言った

「私アナタのそういうとこ気に入っていますよ」

「ん?」

山本はの方へ顔を向けた
は山本を見ずにそのまま話を進める

「何かに一生懸命になるとこ。それが純粋で一途で昔よく貴方になってみたいと思ったことがあります」

「そうか」

「ええでも」

はゆっくりと山本の方へ顔を向けて口元から笑みは消えその眼差しは真剣だった
と山本の視線が交わる

「今はなりたいと思わないのです。私は私にしかなれないから山本くんには山本くんだけなのですよ」


山本は、ぽりっと頭を掻く

「・・・よくわかんねぇけど今の俺の方が俺らしいってことか?」

「はい。今の方がずっと前よりいいと思うのですよ」


はいつもより自然な笑みを浮かべた
山本は何かその場から考えるような停止しているような状態が数秒続くと

「なぁー京洛」


「はい」


「俺さダチが出来たんだ心から信じられるダチがさ」


「はい」


「で俺はお前ともダチになりたい」


「友達?」

は山本の顔を凝視した。
山本は爽やかな笑顔でけれど目だけはえらく真剣に話続けた

「というかうん、京洛は俺のダチだ。なんかあったら愚痴でも聞ける」

「え」

「そうだ。京洛って二人いるから今日から俺って呼ぶからさ、俺の事も名前呼びでいいぞ」

「ま」

「よし、そろそろ飯時だし一緒に飯くうか」

「え、私は」

「なんだ俺が友達だといや?」

悲しそうにシュンとなった顔はいつもの同級生のものではなく母性本能をくすぐるものだった
しかもつかまれた腕が強く握られている
体全体で山本の感情を直に伝わる

「そ、それは反則ですよ」

は手を額に当てた
友達なんて・・・いらないのに
そう心の中で誰かが叫んでいる
けど目の前の現状を突破できる術が無い




この日私は雲雀先輩から失恋?した
そのかわり半ばむりやり山本・・・いや武くんがと友達となった。






2008。7。19