顔を見て言わないと駄目だ、けど私はそれが出来なくて、そのまま
背を向けてもと来た道をもどる。
暗くなった空に、光が灯った場所を目指した。
きっとここから始まる未来を考えて。
最初にくだらない家訓を捨ててよう。
それから情報、柊のあの調子だと私に味方しないということはない。
一己と紅には、昔自分が使っていた奥の場所を渡そう。
あそこは、敵に狙われにくい。鏡ちゃんは治療中だし、
そういえば、怜奈の態度が180度変わっていた。
お姉さま、ごめんなさいといって泣いて抱きついてきたときは頭の心配をした。
怜奈とのことは今回うまく修復できたみたいだ。
それとツナ君たちに、ありがとうってお礼いってボンゴレに今回のことについて謝って、
全世界に散らばってる京洛家を一度集めて、
・・・・・・やることは一杯ある。
なのに、背中に感じるのは温かい温度。
何をされているのかショートしてよく分からない。
えっ、なんでこんなことになってるの?と心の中で慌てて
後ろから伸ばされ自分を抱きしめる手を振りほどくことをしろと
冷静な自分は言っているのに声すらでない。
「キミは馬鹿だよ」
耳元で声がする。ビクンと体を震わせた。
自分の腕のなかですっぽり入った小さな体。
これがさっきまで自身が適わない相手を一瞬で倒した人物かと目を疑いたくなる。
自分の鼻をくすぐるのは白い髪。それをみて怜奈の部屋で見た
なくじゃくる少女が君だと気づいた。
キミは馬鹿だ。
さっき言った言葉をもう一度心の中で呟く。
抱きしめられて何時間経っただろうか?
本当は何秒か何分かぐらいだろうけれども体が感じる時間は一向に遅い。
一言言ってから雲雀さんは、動かない。
段々と頭が動き始めて、私はまたこの手を振り払わなくてはいけないのかと
憂鬱な気分になった。
けれど、それをしなくては前へ進めない。だから、
「私は、雲雀さんが嫌いです。最初からずっとそう思っていました。
貴方はとても強かった。貴方の自由さがとてつもなく憎かった。
私にないものをもった貴方が羨ましかった。
私が貴方を好きだといったのは、すべては怜奈のためです。
怜奈がいなければ私は貴方をみることもなく貴方と喋ることもなかった。
今、怜奈と貴方が別れてしまったのならば、なんの繋がりもありません」
沈黙が重い。
顔を見なければ、私の本能がそれを阻止しようとしているけれど、今度は理性が勝った。
強引に体をねじれば、
貴方は・・・・・・なんて顔して。
「知ってたよ。そんなこと。キミが最初から嘘つきだって。
分かってたよ。
キミは最後まで嘘つきだね。ねぇ、なんで僕から離れていくのが
キミにとっての望みなのに、なんで、泣いてるの?」
「えっ?」
自分の顔に手をなれば温かい水が感じられた。
そんなはずはない。私はあの日から泣かないって決めて、
泣きたくとも体が拒絶して泣けなくなったのに。
それなのに、なんで私は泣いているのだろう。
温かい眼差しを感じる。私は泣いていることが信じられなくて、
その眼差しがとても苦しくて、彼の胸を叩いた。
「わたしは、京洛 です。 けれど、桜華 でもあるんです。
こんな姿、誰にも見られたくない!
泣いたらすべて終わってしまう。私は昔の私を捨てて今の私になれたのに、
また、戻っちゃう。なんで?
嫌い。きらいだ。こんな、感情なんていらない。こんなっ、馬鹿みたいな
温かさなんて知らない!もう、離してよ。満足でしょう?弱った私を見れて、
離してよ。行かなくちゃいけないの」
そのまま、体をねじって腕から逃げようとしたのに離してくれない。
「ヤダ」
卑怯だ。その顔は・・・・・・雲雀さんしか見えなくなる。
「キミがまた独りになるのはヤダ。ずっとそのまま生き続けるつもり?
僕がいるのに、独りになるつもり?」
「だって、私は独りでいなくちゃ、傷つけて壊しちゃう。大切な人ほど壊して
一人になるのはもう、たえれないよ。大丈夫だっていっても戻れない。
怖いよ。そんな思いするくらいなら最初から独りでいい。
独りがいい。いつか必ず独りになるならもう独りでいい」
「本当に、馬鹿だキミは。僕がキミを独りにすると思ってるの?」
「絶対なんてない」
「うん。僕もそう思ってた。キミの呆れるくらい馬鹿なとこや物覚えが悪いとか
意外と料理が上手いとか、人の気持ちに不器用な所とか、
何度も嫌になって何度も忘れそうになっても、思い出す。
キミとであってほんの少しかない間だけどこんなにも埋め尽くす。
いなくなったら、探してどこか行くなら捕まえて、こんな気持ち一生忘れない。
キミを独りにさせるなんていまさらだよ。
どこにいても何をしても独りになることはない。僕をこんなにさせといて、
キミがなってないなんてそんな訳ないだろう。キミも僕を忘れない。
だったら、もう独りじゃない」
「なんて屁理屈」
「キミにはこれくらいがいい」
雲雀さんは、私の涙を指で拭って、ふっと力が抜けた顔で笑った。
はじめて見た顔に呆気にとられる。
「一回しか言わないから聞いて、好きだよ。愛してる」
段々と近づいてくる顔に目をとじた。
月明かりが出てきて、二人を照らす。祝福のように照らされた光は影を生み出した。
影が伸びる。
二人の体と体がくっついて離れないとばかりに。
顔が見れるようになって、隣の人を除きこむ。
まだ、顔が赤いのなんてどうせばれないだろう。
「何」とこちらを向く。いまじゃ、苦しかった気持ちなんて嘘みたいだ。
憑き物が落ちたような気持ちで私は笑った。
その笑顔に驚いているなんて知らないまま私は言う。
「好きです」
やっと心から笑えた。
2009・2・11