あの時の気持ちをなんていえばいいのだろう。
意識が朦朧として、自分がかき消されていく。

これが’死’。

絶望ほど暗くなくて、希望ほど明るくはない。
ちょうどいい温度に、秋のような雰囲気をもって、私を包み込んだ。

一瞬、本当に死んでもいいと思った。
それが、骸が私や皆にかけた暗示だったけれども。

体と精神体が別々であるように、
私は黒い世界で自分を見つめていた。

首だけになった私を抱きかかえる。
時々、チカチカ世界が点滅してそれが石だと分かる。
変にリアルティがあるのは、骸の幻想だからだ。

みなの話を聞いて、自分の思い通りに話は進んでいくのに。
一つだけ、予想外がおきた。

それは、いつでも貴方がおこす。
繰り返し過去を思い返しても貴方だけが予想外の行動をする。

それは、とてもむしゃくしゃして胸をかきむしりたくなるようなむず痒さ。
私は自分のために生きれないと悟ったときに、自分の愛しい人は出来ないと思った。
もう自身の種を残すことに意味を感じなくて、自分と同じ道を歩むくらいなら
最初から、生み出さないほうがいいと思ったからだ。
それと、その感情が理解できないとも思った。
そのことに関しては、一己が羨ましく感じる。
だって、一己の感情はまぐれもなく愛だったのだろう。
ならば、
私は彼を愛していない。
あのときの感情は、感傷によって導きだされた一種の気の迷いだ。


だから、このときを待ちわびてもいた。
私がちゃんと自身をみて生きるために必要な儀式だとも思う。

彼は、相変わらず肉食獣のような瞳の輝きに黒猫のような外見。
細身でしなやかな体、黒い髪は真っ直ぐで、
学らんが風になびく姿でさえ一枚の絵のようだ。

彼には、悪いことをした。
関係のない人物を巻き込んでしまった。悔いがあるかといわれれば、ないとはっきりとはいえない。
だが、最良だったとは思う。

怜奈と恭弥先輩の組み合わせは悪くはなかったし、
別れてしまったという情報を知っている今でも、
怜奈にとっての最悪に耐えうれる人物を施せたと思っている。
ゆえに、怜奈は壊れなかったし壊されもしなかった。
一己が怜奈を利用するのではない。この可能性はきわめて低かった。
利用するのは、京洛家の奴らだ。
怜奈に男がいてそれがボンゴレだと知った時から、怜奈に手出しをしなくなった。
奴らはちゃんと裏社会のマナーを知っている。
怜奈を彼にたくしたのはそれだけではない。
はっきりといえば、今回の戦いに私は負けると思っていたのだ。
良くて、飼い殺しだろう。と、生きてるなんて想像もしてなかった。
私の死んだあと、彼に怜奈を任せようとしていたのが一番の理由だ。
鏡は、私をおってくるだろうから。
怜奈を一人にさせたくはなかった。だって、それは父さんとの約束だったから。
一度目は破ってしまった、二度目はちゃんと叶えたいと思った。

けれど・・・・・・
私は、なんて打算的な女だろう。
自分でも嫌になる。
急に必要なくなったからいらないなんて。

彼の視線が私を射抜く。彼が言わんとすることが分かって、
口を開く前に口を出す。

「どうやら、私は生き残ったようです。心配かけてすいません。
ああ、学校サボらせてしまいましたね。風紀委員の仕事・・・・・・
草壁さんにやらさてませんか?彼は優しい人なのでできるだけ
いたわってください。それと、戸棚にクッキーがあります。それ、そろそろ消費が近いので
食べてくださいね。それと」

「なに、言ってるの?」

「・・・・・・雲雀さん」

元の呼び名をよぶ。きっと私たちはこの関係でよかった。
私が一方的に好意を抱いてそれを嫌悪する関係で。

今から、私はあのときよりも関係のない他人になる。

「私は、これから京洛家を変えます。何年何十年かけてでも変えてみせます。
だから、学校は辞めることになるでしょう」

彼が目を見開いたのが分かる。

「貴方との関係は、風紀委員長とその部下ではなくなってしまいますね。
でも、ボンゴレになったらいつかお仕事するときもあるかもしれません」

「なんの冗談?キミはまたいなくなるつもり?そんなの許さないよ!」

「いいえ、雲雀さん。

ーーーーーー私は最初からいないんですよ」

言葉にしてしまえばこんなにも単純で、こんなにもあっけない。
私はその場を去ろうとして雲雀さんが私をとめた。

「キミの、キミの本心はどうなの?」



雲雀さん、私は嘘つきです。
私の本心は。


「私は貴方が嫌いです」



私はこの日強力な力を最良で軽率な言葉にのせて吐き出しました。
これがすべてのおわり。







2009・2・10