パチンと指を鳴らして、宗主がにやりと笑った。
最初からすべて仕組まれていたことを理解した、
助けに来たはずが、実の所殺されにきたようなもので、
体に力を入れてみるものの、まったく動く気配がない。
このままでは全員殺される。
そう思った矢先に、ゾクゥと体に電量が走った。
ガタガタ震えて、悪寒に体を支配される。
周りの人が、仲間や自分に武器を向けたからではない。
それはなんて、懐かしい感覚。
「やれやれ、あなたはなんて愚かなんでしょうか。輪廻でも廻ってみますか?」
その声に皆が声の主のほうへ目を映してみれば、
あまりにも白く、あまりにも儚い、けれど確かに存在していた。
白い着物は大半が破けて、背中が見えており紅い牡丹の刺青に
雪のように白い髪は結う紐が切れたのかふわふわと舞って
夢のような、いや言ってしまえば幻覚のような光景だった。
・・・・・・幻覚って言葉ほどお前にぴったりなものはない。
なぁ、そうだろう?骸。
宗主の後ろに立ち、あの子とは違う笑みを抱いて、六と刻まれた瞳。
「さぁ、もう終わりにさせましょうか」
パァンという音が聞こえたと思うと、俺達の体は自由になり、
柊の錫杖は大破して、周りの武器を構えた人々は音もなく倒れこんでいた。
宗主の体は、いつのまにか動けなくなっていた、
どうやらの技を使われ、ツボをつかれたようだ。
宗主は、舌打ちをしながら後ろに立つ人物を睨んだ。
「おまえは、誰だ?」
「僕を知らないのですか?いいえ、そんなはずはない。あなたは僕を知っているはずだ」
「まさか!・・・・・・そんなはずはない。
お前は牢獄の中のはずだし、契約していたなんて事実はまったくなかった」
「クフフフ。あの時ーーーーーーーー
最後の守護者との戦いのときに、とあいましてね。僕というよりもクロームですけど。
驚いてましたよ。そのときに、僕は彼女と契約をした。
クフフ、フフ。
僕はとてもあなたに逢いたかったんですよ。長年の夢が叶って、とっても気分がいいです。
ああ、そうだ。
あなたにお返ししなければならないものがあるんですよ」
そう、骸がいうと細い腕を宗主につける。
「・・・・・・・一己様!!!!」
宗主の従である、紅が初めてあげた声は悲痛な声だった。
いつのまにか、鏡によって押さえられており、手を伸ばすことしか出来ない。
の細い腕から、大きなムカデのような昆虫が這い出ると、そのまま宗主のなかへと入っていった。
「あなたのです。責任もって一生飼ってなさい」
息苦しそうな宗主の声が響く。
それをの体での声で骸が冷たく見下ろしている。
「僕はあなたが嫌いです。
彼女はとても優しい。それは愚かなまでに。僕はそういう彼女が好きです。
けれど、自分の身を削ってまでもあなたの毒を身に飼いつづけていた。
救えないほどの馬鹿なんですよ。は、あなたの技を返そうと思えば返せたのに
・・・・・・の罪ってなんでしょうか?あの馬鹿はあなたにさへも罪を感じていた。
天才とは孤独である。まさにその通りです。常人には理解できない考えをもつ。
自分自身の力を憎むあまり体をボロボロにしてまであなたの技を受け続けた。
そして、あなたへの罪の償いのために、あなたに技をかえさなかった。
僕は、あなたが大嫌いです。
そんなことなんて知らないで、泣き散らかしている子供。死んでも憎らしい」
そう言い終わると、興味がうせたように宗主から目を離した。
「六道」
「おやおや、いたんですかあなた無様ですね」
「・・・・・・は?」
骸を睨む雲雀に、骸は嫌そうに顔を歪めた。
「一つ、言っときます。僕はをあなたに渡すつもりサラサラありません。
ですが、そこのボンクラや使えない男にあげるくらいなら、万歩譲って君がいいと思うんです。
いいですか?僕が帰るまでの変りミノとして、を害虫から守りなさい」
「キミ何様?」
「ふん。負け犬ならず負け雀がチュンチュン叫びますね」
雲雀は立ち上がりトンファーを取り出た。
「ーーー咬み殺す!!」
「おや、この体に攻撃するおつもりで?」
黙った雲雀をみて、骸は笑った。
「あなたはまだ彼女を守れるほど強くない。だから、せいぜい頑張って強くなりなさい」
そういって目を瞑れば、彼女を纏う空気が変わる。
禍々しい空気から、穏やかな空気へと変化する。
目をあけると、自分をみている雲雀ににっこりと笑った。
「恭弥・・・先輩、ありがとうございます。鏡も時間稼ぎありがとうね」
は、そういうと苦しみもがいている宗主の元にしゃがみこんだ。
「数時間振りですね。元気ですか?」
「げ、げんきに見えるか?」
「息しているから大丈夫。ねぇ、一己。否定したけど、私たち、結構似てたんですよ」
は、一つ深い息を吐く。
「私は、鏡がいったふうな人間じゃない。
自分の身を省みず、優しさで他の人を守るそんな聖人君子とはまったく違います。
私は、欠落していたんですよ、最初から。
自分のために生きることができないそんな人間です。
私は自分の汚さをよく理解していた。
だから、素で生きることも自分という存在を愛することが出来なかった。
けど、誰かに自分を認めさせたくて、きたない手を使ってでも傍にいて欲しくて、
私は、怜奈を使い人生を得て、鏡を自分に束縛し、貴方を悪者に仕立て上げた。
それが、私が貴方に感じていた罰です。あの時、私はあの試合を放棄することも出来た。
そうしなかったのは、父に私という存在を認めて欲しかった。
約束を守っているってちゃんと伝えたかった。
そして、貴方を倒したときに褒めてくれるってちょっと期待して。
・・・・・・・・・ただのガキだった。
こんなことになるなんて・・・・・・思わなかった。
ずっと指摘されるのが怖くて、世界が私を攻撃しているようで、
本当は死にたくてしかたなかったけど、死にたくはなかった。
一人が怖かったんです。
貴方も私も、天才なんて一人に言われればそれで良かった」
2009・2・7