、何があっても大事な私の子』


が、一己に勝ったことは、宗主により口外禁止となった。
しかし、重鎮共が騒ぎ始めた。
京洛家の掟や、宗主交代について、それとの背中に咲いた紅い華。
代々、京洛家の長となるものは紅い華の刺青が浮きでる仕組みとなっていた。
時期宗主となるのは、でもいいのではないかという声があがった。
事態はこくこくと悪化し、京洛家の内部が二手に別れた。

一己派と派に。

毎日、毎日まわりのものが宗主に耳打ちしてくる。
今のうちに手を打たなくては桜華家が頂点に立つことになる。
あの子供は、すべてを乗っ取るつもりだ。
養子にして飼い殺すか、殺してしまったほうが宜しいんでわ?

宗主は、ため息を吐き一己の部屋を見た。
あれ以来一己は謹慎させてある、むろんもだ。
あの試合を思い出す。
親としてなんと情けない試合だった。
宗主としてとめるべき試合だった。
武道家として最高の試合だった。
あの試合で何人気付いただろうか?
素晴らしいスピードとテクニックを。
親ばかではないが、気を抜いてたとはいえ一己に敵う者はなかなかいない。
あの年でもはや他の分家の当主さえ敵うかわからない。
一己はこのままいけば自分よりも強い男となるだろう。
その一己にガードもさせず二本の指で何周りも小さい女の子が倒したのだ。
自分の目に狂いはなかった。彼女はまさしく一世紀に一人の天才だ。
そして、の姿を思い出すと、体の中に電流が走ったかのような気分になるのだ。
彼女の試合は魅了するものがある。ただ強いだけの小さな女の子に
年も食って裏も読める狐と狸がたった一回見ただけであと押しをするわけがない。
だからこその事態に宗主は頭を痛めた。
自分の子供に跡を継がせたいという思いがある。
けれど、周りが彼女を抱き込もうとするだろう。
ならば、


一己とを婚約させてしまえばいい。


そうすれば、次の代の子供は優秀な遺伝子が残るはずだ。
宗主は、様々な問題をすべて蓋をしてその計画を推し進めた。
狂気にも似た異常さで。
周りのものが、化け物に囚われてしまったっと噂を流すくらいには。
そのときからには『桜華の鬼』という名前がついた。
住まわせる準備も全て整いあとはを連れて来るだけとなった。
桜華へと足を進めると桜の花びらが一枚ひらりと舞っていた。
その姿にあの日のの姿が重なる。
そして、自分の友人の姿に重なった。

桜華家で、桜はまだ8分も咲いていなかった。
チチチと鳥の鳴き声とさわさわと木々の音が重なり合って穏やかで静かだ。
宗主は慣れたふうに当主の部屋にいた。
ここの場所は好きだ。京洛家では得られないものがある。
武道家として一緒なのにこんなにも差があるのは、

「おまたせしました」

この男の生き方だろう。
目の前に血とは無縁の世界に生きてそうな柔らかい顔つき、細い体、
おっとりとした雰囲気、髪は腰までありの覚醒の時と同じ白い髪を後ろに流している。

「今日はどうしたのですか。まだ桜は咲ききっていませんよ?」

だが、外面で侮ってはいけない。この男これでかなりのくわせものだ。
全てを知っていて、知らない振りをする。
細い腕のくせに意外に力がある。技をくらってしまえば自分も一己と同じになるだろう。

いや、今日は戦いにきたではない。話し合いもとい申し込みに来たのだ。
宗主は、口を上げで笑った。
こいつも何かしら大変だろう。きっとこの意見に賛同してくれる。
そう思い、自身の計画とを渡せと言った。
当主はお茶と目の前にあるいもようかん一斤を一人で食べきった。
こいつは大食らいの早食いだ。いつもながら細いからだのどこに収まっているのか疑問だ。

ズズズーと音を立て最後のお茶を飲み干しおく。

「あなたは勘違いをしていらっしゃる」

「ああ?」


「私が賛同するとお思いですか?は京洛家にあげません」

柔らかな顔つきをした男の顔が変わった。

「理由は知っていらっしゃるでしょう。私は京洛家が嫌いなのです。
古くてカビが生えてそうな教訓などまっぴらごめんです。
それに、京洛家にいて何人が正常の心を持っているでしょう。
薄汚いやからのほうが多そうです。私はにそうなって欲しくはない。
は優しい子です。自分のためには決して技を使わず、私のために使いました。
あの試合は、無理やりでも止めるべきだった。
そして、あなたは私のところにくるよりも先にわが子を叱りなさい。
そうしないとあの子はもっと悪くなってしまう」

「俺に意見するつもりか?」

「助言です」

はよこさないと・・・・・・そういうことだな。それがどういうことか分かってるのか」

「あなたは以前のあなたではない。力のみを欲している獣だ。
をあなたにはあげません」


白い桜が真っ赤に染まった。
誰かが火を放ったのだ。みな逃げるものの、京洛家からの刺客によって次々殺されていく。
怜奈の部屋にいた母親はに怜奈を預けると当主の部屋へ走った。
は、小さくて温かい怜奈を抱きしめ泣きながら燃える桜の中、
向かう場所もなく走った。聞こえてきた声に向かって。






2009.1.23