時間さえも切り取って閉じ込めた写真は、
誰かに見せれば嘘だと言われそこで終わるようなものだった。


みなを戻させたのは、人か動物か区別がつかない叫び声。


宗主は手についた血をうとましそうにみて腕を振るい
それが、目を開いたままのの顔へついた。

綱吉は、呆然とすることしか出来なかった。
脳が理解を拒んでいる。
死ぬということに近いものをみたことがある。しかし、それは身近な人ではない。
それにこんなに近距離ではない。
血の強烈な匂いに赤い色。
胃の中がぐつぐつと煮えて嘔吐しそうになる。
生理的な涙がつぅーとたれた。
横で、山本は、嘘だろうという声を言うと、空ろな目でを見た。
の顔は比較的穏やかなもので、苦痛に苦しむこともなく最後の顔のままだった。
長い三つ編みがほどけ、白くゆったりとウエーブしている髪は、半分以上が赤く染まっている。
山本はが死んだということを認めたくなくて何度も何度もその光景を見ていた。

その場所に、いち早く着いたのが怜奈であった。
怜奈は、宗主の前まで来るとぺちんと頬っぺたを叩いた。
力のない音だった。
それから、静かにの首をとると目を閉じて抱きしめた。
感情の抜け落ちた表情をした怜奈の顔から涙だけが絶え間なく溢れてた。
の髪は濡れ、怜奈の服が徐々に赤く染まる。
しかし、怜奈はそれすら気付かないように
冷たくなろうとしている首を暖めるかのように抱きしめた。


パチン


部屋が静寂に包まれた中。その音はよく響いた。
その音は、コンセントをいきよいよく抜いた音に似ていた。
ゆらりと黒い影が揺れる。

いつも以上に禍々しい殺気を出しその人物は、宗主の近くに行くと
頭を狙い自分よりも大きい宗主にトンファーを振った。
宗主は、それを避けたが、頬から血が流れる。
それをペロリと舐めとった。

「柊。なぜ解いた?」

「解いていませんよ」

「あん?」

「彼が私の術を破ったのです」

柊はさっきまでの余裕の表情を崩し若干気分が悪そうに錫杖に寄りかかっている。
宗主は、目の前の中学生を見た。
怜奈の恋人だと、紹介されたときから気にくわなかった。
雲雀の目を見れば、殺意がしかない。
色々との周辺のことを調べさせていたが、あの情報はデマではないようだ。
二人が、好きあっていたという情報は。
ますます、目の前の雲雀が憎くてしょうがない。

「殺す」

そういった雲雀に、同じ言葉を返した。

ガキンという音とガスという音。勝負が分かるのは短かい間だった。
雲雀は血を吐き、宗主はそんな雲雀を冷酷な目で見つめている。
それから、ため息を吐くとポリポリと頭をかく。

「全然駄目。お前弱いよ。本当なんではこんなの選んだんだ?」

という名前に雲雀はピクリと動き顔を上げた。

「あーむかつく。お前さ。死んじゃってよ」

「それは、こっちのセリフ。君は絶対殺す。僕が殺す」

黒い瞳の色をなお黒くして雲雀はトンファーを構えた。
それに合わせて宗主は肩幅と同じくらい足を開くと右手を前に出し構えをとる。

にらみ合いが続き雲雀が先に動いた。
真っ直ぐに突っ込んだ形で振り下ろす。
そこに宗主が左を出すと、雲雀はそのまま下へしゃがみ
上から突き上げるようにあごにトンファーをうつ。
宗主の足が雲雀の腹に入ったがそのままくるっと後ろに回ると頭をすべての力で殴った。
道場の中で凄い音がして、宗主の頭から血が流れた。
そのまま殴打する。ガスガスと息継ぎもないのれ連打は、宗主への憎しみをあらわしているようで
絶え間なく続いた。はぁはぁと息切れをするころには汗が流れたいた。

目の前の人物は動かない。逆上した頭が冷える。
殺したというのに、虚無感しかない。心がポッカリ空いてしまった。
ぐっとこみ上げてくるものを押し込めて怜奈をみる。
真っ赤な彼女に汚れることを嫌っているように白い君。
近づこうとすれば、怜奈が何かをいっていた。
本当はもうどうなっても良かったのかもしれない。
だって、君はここにいない。
後ろで死んでいた男は、生きていて雲雀を地面にねじ伏せた。
顔が血まみれだったが、宗主はなんでもないように笑った。
ギリと骨がきしんだ。

「あれくらいで俺が死んだと思ったか?甘いな」

雲雀は、しかみていなかった。
宗主の顔の血をいつの間にか傍に来ていた紅が拭う。
雲雀の骨を折ろうとしたところで、怜奈が声をあげた。

「恭弥さんは関係ないよ。もうこれ以上殺さないで」

「駄目だ」

「なんで?」

その言葉に、宗主はあやす様に怜奈に言う。

「怜奈、分かっているだろう?歯向かうものは死のみだ」

ちゃんのことは一度助けたでしょう。もういい。ちゃんは死んだ。
あなたが、殺した。それでおしまい」

「・・・・・・なんで泣く?怜奈。俺とお前は復讐を果たしたんだ。
喜ぶべきところだろう。自分で殺せなかったからか?
怜奈。お前はちゃんと復讐を果たしてたさ」

「え?」

怜奈が、疑問を言う前に宗主は言葉を続けた。

「そんなもの持っていないで、こっちへこい。おまえは京洛だろう」

雲雀から手を離し、怜奈の目の前に手を出した。
怜奈はぎゅっとなお強くを抱くと、
その手を見つめて手を出そうとした瞬間。

「い、っちゃ駄目だ。怜奈」

道場の柱に体を寄りかからせてようやくたっている鏡がいた。
紅は、懐に手を入れたが宗主がそれを止めた。
鏡は、結っていた髪がほとんど取れていて顔は左顔しか見えない。
赤と黒で飾られた彼は宗主を見た。

「お前は最悪だ。昔から何も変わってない」

「従うべき人間に言う言葉じゃないな」

「俺が従うのはたった一人だけ。怜奈」

ゆっくりと鏡が怜奈の方を向く。
怜奈は鏡に見られて一度だけピクリと動いた。
それから、意を決したように鏡の目を見る。

「聞いてくれ。
に口止めされて言えなかったけど、
お前の両親を殺したのもそこの男の両親を殺したのもじゃない」










2009.1.18