広い道場は、毎日掃除をしているようでとても綺麗だった。
裸足で道場を歩くと木でできている床にひんやりとした冷たさを感じた。
奥には、京洛家の家訓が真新しい墨で書かれている。
毎年変わるそれに私は興味などなくて、こまめに毎年文字を考えている
爺、婆どもを冷たい目でみていた覚えがある。
そんなことするくらいなら、紅白でもみていればいい。
道場に、宗主・一己を中心に壁にずらっと人が並んでいた。
見る顔、見る顔、重鎮ばかりだ。
そいつらが、私達を異質とも言わん目でみている。
彼らは、籠の中しか知らない、自身が異質であるとは露とも思わず
重く古く血なまぐさく意味のないごみよりも劣る京洛を守っている。
そんなやつらに、何万と文字を並べ有罪が無罪になるほどの力説をしたとしても
黒は京洛、白も京洛なのだ。
宗主は、高級そうな座布団の上に座るとにやにやと気味の悪い笑みを零し
横にいるに仕えている自分の従に酒を注がせると一気に飲み干し
ぷはぁと声をあげ口元を拭う。従は、空いた盃に酒をなみなみと注いでいる。
「で、今日はどういった用件だ」
「白々しいな。貴方は」
「ハハ、そうだった。お前は俺に許しをこいに来たんだろう?」
白い歯を見せて豪快に笑った。周りも合わせて笑う。
私と鏡ちゃんと奴の従・紅は笑わない。
宗主の従・紅を笑う姿を見れば、年月が経ったと実感できるのに
女か男か昔のままわからない風貌と格好の女は、あいかわらず無表情だった。
ただ、殺気だけが感じられる。従順な所もちっとも変わっていない。
私は、懐から鉄扇を出し口元を隠してはらりと一見優雅なそれは一種の構えで
「冗談」
その格好をみて、皆が黙り宗主は盃を飲み捨て立ち上がった。それについで紅も立ち上がる。
鉄扇から鏡ちゃんをみると、彼は武器をそろりととりだして臨戦態勢で紅を見ていた。
私は、笑みをもらし、鉄扇を振るった。空を舞い宗主に届かない場所から伸びる
それを宗主は柄のない日本刀で止める。
ダンと地面を蹴り二本の鉄扇でつばぜり合いをすればカチカチと鉄と鉄が擦れあう音がした。
「そう、急かすなまだそろっていない」
「貴方の都合なんて知りません」
宗主の押し返す力を借りてそのまま後ろに下がり距離を置く。
「本当にいいのか。。たった一回ここで謝ればお前は死ぬことはない」
宗主は、至極真面目な顔で私に問いかける。生きるということはとても魅力的だ。
でも、死ぬように生きるのははたして生きているというだろうか。私は、口元をあげ
挑発的な目をして宗主を見据える。
「それで、全てを見ない振りをして貴方の傍にいろと?それなら地獄のほうがマシです」
「それは、残念」
そういえば、タイミングを見計らったように両方とも武器を振り上げた。
ギンギィンと鉄と鉄のぶつかり合う音の二重奏が出来上がっていた。
鏡と紅の二人は庭に出て鉄線といくつもの武器がぶつかり合っている。
常人では見えない動きで敵に武器を投げつけそれを叩き落し、時には体術で
時には目くらませをしたりで立派に手入れされていた庭は徐々に風貌を崩し始めた。
道場の中では、本来の木と汗の匂いは完全に消され
血の匂い、鉄のこげた匂い、二つ交じり合った匂いが香っていた。
京洛家の中でも実力者であった彼らでもようやく目で追いつけるかどうかという動きに
息を飲み込んでいた。
力技でありながらもきめ細かい宗主の攻撃。
ふわりと舞えばさすようなの攻撃。
どちらもトップレベルの実力者ということが分かる。
しかし、徐々に差が出てきた。の方は体力が劣るらしく息ずかいが聞こえる。
宗主のほうは、立派な引き締まった筋肉に細かな傷がつき始めている。
このまま続けば宗主が勝つだろう。そう思ったが、からの異質な気が
気になって、断言することは出来ない。
かすかな息ずかいが確認できるほどに聞こえ始め宗主の傷が深いものに変わり始めた
それでも、なおヒートアップしていく攻撃に武器が耐えれなくなったのだろう。
二人の武器にひびが入り始めた。
それをみて、宗主が笑う。
「そろそろ、お遊びはこれくらいしとくか。」
そういって武器を捨てる宗主に大半のものがざわついた。
「ふ、馬鹿な人ですね。まだ武器なら勝てたのに」
も武器を捨てた。
「お前が寝ている間、お前より強くなったさ。それにやっぱ俺っていえば体術、だろ?」
ダンと道場全体が震えるほどの音をたて肩幅以上に足を開いて拳を握り締めを見据えた。
は、宗主とはまったく違う構えをした。柔らく攻撃が出来るかと思うほど柔らかな手首で
足を一歩だけ出して息を整えれば流れていた汗がひきさっきの姿が幻想だと言わんばかりに
穏やかに微笑んだ。
「それは知りませんでした」
二人は第二ラウンドをはじめた。
2009.1.14