「あなたたちは、馬鹿だね」
しんみりとした雰囲気の中、ポツリと言葉が発せられた。
みんなが、声の主をみれば怜奈だった。
怜奈は、足を組みながらその話に興味なさげで爪をみていた。
「それで、なんで行かなくちゃ行けないの?
ちゃんは勝手に野垂れ死にするだけでしょう」
冷酷な言葉に、雲雀は怜奈を止める。
「怜奈」
しかし、そのまま怜奈は止まらず話し続けた。
「ちゃんの我が侭だよ。たった一回謝ればすぐ終わるのに、しないんだから」
山本が、手を握り怜奈に近づくよりも先に、煉が信じられない顔をして机を叩いた。
「あなたは、妹だろう?」
その言葉に、怜奈は顔をゆがめた。
その事実がよほど嫌そうに。声は段々と荒ぶり震えてきた。
その顔には、向日葵のような彼女はなく憎しみしみだけが支配していた。
「だから、なに?愛せとでも言うの?無理よ。だって!
だって、父様と母様を殺したのよ?」
怜奈が立ち上がる反動で、椅子が倒れた。盛大な音を立てて。
重い静寂と共に、皆が一様に目を見開いた。
怜奈の言った言葉を頭が理解しない。
理解する代わりにの笑顔が浮かんだ。笑うとはかけ離れた笑顔を。
怜奈は、椅子を戻し、座ると荒立った声を平静のものにかえ続けた。
「それなのに、のうのうと生きて毒がなに?
宗主様の父親も殺したのよ。
それなのに生かしておいたあの方にこそ敬意を払うべきだわ」
怜奈の強い視線が皆を射抜いた。
その中で、綱吉はたくさんの疑問を抱いていた。
なぜ死ぬはずの人間が、生きているのか。なぜ毒が効かなかったのか。
なぜ。つきない質問の中、綱吉は口にした。
「なんで、大丈夫だったの」
綱吉の質問で、空気が変わり固まっていた錬と燐が答えようとして
柊に止められた。
「フフフ、私が言いましょう」
柊は、前と変わらない格好で錫杖をシャンと鳴らした。
ドアは開いていないのに、どうやって入ってきたのか。綱吉は疑問に思ったが
神出鬼没と考えて頭のすみに追いやった。
目はチャシャ猫のように三日月で、顔で見えている部分がそこだけなので
気味が悪い。柊はリボーンを見ると頭を下げて言った。
「私は義理堅いほうですからちゃんと約束を果たしにきました。おちびさん」
柊は、周りの見渡して自分に視線を集めると嬉しそうに語りはじめた。
「様は、毒が効かなかったわけでも、後遺症でもありません。
その事実をお教えするよりも見たほうがお早いと思うのです。
百聞は一見に如かず。
すべてを、知りたいのならば私についてきてくださりませんか?
今日は、京洛家が変わるかもしれない日です。そこで全ての謎が解けます。
どうしますか?」
行くか?行かないか?と手を差し伸べられ2択の選択を迫られた。
綱吉は、まわりの人たちの顔をみる。そして大きくうなずくと柊の手をとった。
柊は、綱吉をみて笑みを深めると手を離した。
「フフフ道中お話しましょう。もう、はじまっています」
そういって、ガラリと扉を開けて外へ歩き始める。
みんな着いて行った。が、煉と燐だけは、そこから張り付いて様にとりのこされた。
ピシャンと扉がしまる音を聞いてそれからやっと二人は声を出した。
「ついて行っちゃ、ダメだ。その人は・・・」
「無駄だ。煉。あいつぁ、俺たちがスクアーロから聞いた話をする前を見計らってきた。
・・・・・・もう、運しかねぇよ」
ギャハという音だけが静に響いた。
一方、柊は歩みを止めずに、話続けていた。
足の方は早く、喋りながらどうやってこのスピードが保てるのか、疑問に思いながら。
「まず、なぜ殺されなかったのか、抜けても京洛家の名前のままだったのか。
お教えしえしましょう。それはね。様は、宗主様の婚約者だからです。」
えっと声にならない声をあげ目を見開く。
玲奈はその事実を知っていたようで、変わらない顔をしていた。
この事実で、玲奈が謝れば終わるという意味を理解した。
綱吉は、婚約者だから手加減したのかな。と思えばその事を呼んだように柊が答える。
「けれど、手加減したわけではありません。あの時の宗主様の技は確かに決まっていました。
双子ならば確実に死んでいたでしょう。
様はちょっとずれたんです。威力を弱められまして、そして数年の眠りだけで
死には至らなかったのです」
「数年?」
「おやおや、そうですね。忘れていました。様と怜奈さんの年齢は一緒ではありません。
寝ているだけ、成長してなかったのです。あなた方よりも年上ですね。」
の事実を知れば知るほど、驚くことが多く。
それだけたくさんあったことを誰にも喋らなかったことが寂しい。
「宗主様の技を、完全に昇華したわけではなく、
御自身のお力をすべて制御にまわされたようで、あそこで力を解放しなければ
こういうことにはなりませんでした」
玲奈が下を向くと同時に、雲雀が問う。
「もう一度制御することは?」
「ムリでしょう。それができるのならあの方はこのような真似しません
それ以前に、日常動けるはずない体を動かしていたことだけでも奇跡です」
「どういうこと」
「あの方の筋力は低下して、手も足も動かせなかったのです。
動いている姿を拝見したときは、夢うつつの幻かと」
うっとりと、心酔しているしている姿は気味が悪い。
動いていることが奇跡という言葉に皆が黙った。
日常では、そんなことをおくびにも出さなかった。そしてそのことに気づきもしなかった。
どれほど、無理をしてが生きていたのか。
皆それぞれに、よぎる思いがあった。
長いようで短い沈黙の中。柊が止まった。
「着きましたよ」
「これは」
そこは、京洛家とかかれた看板に長い階段。
その奥に禍々しいと思えるほど大きな建物がそびえ立っていた。
いつしか宵闇になっていた。雲がオレンジと黒の狭間の色をして
長い階段の真ん中を避けて転がっている人たちも同じ色をしていた。
「先にいらしゃられているようで」
柊は、転がっている人たちをそこに存在しないかの様に進んでいく。
転がっている人を怖がりながらも、綱吉は聞いた。
「ひ、柊さん」
「はい、なんでしょう?ボンゴレボス」
一番、聞きたかった質問を。
「あ、あの殺したっていうのは本当なの?」
「・・・・・・どうなんでしょうね」
え、どういうことと続けられる言葉に柊は、シャンと錫杖を鳴らし振り返った。
白い着物が、赤く色ずきにんまりと笑う姿は。
「残念ながら、私は見れませんでしたけれど、そういうことらしいですね」
狂気そのものだった。
2009.1.12