「俺達は、一度死んだ。あの日あの時、
なんで生きてるのかって?それは誰かが変わりに死んだからだ」

「誰かは分かるでしょう?」

周りが静寂にみちた。いわれている情報に頭が追いつかない。
それでも、二人は話を続けた。語り手はもう、聞き手をおいていっている。
その姿は、過去を思い出し懐かしむようで、悔やんでいるようだった。


「僕達は、京洛家の分家です。だから苗字がない
いや、本当はあったかもしれない。けれど、僕達が覚えている記憶の中で
僕達の苗字はない」

「それは、俺達の親父が、京洛家から逃げて捕まったのもある。
元々、権力も力もない上に、一度京洛家を裏切った親父に
まっていた仕打ちは酷いもんだった」

「それは、僕ら家族にもふりかかってきた」

「俺達は、小さな小屋みたいなところで、いつ殴られるのかビクビクして生きてた」

「・・・・・・なんで、出て行かなかったの」

「行けなかったんだ。あの頃の俺らにはそんな力もないし、
反勢力と思われていたから監視もあった」

「籠の鳥だったよ。僕らは」

煉は、ぎりっと拳を握り締めた。
次の言葉を、言おうとしたがなかなか声にならない。
その姿をみかねて燐が変わりに言った。
さっきまでの、変な言葉ずかいでどちらかというと活発な燐らしくない
低く、小さな声で。

「・・・・・・ある日。朝起きたら母さんがいなくなっていた」

「父さんもいなかった」

「そして、扉が開かれて俺らは呼ばれた。宗主に」

「父さんと母さんが僕らを逃がそうとしていたらしい。その計画がばれて
僕らは、ある選択を言い渡された」


机をみれば、木で出来ており木目をたどれば端へ続く。
煉と燐は、口に出すにつれ過去を思い出していた。
あの日、連れて行かれた場所の床も同じ木で作られていた。
二人の体に今以上の怪我やあざがあった。
大きな男達が、小柄な二人の上に乗る。
二人は、なすがままに大の字の形で顔を地面に押し付けられていた。
小さな体がきしむ音が聞こえていたが、痛いとも言わずに二人は黙って前を向いていた。
暗い道場には、一つだけ光が差し込む窓があって。そこに宗主と誰かが座っている。
二人を囲んでいる男達はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
体が大きく威厳もある男・宗主が、酒を飲んで一息はくと、二人を見た。

「無様だな、お前ら」

宗主は、二人の傍に来るとかがんで聞いた。

「俺が憎いか?」

憎かった。体全体が震えるほど、人を殺したいと初めて思うほど憎かった。
けど、それ以上に生きたかった。

「ならば、選択をやる。このままこいつらに死ぬまで殴られるか。
それとも、この技を耐え抜いて生きるかだ」

宗主は、子供のいたずらのようにしか思っていない。
自分達の命は、ただの暇つぶし。そのとき、二人のなかで何かが切れた。
生きたかった。人間であるよりも動物しての本能がそれを大声音で言う。
けれど、人間としての思いがそれを超えた。
そしてそれは、宗主にツバをかけるという行動になった。
宗主の驚いた顔に、二人はお互いを見詰め合った。
よくやったと目でアイコンタクトをして、それから、二人は死を覚悟した。

「フッ、いい度胸だ。お前らには俺直々に引導を引き合わせてやる
じわじわと苦しんで死ね」

ぎゅっと目をつぶるよりも、最初から最後まで一緒にいた相方同士で
手をとりあっていた。次生まれても、一緒であろうと。
後悔は山ほどある。もう、少し生きたかった。もっと笑いたかった。
宗主の手に光が集まって、さようならかと二人で笑えば。

「待ちなさい」

この場所に似合わない、凛としたそれでいて丸みを帯びた女性特有の声。
宗主が、横にいた人物を見る。全て白い着物で高そうな服を着ていた少女。
だった。止められたことに、宗主は苛立ちを声に出した。

「・・・・・・なんだ」

周りの男達が震える中、は平然と言い放った。

「もう、うんざりです。貴方のその馬鹿げた思考に、馬鹿な行動。
貴方は、ツバを吐かれて当然な男です」

、俺にそんなこと言っていいと思ってるのか?」

「いくらでもいいます。体だけの馬鹿男。庭で、鳴きながら卵でも産め」

「ならば、お前が受けるか?」

「ええ、貴方の傍にいるよりも数千倍いや数億倍ましです」

「謝るなら今のうちだぞ」

「ふん。デタラメばかりでならべて弱者を攻撃して何が面白いんですか
あなたはただ実験台が欲しかっただけでしょう、ねぇ弱虫」


がそういうと宗主はすぐに攻撃を放った。
黒い大きなムカデみたいな形をしたものがの体に巻きつくとそのまま
体の中に入った。は、苦しそうにもがいて体を跳ねさせる。
息をするのに必死で口を開いている。

「蠱毒ってのを知ってるか?毒虫を壺の中に入れて競わせる。
最後に生き残ったものこそが最凶の毒だ。
それを相手に寄生させるのが俺の術だって、もう聞こえてないか?」

宗主はそういうと、立ち上がった。
最初はざわめいていたが宗主が出て行く姿を見て慌てて周りの男達もついていく。
最後に宗主は、煉と燐に向かっていった。


「おい、お前ら運がいいな。お前らのことは見逃してやる感謝しとけよ」

そういうと、頭の上で手を振って扉を閉めた。
煉と燐は、ぐったりとしているに駆け寄る。
悔しくて、惨めで、二人は泣いていた。

「泣、くな」

ぜぃぜぃとか細い息が聞こえる。は、目を開き二人を映した。
そして急に二人に温かくて懐かしい感触がした。
は、ゆっくりと二人を撫でていた。
それは、今はいない母親そっくりで二人はもう目の前が見えないくらい泣いた。

「お前達は、生きなさい」

そういって、優しく煉と燐を撫でた手はそのまま地に落ちた。
そこから何をしたのか何を言ったのか分からない。



錬と凛の前には、深い緑のお茶が置かれている。
過去から戻ってきても、二人の頬には涙が流れていた。

「ただ、死んだと聞かされていたんだ」










2009.1.11