私が目を覚ましたのは夜で、そんなに寝ていないのかと思ったけど、
鏡ちゃんの泣きそうな顔、ぎゅっと抱きしめられれば鏡ちゃんの匂いがして、
また、私は彼を置いてくところだったのか、と髪を撫でた。
私は、次の戦いまで眠り続けていた。
ぼんやりと記憶をめくっていれば、チクッと腕に痛みを感じた。
みれば、手に何かをつけていて高いポールが近くにあった。
怜奈と煉と燐は崩れ落ちている。
さっきの痛みは毒を入れられたのかと理解する。
もう、自分はここまで進んでしまった。
この毒以上に毒の状態である私に、こんなものどうってことない。
目の前にあるポールを登る。
スカートがひらひらと動いていて邪魔だ。
ゆっくりゆっくりと登っていけば
ポールの上で三人の姿が豆粒に見えた。
これからを考えなくてはいけない。
ああ、そんなこと考えなくたって答えはでているけど。
私は、ポールの上に立つとそこから飛び降りた。
スカートを抑えながら、ストンという音をたてて着地する。
解毒剤を怜奈の腕にあるものに差し込む。
二度目の毒ということで結構応えているようだ。
目を覚ますことはない。
私は、怜奈の顔をまじまじとみて一つの言葉を送る。
「ごめんなさい」
それしか、言いようがない。
自分のせいで彼女は色んなものを失ってしまった。
怜奈の寝顔をみる。あどけない顔。久しぶりにみた。
思わず触れたくなったけど、自分に触れる資格なんてない。
「ごめんなさい。駄目な姉でした」
ぎゅっと自分の手を握り締めて、立ち上がり煉と燐に解毒剤を入れる。
激しい息が整ったのをみて、私はその場を後にしたが、
後ろから煉のくぐもった声が聞こえた。
必死に止めようとする彼を、私は笑顔でこたえる。
乾いた笑顔だったのだろう、彼の声の激しさが増した。
私は、そのまま背を向けてそこを立ち去った。
空を見れば、月が輝いている。
私にリングはもうない。怜奈に渡したから。
吐く息は白い。もやが月を覆い隠した。
学校からでるまでに、いろんな人の声や破壊音が聞こえた。
きっと彼らに会うのは最後だろう。だったら・・・・・・。
止まった足は出口から方向を変えた。
皆の顔を見回っていく。
獄寺くんは、犬でツナくんに迷惑かけまくりだけど、悪い奴じゃない。
派手な格好よりも心は純粋だった。
ツナくんは、危険な人。心のすみまで見渡す人。
時々凄く怖かったけど、大空のように包み込んでくれる人だった。
武くんには、言い表せないほどの感謝がある。
私に青春を教えてくれて、守られるなんてガラじゃないけど嬉しかった。
優しい友人。愛すべき友人。
胸のあたりがほっとする人だった。
ありがとう。
私が、生きている中でこれ以上ない幸せを与えてくれた人たち。
もう、一人行こうとしたけれど。
行くのを辞めた。
私は、そのまま出口へ向かう。
彼には怜奈を見て欲しいかったから。
・・・・・・これでいいんだ。
そのまま進めば、じゃりと言う音がして、後ろを向いた。
もう、この学校に来ることもない、学校を出てそのまま歩こうとすれば。
「お待ち」
「・・・・・・鏡ちゃん」
「私を置いてくなんて許さないんだから。ちゃん。昔言ったでしょ?
私は、地獄まであなたに付いていくわ」
女の格好をしないで男の格好で言う、鏡ちゃんの言葉づかいに笑った。
そうだった。彼はもう、自分の一部なんだ。
置いていくことは、最大の禁忌だってことを忘れていた。
遠くから、歓声が聞こえる。
きっと、あの人達が勝ったんだろう。
ふっと、体から力が抜けたように私は歩いた。
その後ろを鏡ちゃんがついてくる。
「どこに行くの?」
「まずは、服装からですよ。家へ帰りましょう」
私は鏡ちゃんの手を握った。
鏡ちゃんは、私の手を握り返した。
空には、月だけが輝いている。
先も見えない真っ暗な道を二人で歩いた。
2009.1.9