ドンと、ドームの壁に肩が当たった。
目の前には鎌をもって微笑む煉。
死んだな。私。そう、思えば。
違う場所で、ドサと人の倒れる音がした。
音とともに、暗闇からぬっと人影が現れた。
その人影が、煉に近づき。
「時間稼ぎご苦労様」
煉が、鎌を振るう前に怜奈が鎌の先端を足でたたき上げる。
カッと何かが刺さる音。
天井を見れば、鎌が刺さっている。
よくあそこまで、綺麗に飛んだな。と、怜奈のキック力に目を背ける。
うめき声と共にギャハという声。
あそこに倒れているのは、燐だろう。
倒れていながら、ギャハを忘れないとは。
怜奈は、向日葵のような明るさと無邪気さをもって、煉を見据える。
「次は、あなたの番だよ」
びっと怜奈が煉に指をさせば、手をあげて降参のポーズ。
「参いったね。僕らの負け
なわけがない」
急に怜奈が地面に膝をついた。
手がガクガクと震えている。
自分の体の状態に怜奈は理解できないようで、
鳩が豆でもくらったような顔をしていた。
煉の言葉を聴いて燐がふらふらになって立ち上がり煉の隣に来る。
ボロボロな服はいっそうボロくなっており、体にはあざや傷がたくさできていた。
燐は口からでた血を舐めとった。
「時間稼ぎご苦労様」
「ギャハァァ。俺マジ死にかけたしぃ」
とうとう、足にも振るえがはしったのか、怜奈は地面にうつ伏せになって倒れている。
「どういうこと?」
煉と燐はよく似た笑顔で答える。
「さっき投げた鎖だよ。あれに蛇を混ぜといたんだ。フフ僕の獲物は」
「ギャハ。こいつらだからな」
二人の首には小さな2匹の蛇がいる。
目を凝らしてみれば、怜奈の足や腕にかまれたような傷。
黒い蛇は闇と同化して赤い瞳だけが光っている。
「フフ、毒に耐性があっても効く様にしたんだ」
「そのせいで、効く時間が遅くなったけどな、ギャハハハハ」
怜奈が悔しそうに二人を睨む。
二人は、怖がるポーズをしてみせて私をみる。
「僕たちは、そこの『至宝の珠』さえ負けさせればいいんだ。
だから、さ。あなたは別にどうでもいい」
「ギャハ。毒は弱いっていっても数分放って置けば死ぬぜぇ」
「つまり、私が参ったと言えばいいんですか?」
そうだとにっこりと笑う煉とギャハハハハと笑う燐。
ドームに響く声。
私は冷静に分析する。
武器がない煉とボロボロな燐。武器は燐の短剣と蛇だけだ。
これは、彼らが本当のことを言っていれば。
私たちを見る。
蛇の毒でダウンしている怜奈と、体力と怪我でボロボロで
そんな戦闘能力もない自分。
絶望的だ。彼らが嘘をつかずそれらの武器しかないとしても。
私が戦って勝てる見込みは30パーセント。
その間に、怜奈に毒がまわる可能性はそれを遥かに超える。
私は、勝敗が見えた試合は一回しかしないと決めている。
自身の命をかけた死合だけ。
それが、一生こないようにと祈る自分がいる。
この試合のルールの一つの点に気付くときに気付くべきだったのだ。
誰か一人が『参った』といえばいいのは、こちらも同じで
特に私が言ってしまう可能性が高いということを。
私がいう言葉は分かるだろう。
ドームの外をみる。
生きてかえるんだ。まだ、私は。
「参っ「駄目だよ」」
ふらりと毒が回ったはずの怜奈が立った。
目はもう焦点も定まっていない。立つ足がおぼつかない。
精神力で立っている。
「駄目だよ。ちゃん」
「でも」
「ちゃん、忘れたの?京洛の名を持つものの負けは死に等しい。
それに、私は負けなんかしないんだから」
ツゥーと口から血が流れる。
「怜奈」
「今回なんで柊さんがいるか。分かるでしょう?
負けたら私は京洛家にはいれない。かわりにこいつらが京洛を名乗るのよ?
弱肉強食。そこが京洛家」
顔が青ざめている。
「怜奈、もういい。しゃべらなくていい」
「負けるなんて絶対ないんだからぁ」
怜奈はそういうと、二人に突っ込んでいって。
私は、呆然と彼女をみる。
二人は仕方ないと相手をしていてふらふらな彼女が勝つ見込みはない。
ただ命を削るその行為は、鮮烈に私の頭を焦がす。
無駄な行為。飛び散る血。笑う双子。
地面に落ちたのは、私の妹。
暗い闇で覆われたドームのなか、確かに私は白い光を見た。
そこには幼い私が泣きはらした顔で笑っていた。
2009.1.5