もはや、日も暮れている。
坂の上から見れば、家や外灯が星よりも輝いていた。
人工の光のせいで森よりも星がみえない。
けれど、私からしてみたら人工でも十分綺麗だと思うんだ。
だってこれは、星や月や太陽の光を追い求めた夢の姿。

軽い足取りで坂を下りれば、
安い2階建ての古アパートが見える。
京洛家を捨てた自分とついてきてくれた鏡ちゃんとで借りた最初の家。
京洛家からすると自室に満たないほどの部屋だった。
けれど、息ぐるしさを感じず住めば住むほど愛着を感じる。
同じアパートにすむ大家さんには自身の孫のように可愛がってもらって、
近隣の住民によく声をかけてもらえる。、
私は、この場所が好きだ。
なにより、


「おかえりなさい。ちゃん」


私を待っていてくれる人がいるから。



鏡ちゃんと私は、静かにお茶を飲んでいた。
すでに食器は洗い終わり棚に戻している。
二人分の食器、プラスチックなそれは最初私がよく割っていたせい。
時計がカチカチいっている。時刻は10:25。
鏡ちゃんは、男の格好でこの寒い日なのに一枚のTシャツとジーンズだけだ。
彼の格好は基本ジーンズに適当に上を合わせたものだけど、
それが様になるほどの体型と顔。羨ましい。
自分はといえば、ドロドロの並盛中の服だ。
鏡で見なくともみすぼらしさが分かるが、
着替えるよりも、先に食欲を優先した。
なにせ、ずっと簡易食料かパスタで日本食が恋しかった。
疲れているようだから私が作るわという鏡ちゃんには、味噌汁だけを頼んだ。
料理上手に見えるが、鏡ちゃんは味噌汁以外はてんで駄目。
そのくせ、料理を作りたがる性質が悪いオカマなのだ。
ことっと鏡ちゃんが、湯飲みをおく。
碧の深い色した湯飲みは、鏡ちゃんの誕生日に贈ったもので
今でもそれを愛用してくれることが嬉しい。
鏡ちゃんが私のほうを向いた。
いつものオカマスマイルがじゃなくて、真剣な顔で
私も、湯飲みを置いた。

「動くわ」

まったく主語がなく、暗号のような言葉だけど、意味が分かった。
私は、湯飲みをとってお茶を飲む。
鏡ちゃんの淹れたお茶は苦い。

「なるほど、ね。あっちに煉と燐という京洛家がいるのはそういうわけですか。
まったく馬鹿が馬鹿なことをします、つくづく私はあの人とあいません。
・・・・・・けど、よく時をみていますね」

「どうするの?ちゃん」

私は、目を閉じる。

「怜奈に関係はない?」

「ええ」

怜奈に関係ないなら、放っておいてもいい。
あんなにもお世話になっておきながらも自分の保身しか考えない。
それに、
私は、こうなることを予想して彼女をあの人に逢わせた。
ボンゴレでありながらボンゴレでないもの。
そして、強い人。
怜奈が京洛家以外の選択肢を選べるように。
頭に浮かぶのは幾人もの優しい人たち。
目を開けば、私を心配する一人の人。
泣き出しそうな顔に、にっこり微笑めば居心地が悪そうな顔をした。
カチンという時計の音。
それに合わせたように湯飲みを置いて席を立つ。
進行方向と逆の方向、つまり鏡ちゃんのほうにくるりと振りる。


「そうですね、考えても答えが出ないので今日は寝ます」


そのまま襖をあけて、眠ろうとする私に鏡ちゃんの声が止める。


「その前に、お風呂はいりなさい」

私の制服を指差して。







2008.12.31