久しぶりの夜だ。
ここのところ、おきていれば一発で沈められていたが、
今日はなにやら三人が飲んでいて眠らされることはなかった。
体は、休息を求めていたが、頭だけは動いていて
それならばと、みんなが寝ている中一人で抜け出したのだ。
は、湖の近くにある岩に腰かけた。
少しだけ、寒さを感じ腕をさする。
湖には、星だけが輝いていた。

は、スクアーロを連れ去った後のみんなの反応を思い出した。
ディーノには脳みそがシェイクされるほど揺さぶられて、
ギュレルとロマーリオには、説得されるし、
怜奈からは、ちゃんの趣味わかんない、と言われた。
一人だけ、こっちを見向きもしない人がいた。
自分にそういった興味がないことはわかっているが、
一時は恋をしていたものとして、少しはセンチになるわけで。
上に向かって息を吐く。目の焦点はどこにもあっていない。
空は真っ暗で森も真っ暗なのに、湖だけが輝いていた。


「何してるの」

声に気付いて後ろを振り向けば、雲雀がいた。
空の星たちが照らして顔の輪郭が分かる。
人工の光でなくとも、ここまで見えるものなのかと感心する。
雲雀は、呆れた顔でを見ていた。

「君、馬鹿でしょう」

雲雀は、自分のかけていた学ランをにかけて、隣に座った。
の驚いた顔に、雲雀は答えた。

「ここのところ、保健室に行ってたのに、そんな格好だし
・・・・・・君は、来てよかったの」

は、自分が保健室にいっていることを知られたよりも
心配されている事実がこそばゆくて、雲雀のほうをむかずに話す。

「ただの貧血です。それに、ここに来たのは
自分の意志じゃなくて無理やりじゃないですか」

そう、笑うが、雲雀の無反応さに口を閉ざした。
風が、冷たい。
がぎゅっと自分の体よりも大きい服に体を縮こませる。
それをみた雲雀は、急に立つとの後ろに来て後ろから抱きしめた。
は一瞬何が起こったのかわからなかった。
体がぴったりと密着している。
理解が出来なくて固まってしまった。
なぜ自分がこんなことになっているのか。
こんな細いのにどこにあんなパワーがあるんだろうとか、
筋肉があるから温かいなとか、
考えれば考えるほど、変な方向へ行ってしまう。

「えっと、なんでこの状態なんですか?」

は、混乱した頭で雲雀に質問した。

「・・・君が、してくれっていっただろう」

雲雀の声がの耳に直接響いて、くすぐったそうにしていた。
この感触を思い出して、自分の言葉も思い出した。
だからといって、これはおかしいと思ったが、
はそれ以上の答えを求めなかった。

どちらとも口を開かないで時間だけが過ぎた。

自分の心臓の音が聞こえた。
空気を吸うのがうまく出来ない。
温かいけどあつすぎだ。

ディーノとは違くて、
本当に、自分が彼に恋をしていたんだなと思って笑えてきた。
急に、雲雀がに話しかける。

「昼間きた奴いたでしょう、髪が長い奴」

「ああ、スクアーロですね」

「名前なんていいんだよ。それで、君はやつみたいのがタイプなの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

一瞬、何をいっているのか分からなかった。
雲雀は、を抱きしめる力を強くした。

「答えなよ」

なかば、脅迫に近い発言に、ギシギシとしまっていく体。
どうやら、肺を圧迫されているようで、
は苦しそうに答えた。

「えーそうですね。髪の長さがその、好ましいですかね」

「趣味わる」

そういえば、雲雀の力は弱まった。
もしかして、このためにこの体勢にしたんではないかと思う。
は、ゼーゼーと息を整え精一杯空気を吸って
痛くなったノドをさすり笑った。
たしかに、長髪が好きだとはよくいったものだ。
長髪で、思い出すのは。

「父親が、長髪だったんですよ」

「君があのオカマ以外の家族の話するの初めてだね」

「そうですか?」

「そうだよ」

しまったと、思いながらもは笑った。
つい、思い出していってしまった単語を悔いる。
雲雀はそんなに追いうちをかけた。

は、なんで笑うの」

「そりゃ、笑うほうがいいからでしょう」

「質問かえるよ。なんで泣かないの」

「核心突きましたね」

「誤魔化さないでよね」

きっと、この賢くて勘のいい人には何をいっても無駄なんだろう。
それに、リボーンよりもしつこいなんて分かっている。

「恭弥先輩。私こうみえて昔かなりの泣き虫だったんですよ。
一日何回でも泣いているような子でした。
私は、昔を忘れるために泣かないんですよ。
・・・・・・と、カッコつけれたらいいんですけど、
泣きすぎて涙の泉みたいのが干からびただけです」

最後の悪あがきでおちゃらけてみるものの、雲雀は正確に読み取る。

「昔の話も初めてだね、まだあるでしょう。聞かせてよ」

自分にブレーキをかける。
これ以上いってもどうしようもならない。
小さな女の子は私をせめて、桜を燃やす。

「あんまり面白くないんですよ。
駄々っ子が悪いことして、全部駄目にしちゃった。こんくらいです」

「そう」

雲雀は、これ以上のことを聞かなかった。
は、立ち上がると

「もう、寝ましょうか」

そういって来た道を二人で帰った。
洞窟に帰ればみな寝ていて、空いている場所に眠る。
みんな死んでるじゃないかと疑うくらい静かだ。
けど、葉っぱ一枚でもおきてしまう恭弥先輩ならこのくらいがちょうどいいんだろう。
近くに恭弥先輩が眠る。
睫毛が自分よりも長くて白い肌。
男とは思えないほど整っている。
黒髪がさらっと流れると、
は、目を閉じて小さな声で祈るようにいった。

「恭弥先輩。だからね怜奈を愛して」



貴方が好きです。
でも、愛しあうことはないでしょう。
だから、貴方が好きでした。






2008.12.29