「・・・恭弥さん」


屋上には、男女と一匹の鳥。
雲雀は、目を静かに開けた。


「私は、あなたの恋人ですか?」


風もない晴天の下で、鳥だけがその場を後にした。





は、携帯からの呼び出しで応接室に向かった。
どう言い訳をしようか、と考えるけれど正直メンドクサイ。
もう、怒られようと覚悟して応接室を開けた。
しかしそこには誰もおらず、ははーと肩を落として中に入りソファに腰掛けた。
それから、自分が携帯をとっていなかったことを思い出して
携帯を取り出した。
いつの間にか、自然に出来るようになったそれに
習慣の怖さを思い知る。
だが、いまだに着信を取るときに電源を押してしまうことがあるのは・・・秘密だ。
白い携帯が、着信があることを示して青く光っている。
は、携帯をあけ着信履歴をみて、
ずっと雲雀だと思っていたものが、違かった。
まったく知らない、その番号。
は、じっとそれをみてかけるか、かけないかを数秒考えると
ピッとボタンを押し、削除した。


ちゃんと、雲雀からオレオレ詐欺などのレクチャーを受けていたので、
知らないのは出るな。との教えには忠実に守っただけ。
携帯を、仕舞うとは、どうしようかと迷い始めた。
あまりここに一人でいるのは気持ち的によくはない。
しかし、いまさら戻るのもいかがなものかと・・・。
家に帰っても、一人でぼーっとするのもつまらない。

だったら、久しぶりに喫茶店でも行くかと、応接室を出ようとすれば、

「・・・・・・」

「・・・・・・」

雲雀先輩が立っていた、正直沈黙が苦しい。
絶対怒られると、身構えれば。

「いたの」

そういって、席に座る。

「・・・あの、どうかしたんですか」

「別に」

いつもの横柄さがない。は、目の前の人物が偽者じゃないか疑い始めた。

「お茶を淹れて」

・・・よかった。本物だ。



「どうぞ」

は、目の前に紅茶を差し出す。
雲雀は、黙ってゆっくりとそれを飲み始めた。
が、ソファへと戻ろうとしたが。

「ねぇ」

雲雀に止められた、なんかまずったかと思いは振り返る。

「君はさ、あいつが好きなの」

随分と曖昧な表現だったが、は誰を言っているのか分かった。
顔に苦笑を浮かべる。

「直球ですね」

「答えてよ」

「・・・・・・そうですね。そういうのでは、なかったと思います。お互いに。
ただ、好きとか愛とかそういう感情じゃなくて、なんでしょうね。
理解者だったんですよ。とてもよく気が合う仲間でしょうか。
とても、自分に近い人だったんです。でも、好きか嫌いかでいうなら、
好きですよ。それに、男女の関係がなくてもね」

「よく分からないな」

「雲雀先輩はそれでいいんです」

「君は・・・」

「はい」

「・・・・・・趣味悪いよね。
僕ならあのパイナップルは殺したくなるけど、笑い方も気持ち悪いし」

は、口元を隠した。
彼の笑い方を思い出したからだ。
しかも、パイナップル・・・髪型を思い出した。
震える声を整えて、は答える。

「的をえてますね。けどあれは彼だからこそ出来る芸当なんですよ」


いつのまにか、紅茶を飲み干した雲雀は、を見つめた。
少しだけ、は動揺した。
雲雀の目が、とても真剣だったから。

「あいつは、死んでない。いつか、僕が殺す」

「・・・・・・」

「だから、その前ぐらいには会わせてあげるよ。あいつを殺すのは僕だから」


「・・・・・・ありがとうございます」
なんで、自分にこんなにも優しくしてくれるのか分からない。
けど、


胸のなかにあった空っぽな部分が少しだけ埋まった。
外は、晴天。
雲ひとつない。
けれど、黄色い鳥がまたたいている。

は、空を見て微笑んだ。
誰かは、空を見ずに雨を降らした。







2008・12・5