不思議国のアリスは、夢で冒険をし、最悪な最後で夢から覚める。
目が覚めて・・・姉とお茶会を・・・
そしてFinと書かれた文字の次のページは、白紙となる。


は、手を伸ばして叫んだ。
この世界での、唯一を。



そこにいて、意識があるものたちはすべてを見た。
は、じっと骸をみていた。
世界が止まったようだった。
風も音もすべてピタリと、動かずにの言うことを待っているみたいで。

「やべーな」
ツナの横で小さく聞こえた声。
何がやばいのか。
聞きたくともツナは、を凝視することしか出来なかった。
をまとうものが、すべてをとどまらさせている。
ツナだけではない。いかつく悪寒すら感じた復讐者たちですらとまっている。

すっとが、体をあげ立ち上がる。
ゆっくりとした動き。
の足の上にいた、雲雀がドサっと音を立てソファに落ちた。
いつものように、笑みを浮かべている彼女じゃない。
そこにいたのは、少なくとも弱者ではなかった。
の口が、動く。

「私も、私も同じです。連れて行ってください」

丁寧語で、懇願であるはずの言葉が、命令に聞こえた。
ツナは、をとめなくてはと、思うのに体が動かない。
横にいる家庭教師を見ると、同じように動けないでいた。
殺気ではない。ただの思いの強さ。
それに圧倒されていた。

復讐者たちが、鎖をジャラリと鳴らしに近づく。
は、それをみて笑顔だった。
ツナは、二人の関係性を考えるよりも、胸が苦しくなった。
・・・・・・どうしてそんな顔を浮かべるのか。
今から行く場所が、ここよりも幸福と言わんばかりの顔で。
俺たちは、少しもこっちへ留めとく枷にすらなれなかったのか。
頭の中では、あの日、屋上にいたを思い出した。


一人でありたい君は、とても独りを怖がっていたことに。


ツナは、手を握り締めた。
もう、止めることは出来ない。
悔しくて、哀しかった。でも、自分じゃダメなのだ。

もう目前まで近づいている。
・・・・・・行ってしまう。



そう、思っていた。
誰かが、彼女の腕を掴むまで。



「ま、ちなよ」
もう、動けないと思っていた雲雀が、の腕を握っていた。

「・・・離してくれませんか?」

「イヤだ」

「離して」

「ヤダ」

埒の明かない押し問答に、は顔を雲雀のほうへ向けて言った。
「私は、骸側の人間です」

だから、もう、と続けようとした言葉は、雲雀に遮られた。
「君は、風紀委員だろ。なら、僕のものだよ。アイツのじゃない」

なんて我が侭で自分勝手な理屈に、は唖然としたが、直に我にかえって。
「何言ってるんですか、怜奈がいます。私は必要ないでしょ。だから行かせて下さい」

自ら復讐者の前へと進もうとする、

「・・・・・・行かせない」

雲雀は、トンファーを振り上げた。
立っていたの体が、ぐらりと雲雀のほうへと倒れた。
それから

「この子は、僕のだから。あいつらとは関係ない」

復讐者たちにそういうと、目を瞑って意識を手放した。
その行動に、ツナは驚きを隠せないが、
横にいたリボーンがよくやったと言わんばかりに、にやりと笑い
復讐者に、が敵ではないことを説明し始めた。
ツナは、ひと悶着あったソファを見る。
完全に、意識はないだろうに、それでも雲雀は腕だけは離さなかった。
どこにも行かないように。しっかりと腕を掴んでいた。



薄れゆく意識の中、は遠くなっていく骸を見ていた。
段々小さく、小さくなっていく。
ゆらゆらと、画像が揺れていく。
口が、パクパクと声を発せずに言葉をもらした。
・・・それは。



「おいて、か、ないで・・・」





2008・11・29