不思議国のアリスは、夢で冒険をし、最悪な最後で夢から覚める。
もう、夢だって分かっている。
それなのに、白い部屋の扉を開き続けている。
諦めて、座り込もうかと考えはじめた。
不思議国のアリスは、夢で冒険をし、最悪な最後で夢から覚める。
だから、私も願った。
目が覚めて、ああ、良かったと思えるような現実を。



今が、夜ではないはずなのに光があまり入らない建物は、時間を狂わした。
物語の中心では、雲雀 恭弥と六道 骸が対峙していた。

「君は、僕の獲物だ」

「怪我しているものに負けるほど、僕は弱くないですよ」

骸は、クフフと笑い、の髪を撫で付けていた。
骸が触るたびにふわりふわりと、髪が宙に浮く。
は、身動ぎもせずに、それを感受しているようだった。
いつも張り付いている笑顔もなく、目を閉じている姿は、
息をしているのか確かめたくなるほど、穏やかで、
どこか遠くを見据えていた彼女は、大人びていたのに、今の彼女は真逆だった。

「・・・早くこっちに来なよ」

雲雀は、イラついた表情で骸を睨んだ。
獰猛な虎が、毛を逆立てたようにいきり立っていた。
その殺気は、ツナや怜奈たちが息を呑むほどだったが、
骸は、殺気をまったくものともせず、最後とばかりにに抱きついた。
耳元に、ぼそりと小さな声を零す。

その姿をみて雲雀は、目をくわっとあけると骸の場所まで移動し、トンファーを打ち下ろした。
骸は、それを三叉槍を受け止める。
埃が舞った。

「彼女にも、当たるのでどいてくれません・・・かね」

骸は、三叉槍で、上からトンファーを打ち上げると、
壊れ物を扱うかのようにソファーにをおいた。

「では、始めましょうか」

それが、合図であったかのように二人の戦いは始まった。
キンキンと、金属の音と共に、血の匂いが部屋を満たした。
埃くさい部屋は、なおも居心地の悪さを増していく。


「君は、なんなの?」

雲雀は、攻撃の手を休めることなく骸に問う。
骸は、笑顔のままそれに応戦している。
雲雀は、その笑顔がどこか誰かに似ていることに気付いていた。
居心地の悪さと、イライラだけが募っていく。

「貴方が、求めている答えは本人に聞いたらどうですか
まぁ、答えないでしょうけどね」

トンファーが、骸の髪をかすった。

「逆に、聞きます。貴方はなんなんですか?」

「・・・・・・」

「彼女は、貴方にとってただの雑用で厄介な人物なだけでしょう
なぜ、そこまで固執するんですか?」

「うるさいよ」

「おや、言い方を変えましょう。貴方はただの妹の彼氏でしかない。
ならば、僕とがどういう関係かなんてどうでもいいことでしょう」

「うるさい」

「僕を倒しても、強いというわけではないんですよ」


その言葉は、雲雀の中心にあった思いをかすめた。
最初に、好きだといった彼女は、強いから好きだと言った。
今は、もう聴くことはないその言葉を。
ウソだと分かっていても、聴きたかった言葉だった。
彼を倒せば、言ってくれるかと、どこかで思っている自分がいた。

トンファーが、骸の急所に入る。
ゆっくりと倒れていく姿を見ながら、雲雀はもう骸を見ていなかった。
歩くたびに痛む体を動かしながら、闘いとは無縁の場所へと近づいた。
そこだけが、切り取られ付け貼られたように、静かで穏やかだった。
赤く血が付いた手が、彼女に触れた。
はじめて触った彼女の肌は、自分の心を暴走させていく。

息をするたび上下する肩が、自分よりも小さくて・・・
ぐらりと、自分の視界が歪んでいく。
遠くで、誰かが何かを叫んでいる。
それでも、雲雀の目には、ずっとだけを見ていた。
意外と、睫毛が長かったんだとか、鼻の高さとか、唇の厚さだとか
目をつぶる瞬間さえもずっと・・・


そうだね、ずっと認めたくなかったんだけど、
どうやら、僕は君を誰かのモノになるのが嫌らしい。


つまるところ、僕は君が欲しいんだ。


2008・11・24