「ねぇ」

「はい」

かれこれ、何回この会話が行われたのか。
は、頭を抱えたくなった。
けど、頭にはもう硬く温かいものがしかれている。
は、苛立ちよりも呆れて、上にいる骸を睨んだ。

「なんで、膝枕」

「だって、お疲れでしょう?」
にっこり笑った、綺麗な顔を殴りたくなったが、
は、さっきそれを実行し爽やかに避けられたことを覚えている。

ムムム、と骸を凝視する。
しかし、相手は変わるどころかどこか嬉しそうだ。

こういうときに限って、柿本と城島はいない。
ランキング相手を狩に行ったからだ。

はぁ、ため息を吐くとは頭を深くおきなおした。
降参だ。

上からは、笑い声がもれる。
膝を抓ってやろうかと、思ったけど予想外に気持ちいい温かさに、
その考えは保留した。

だって、彼はなんだかんだいっても、自分と近しい隣人だ。

それに本当は、夢じゃ感じない温かさが、涙が出るほど嬉しかった。
たとえ、涙が出なくても。

言うなら、は通常よりも限りなく素の自分であれた。
懐かしく、もう忘れてしまった自分を少しだけ彼といれば思い出せた。
それが、罪でも、逃げでも、は選んだのだ。

物音が、立たない崩れた部屋は、
埃さえなければ彼女らの空間によく似ていた。


「骸」

「はい」

「骸は、世界が憎いでしょう?」

「・・・・・・」

風が、入ってくる。崩れた建物の隙間から、体温よりも冷たく、
は少しだけ肩を震わせた。

「世界中から嫌われてしまった。違うな そっぽを向かれたんだ」

「貴方は」

「・・・・・・」

は、骸から体温を奪うかのように顔をぎゅっと押し付ける。

「僕も同じです」

「・・・そっか同じなら手はつないでいられるね」

こもった声は、いつもよりも弱弱しく聞こえた。

「貴方は弱いですね」

骸は、の髪の毛を撫でる。
いつも結ばれている髪を解いて、ふわふわとした感触を指で楽しむ。

「うん、骸は強いね」

骸は、絡んでくる髪を撫でるのを一瞬やめると、
なんでもなかったかのように、また撫で始めた。

二人は、とても似ていた。
それなのに選んだ道が違っていた。

骸は、うとうとと、自分の膝で眠り始めた自分より年下の少女を見る。
完全なる無防備。

彼女は、言った。
私を使ってもいいと、その言葉に魅力を感じたのはウソではない。

ただ、一つだけ。
他の人物には、決して見せない安らかな彼女の寝顔を見ながら、
骸は届かないと思いながら呟く。

、貴方は決して弱くはない」



2008.11.14