その日は穏やかな日で、夏の日差しがまだ残っている日だった。
はその日差しに少しだけ目を細めた。
手には雑用がかりとしての任務。
文房具などの雑貨用品が詰まっている。
両手でずっしりとした重みを感じながら、ふんぬと足に力を込める。
こんなことならば草さんと共にいけば良かった。
あの優しい彼は、手伝うかといってくれたが、
群を咬み殺すことも書類を終わらせることも遅い自分に出来る唯一の仕事
だからという気持ちが強かった。
空を仰ぎ見れば、憎たらしく雲一つない快晴。
汗がじっとりと服につく。
まだまだ並盛中までの道のりは長い。
ふぅ
ため息を吐く。
はなぜ自分がこんなことをしているか疑問に感じ始めた。
こんな重いものをなぜ自分は我慢して運んでいるのか。
雲雀のサドが。と心の中でぼやいてその人物が脳裏に浮かぶ
今日も応接室で二人は二人だった。
孤高で群を嫌う王者は、強さを求め続ける姫を向かい入れた。
そこまでなら、は応接室を出るという理由にはならない。
王者は弱者を見向きもすることはない。
上だからこそ底辺を見ることはない。
それでいいとは思っていたのに、何を間違ったか夢を見てしまった。
あの日は、恋をしないはずの相手に恋をしその日は、その恋を諦めた。
それで終われば良かったのに、まさか二人がキスしたぐらいでその姿をみたぐらいで
こんなにも揺らぐとは思わなかった。
恋人なんだから当たり前だとか、せめて人前でやるのに恥じらいもとうよとか
そんなのを通りこしたものが体を駆け巡った。
ガサガサと荷物がなる。
の顔はいつもと同じだった。
その姿を見て心は騒ぐけど顔に変化はなかった。
けど無性に一人になりたかったのだ。
その後、タイミング良く雑用を言い渡されこうしている。
は、地面を見た。
自分の影法師が映っている。
当たり前の事実なのだが、は時々影法師がいないような気がしてならない。
確認というわけでもなく下を見るくせがにはあった。
影法師がゆらゆら自分の形を模している。
そしてそれはいつの間にか二つになっていた。
自分と明らかにに違う背の高い影法師。
ははっとして顔をあげると。
「荷物持ちますよ」
赤と青の少年が傍に立っていた。
「悪いですね」
は初めて出会うその少年に警戒することもなく荷物を渡す。
初対面ならば遠慮するであろう行為を難なくする。
そして荷物を全部渡された少年もそれを甘受して受け取る。
があれほど重かった荷物も少年は簡単に持つ。
初めて会うはずの二人の空間は、幼馴染のような長年連れ添った夫婦のような
兄弟ののようだった。
「始まるの?」
「ええ」
「これが驚くこと?」
「あなたは驚いてくれませんでしたね 」
二人は歩みを止めず淡々と前を向きながら話す。
は誰に対しても敬語を使っていたが目の前の人物には、砕けたしゃべる方をする。
さっきまでは遠いと思っていた並盛中の距離が一気に近くなった。
校門付近で二人は合わせたように止まる。
「驚くことといえば、やっぱ美少年だったとことか」
「もかわいいですよ」
「この大法螺吹きが」
「クフフ。僕はに対して嘘はつきませんよ」
「クフフって現実世界でも言ってるんだ」
「?変ですか」
「いや、似合ってるからいいとおもうよ」
くだらない話し合い。しかしもその少年も幸せそうに笑った。
笑い終えるとは荷物を取りくるりと後ろを向いて少年にむかう。
「驚かすならこんくらいいいなよ」
応接室の中。
雲雀は一人だった。玲奈は赤ん坊に呼ばれてどこか行ってしまったし、
はなかなか帰ってこない。
あんだけの量の文房具になにをてこずってるんだとイライラしてきた頃
ドアが開いた。
「先輩〜買ってきましたよ」
「遅い」
「知人がいたんで話し込んじゃって」
「・・・いい度胸だね」
「あはは、アイスティーいれるんでこれここにおいときますね」
いつもならばあたふたするは今日はどこか違っていた。
妙に機嫌がいい。
知人とやらのせいか鼻歌まで聞こえる。
雲雀はイライラとした気持ちをかかえるものの
がお茶を入れるのが久しぶりだったので黙ることにした。
言いたいことはいつもたくさんあった。
しかし、言えたことなどほんの一握りもないのだ。
言ってはいけないと本能がいっていた。
だから、見られたときも言葉がでるよりもさきにその場からいなくさせたのだ。
こんなにもイライラさせる人物は今は上機嫌だ。
そのことですら拍車をかけるけど、
「はい、どうぞ」
笑顔でいわれてしまえば少しだけイライラが収まる。
アイスティーのはいったグラスにカランと氷の音がする。
はそれを一気に飲み干し、目の前にある書類にカリカリと書き込んでいく。
雲雀もアイスティーを飲んでいるがとは違い上品に飲んでいる
はそれすらも絵になるなと、書類のすみからのぞいていると
雲雀が視線を感じたようで、をみかえす。
「何?」
「いいえ、なんでも」
は笑った。
久しぶりに雲雀をちゃんと見た気がする。
雲雀はの笑いに疑問を感じながら、書類に目を向ける。
部活も終わる頃。
はやっと終わった書類を雲雀の元へと持っていく。
「うん。今日は帰っていいよ」
「うぅ〜終わった」
はカバンを持ち帰ろうとすると、いつの間にか雲雀が自分の腕を掴んでいた。
何か不備でもあったかと思うが雲雀は黙ってそのまま扉までいき鍵を締め
帰ろうとする。そう!の腕を掴んだまま。
「あの」
「何?」
「手離してくれません?」
いきなり腕を捕まれなぜか帰ろうとしていることに疑問がわくが
それよりも掴まれていることがにとって大問題だった。
言えば、すぐさま離される。
それが少し寂しくともはほっとした。
これ以上乱されては困る。
掴まれた腕は予想以上に強く掴まれていたらしく赤くなっていた。
「暗いから送っていくよ」
一瞬誰が言ったのか迷ったが、きっと前にいる人なんだろう。
なんで急にこんなことを言うのか。
もっと遅くなったときですらそんなことを言ったことのないこの人が。
嬉しかった。
別にそういう意味が含まれていなくても
最初で最後くらいの小さな優しさが暖かかった。
必死で、赤くなった場所を手でつかむ。
でも、
「大丈夫です。迎えが来てますんで」
私はあの時からあの人の手をとったんだ。
「さようなら雲雀先輩」
骸 私を使っていいよ
2008・10・11