嫌いなもの?
そんなものないよ
って嘘をつく
だって普通じゃ嫌わないよ
けどね
しょうがないじゃない
時間は、早く止まってくれないものだ。
寒い季節が懐かしく、今はもう温かで比較的過ごしやすい季節となった。
新入生への風紀委員の仕事(主に雲雀至上主義を叩き込む)なことを終えて、
ゆったりと自分の時間を過ごすはずだった。
・・・・・・それなのに
私の家の電話が鳴っていた。
電話をとると、名前を言わず短い用件を言ったきられた。、
しかし、誰だかの電話かわかる。
ここで、疑問が残る。私は彼に電話番号を教えたことがない。
しかも、学年も違う。(連絡網はない)
いつ
どこで
知ったのか
が、
考えてみれば、彼は生徒の個人情報を、すべて持っていた。
私の電話番号なんて簡単に知ることが出来る。
けど、風紀委員になってから初めて電話越しで、彼の声を聞いた
先ほどの会話というには彼の独り言に近い
(私はなにも言葉を発していない)会話を思いだす。
「お弁当持ってきて、今すぐ公園に」
「まずかったら、わかってるよね」
「それと・・・携帯持ちなよ」
と、言うと、受話器からツーツーと音が流れた。
むしょうに笑いたくなったけど、『すぐに』と『まずかったら』の言葉を思い出して、
は急いで冷蔵庫に向かった。
その中には、あきらかに二人分ではない食材の数。
しかし、ちゃんと二人で食べきれるのだ。
理由は簡単で、オカマこと鏡ちゃんは、
その細い体からは考えつかないくらい、大食らいなのだ。
は食材を取り出し、裾を後ろにたくし上げると、
小さく「よし」と言って食材をあっというまに調理していった。
が、数十分して雲雀に言われた場所に行くと、
桜の花が満開に咲き誇ってる。
世間で言う、見ごろの時期だ。
はそれに顔をしかめ、そしているはずの人が、いないことにいぶかしんだ。
けど。
ここにいるはずだろうを呼んだ人物の特性を、思いかえして理解した。
は、思い重箱にため息を吐きながら、ここから見える一番大きな桜へ足を進めた。
風がの制服を、咲いている花たちを、舞い躍らせている。
うっとうしい
は、正直そう思った。
怒られてもいいからこなければ良かった、と思うほどその感情は強い。
もう、帰ろうと思えば、周りを風紀委員で固められている場所が見えた。
しょうがない。
は自分が感じている嫌悪感を、押し殺して進んでいく。
が、思ったとおり一番大きい桜の下に、その人はいた。
声をかけて、すぐに帰ろうと思うのにはとまった。
黒い髪に、花弁が散る姿が、あの日を思いだたせた。
目の前にいる人は、まったくというほど似ていないのに、なぜこんなにも被るのか。
この世界で、一番大好きだった人に。
は、名前を叫びたかった。
叫んでしまえと、もうすべて許してもらえと、声が鳴り響いた。
けど、はただその光景から、目をそらしただけだった。
だめだな、本当に私は・・・。
手元にきた落ちてきた桜の花びらを、思いっきり睨みつける。
自分の弱さを、睨みつけれたきがした。
「なにしてんの」
重箱をもってつったっているだけのに、雲雀は声をかけた。
来たことなんて、最初から気配で分かっていた。
いるのに、一向にこっちにこないに、とうとうしびれをきらしたのだ。
「玲奈は?」
「・・・いなかった」
「そうですか」
そのときいつもの状態であれば、雲雀の顔をみて、すぐに分かっただろう。
その言葉が偽りであることに。
しかし、は気付かず、そのまま話を進めていく。
「ねぇ、それより」
ちらりと、の重箱に雲雀は目をやった。
「あ、はい」
は雲雀に重箱を渡す。
顔を一度も合わせない下を向いたままのに雲雀はいぶかしんだ。
は、何があっても下を向き続けていることはなかったから・・・。
雲雀は声をかけようとしたが、外野の騒がしさによりそれは中断された。
雲雀が、外野に目をやると自分が気になっている存在の群れを発見した。
そのなかの一人、山本は、の存在をしると声をかけた。
「あれーもいんのか?
俺、誘ったんだぜ。
けど、電話にでないから・・・あ、それとな。そろそろ携帯買わねぇ?」
「ねぇ、君邪魔 部外者は出て行ってくれる?」
チャッキと音を立てて、雲雀は戦闘態勢に入った。
このときばかりはは彼の性格を喜んだ。
今、誰とも話したく。
はやくここから出ていきたい。
息をするのも苦しい。
息の仕方を忘れてしまったようだ。
次々と動いていく景色に、はただそこに突っ立っているだけだった
ようやく気がついた時には
雲雀がよろけていて、はよくわからないまま
桜並木から出ていく、彼の後をついていった
この場所から出ていく口実を見つけた、とは思った。
後ろから山本が何か言っている、それでもは振り返らずに雲雀を追った。
はよろけてゴミ箱にぶつかってよごれた雲雀の姿をみて、
正直、貴重だと感動したが、それを押し隠しは肩をかした。
「なんのつもり」
雲雀が、離せと抵抗するが、そうとう弱っているのだろう。
は、びくともしないで雲雀を支えていた。
最初は、雲雀がこんな体重なのにどこにあんな力があるのか、疑っていたが。
徐々に、頭がぼうっとしてくる。
視界には、チラチラとピンクの花びらが見えた。
「お弁当、応接室で食べましょう。そっちのほうが私がいいんです」
雲雀が抵抗をやめて、こっちを見ている。
「私、桜嫌いなんですよ」
おそろいですね。
なんて言う顔が、ちゃんと笑えてないことぐらいわかっていた。
雲雀は無言で、も無言で、応接室まで歩いてく。
そのころはもう、ふらつきもなくなっていた。
しかし、雲雀はいつもみたくスタスタ歩かず、ゆっくりと歩いていた
応接室には、
風紀委員の全員が、公園の桜を見張っていたらしく誰もいない。
・・・もともとそんなに人もいないけど
休日でもあるから学校に誰もいるはずもなく、二人きりだった。
重箱を開けて、二人で静かに食べている。
その姿は異質だったが、どこか静かで穏やかな時だった。
そして、急に雲雀は立ち上がり。
「行くよ」
は抵抗も、質問も、無駄だと知っている。
「どこに?」との言葉を、無理やり押し込んでついていけば
「携帯ショップ?」
雲雀は、携帯ショップに入った。
入った瞬間、雲雀への畏怖の声が聞こえた。
すぐさま、若い女の子から、中年のおじさんに変わり。
「雲雀様。ようこそおいでくださいました。」といった。
この男は、店長なのだろう。
だが、ありえないほど、声が裏返り、汗をかいている。
子供に、ここまで怯える大人など日常では、久しぶりに見た気がした。
雲雀は、それに別に違和感を感じることなく携帯を手に取っている。
ちらりと、うかがえば何を言いたいのか分かったように。
「ないと色々不便だから」
時々、彼は言いたい言葉の答えを返してくる。
きっと、頭がいいんだろう・・・羨ましい。
それから、こういうことにまったく疎いに
途中からイライラしたのか設定やらなんやら、すべて雲雀がしてくれた。
代金は、請求されなかった。
それどころか、すごい接待をうけたのに(お菓子やら、お茶やら)
なんだかそれは悪い気がしたが。
自分の貧乏性がでてしまい、ありがたく頂くことにした。
「雲雀先輩 ありがとうございます」
は携帯を見た
開かずに閉じたままの、無機質の塊をじっと何をするわけでもなく見つめている。
それは、小さな子供が始めてのものに興味を示すのと同じだった。
は、真っ白な機械の塊を不思議そうに眺めていれば、急に音が鳴った。
はあたわたしながら開いたが、ずっと鳴り続けた。
一生懸命にボタンを押すが、一向に消えない。
そうだ!!
は携帯をしめた。パタンと音がした。
が、音が鳴りない。どうしようとちらりと雲雀を見れば。
携帯を片手に、雲雀は何とも言えない顔をしていた。
馬鹿にするのを通り越して呆れ、
不思議なかわいそうな生き物を見ている顔をされた。
「・・・」
「・・・教えてあげるよ」
溜息ともに、雲雀は言った。
「ありがとうございます」
は、内心使いきれるのか不安が大きかったため、その安堵から笑顔をこぼし感謝を言葉にした。
雲雀は、少しだけ驚いた顔をしたと思えば
急に顔をそらして足早に、雲雀は歩いて行く
「え、ちょっ」
「早くしてよ。まだ書類残ってるんだから」
は、雲雀の背中を追いかけた。
書類なんてあったのかと思いながら。
修正:2008.11.21