夏祭りの見回りと徴収のために、京洛 を呼んだ。
普通、時間より前に来るのが普通なのにあの子は、現れなくて。
横にいる怜奈は、頬を膨らませて
「待たなくても、草壁さんに任せればいいのに」
と、唇を尖らす。
今日の怜奈の服は、着物だ。
黒地に大輪の牡丹が描かれた着物に
赤い帯で、引き締めて
怜奈の白い肌が際立つ。
髪はいつもと違って頭の上でくくっている
大人びている格好
けど、
少し頑張りすぎたって照れて
ちらちら何度もこっちを見て、
どもりながらも、どうかなって聞く。
君はとても可愛かった。
「可愛いよ」
そういったら、顔がみるみる赤くなっていった。
僕たちは恋してるね。
そう、思ったんだ。
が、姉が一向に来ないことで僕のテンションは下がった。
あの馬鹿はどこいっているんだ。
遠くから聞こえる声。
「も来てたんか。その着物似合ってる」
この頃、よく引っかかる声の方向へ僕は向かった。
山本 武と、草食動物たちが、一人の女に笑っている。
それにしても、女の手には三本のチョコバナナ。
・・・・・・どれだけだろう。
先ほどの言葉から推測すると、
もしやと思って僕は、その女をまじまじとみた。
白い生地に紫陽花が描かれている。
それに、長い三つ編み。
まさか。
僕は、近づいた。
遠くで、僕を呼び止める声。それを振り切って
早足で歩く。
「なに、してるの?」
声をかけるまで、信じなかった。
君が、京洛 だなんて。
いつもよりも、大人びている。
そして、なによりも彼女の自然体を見ているようで。
京洛 が、僕になにかいってチョコバナナを落としても、
買い食いしていたことさえ、気にかけないほど
みいってしまった。
ようやく口から出た言葉といえば、
「・・・好きなのそれ」
「さっさとたべなよ」
彼女が、落ちたチョコバナナを悲しそうに眺めているから
そんなことを言っていた。
本当だったら、説教するはずなのに。
「おいしい」
そういって、チョコバナナを凄く美味しそうに食べている。
頬が落ちそうな顔で。
僕は、説教をしようとするのを、諦めた。
だって、体中の血管に、温かいものが廻ったから。
そんな気分じゃなくなったんだ。
すると、京洛 の顔が変わった。
目が落ちるんじゃないかって言うほど目を見開いて、
それから何か考え込んでいる。
ときどき、彼女はおかしな行動をする。
甘いものをたべてネジが外れたんだろうか。
けど、怜奈が来てからは、普通の顔に戻った。
つくづく変な子だ。
彼女は、草壁と回るからといって、
履いていた下駄を鳴らした。
カランコロンという音が小さくなる。
怜奈は、僕のそばへ来ると腕に手を回して
悲しそうな顔して、むくれた。
「呼んだのに、私」
あの声は、怜奈だったのか。
「・・・ちゃんの格好、似合ってたでしょう?」
僕は、答えない。
「だって、普段着だもん。変なんだよ。着物か制服しか見たことないし
だから・・・・・・ごめんね。ちょっと嫉妬した」
怜奈は顔を、ふせいでこっちをみない。
「ありえないのにね。恭弥さんとちゃんの組み合わせは。
だって、恭弥さんは私が好きだし、
それに、ちゃんは・・・きっと・・・・・・なんでもない。
ごめんね?変なこといって」
僕は、頭を振る。
彼女の言いたいことはわかっている。
彼女はきっと誰も好きにはならない。
カランコロンと音がした。
怜奈の下駄の音なのに、あの子のと錯覚してしまう。
そんなことはありえないのに。
それから、このごろ狙っていた獲物を不本意だが、
草食動物たちと戦って、狩れた。
それから、僕は得たものを自分のものにしようとすれば、
弱いくせに僕にはむかってくる。
よし、咬み殺そうか?
そう思い始めた頃、
「よう、」
「武くん。よくわからないけどお疲れ様」
「はは、からもいってくんねぇ?こいつ俺らの金巻あげようとしてんだよ」
あの子に山本 武が話しかけている。
そんな近い距離で喋らなくてもいいはずなのに
あの子もあの子で、それをすんなり受け入れている。
「・・・雲雀先輩」
なに、その顔?僕のいうことに逆らうの?
その男の言うことを聞くの?
「それは僕がとったんだから僕のでしょ」
「そうだよ。私たちのものだよ」
「苦労して働いたんですから、労働にはそれ相応の見返りがあるんですよ
彼らに返してくださいというかもうそろそろ終わるので、帰りましょう」
「えーちゃん頭かたい」
そういって、帰ろうとするあの子。
カランコロンと鳴り響く下駄の音。
なにかが落ちていく気がした。
「はやく戻るよ」
僕は、そんなことを言っていた。
今日は調子が狂う。
ずっとこの子に狂わせている。
「まってよ〜恭弥さん」
怜奈がついてくる。
そして、君はこなかった。
「」
誰かの声に邪魔されて。
カランコロン。
また、音が遠ざかる。
2008.12.20