携帯をさっきから眺める。
画面には、一件の電話番号。
桜の花びらがその番号を隠す。
それと同時にお腹の音がなる。
これは、しょうがない。
生理現象だから。
これは、あいつがわるい。
さっさと察しないから。
だから、僕はボタンを押した。
京洛 とかかれた名前がディスプレイに現れる。


初めてのことだらけで、
あの子の声を聞く前に僕は用件だけを話した。


なんで、一人だけになりたくてみにきた場所にあの子が必要かなんて
そんなの、決まってる。
美味しいと噂されているごはんは魅力的だ、コンビニ弁当も料亭の味にも飽きたんだ。
あのときの、カップケーキの味は思い出した。
それだけ。


呼んでから、少したってあの子がきたと、草壁から連絡があった。
僕は、桜の木から降りようとして踏みとどまった。
これじゃ、楽しみにまっていたようだ。
頭を枕にして桜の木で眠る。
あの子の気配に気付いて、目だけをやる。

あの子は、桜の中にいた。
満開を迎えた桜は散るだけ散ってあの子の上に降り注ぐ。
隠れてしまって、いなくなってしまう。

僕は、いつのまにかあの子の前にきて

「なにしてんの」

あの子は手を思い切り睨んでいた。
そのせいで顔が見えない。
こっちをむけとばかりに僕は声をかける。

「玲奈は?」


「・・・いなかった」


「そうですか」

それでも、目の前にいる子はこっちも向かずに話す。
いつも怜奈の場所を聞くくせに、今日は聞いてこない。
その当たり前な行動に、いつも思い知らされる。

「ねぇ、それより」

君はいつになったら、僕を見るの?
下を向いたままは、気味が悪いよ。
君は僕の所有物で、馬鹿でアホでどうしようもないから
心配してあげる。

そう、思ったのに・・・・・・

「あれーもいんのか?
俺、誘ったんだぜ。
けど、電話にでないから・・・あ、それとな。そろそろ携帯買わねぇ?」

うるさい声。
わざわざ、あの子との仲を見せ付けてくる。
目には殺気にまじった嫉妬。
僕は、それに答えるようにトンファーを握る。


「ねぇ、君邪魔 部外者は出て行ってくれる?」




そして・・・僕は負けて
桜の下にいれば立ちくらみがする。
気持ち悪い。足元がおぼつかなくなったことなんてほとんどない。

・・・あの子はどう思っただろう。
強い人が好き。その言葉が頭をめぐる。
だから、


「なんのつもり」

君はどうして、今僕に肩を貸しているの?
山本 武に呼ばれているのを断ってどうして僕の元にいるの?


「お弁当、応接室で食べましょう。そっちのほうが私がいいんです」
「私、桜嫌いなんですよ」


・・・ブサイクな顔して言わなくてもいいよ。


応接室で二人で食べる。
お重に入った食べ物はどれも美味しくて
ゆっくりと穏やかなときが、昔に重なった。
そういえば、久しぶりに二人きりになった。
外では、桜が風がなびいている。


ゆっくりと箸を使う手があまりにも綺麗な動作で魅入った。


携帯がないと色々不便だと思ってそれにごはんの礼もかねて
携帯を買いに行く。

携帯を買えば、もの珍しいそうに見続けている。
電話をかければ、なぜか携帯を開けて閉めた。


君のあまりにも現代人ばなれした行動に呆けた。


それから・・・君はあんまりあの顔はしないほうがいい。
ありがとうって言われるのにもあんまりなれていないんだ。


僕は、小さく嘘をつく。
それしか、逃げる方法はない。
知らなかったことが少しずつ増えていく。
そして、知らなかった僕がそこにいる。

なんで、あの時、恥ずかしいようなむず痒い気持ちになったのか僕にも分からない。





2008.12.15