よく、覚えているのは雪の日。
草食動物たちと・・・山本 武が僕の学校で雪遊びをしていた日。
殺気だった目で僕を見る彼の姿に、僕はトンファーを出すのも忘れて
立ち去った。
今度は逃げではない、上を見ればあの子がいたから。
あの子は、馬鹿なのにこれ以上馬鹿になるらしく上の服も着ないで
屋上にいた。

あの子と赤ん坊。
僕は黙って上の服をかけた。
なぜ、そうしたか。
理由は簡単これ以上馬鹿になられると困るから。

その行動に返された小さな呟きを聞いた。


正月。
僕は怜奈と共に、京洛家に来ている。
正月といっても親戚めぐりみたいなことは終わった日にちだ。
怜奈が僕に家を見せたいといったから僕はここにいる。

日本家屋らしい大きい門構えをあり
そこから石段が何段もあり、また門をくぐって
広い庭に出たそれから、数分歩くと出てきた建築物は古臭い建物だが、歴史もあり
・・・それ以上に何人住んでるのと思うほどに広かった。
怜奈は、僕の腕を掴み、自分の棟があるといって僕を引き連れる。
はっきり言えば、彼女にここは似合わないと思う。
言葉に出来ない何かがその場所に渦を巻いて存在している。
そんなものを感じた。
けど、
怜奈の部屋は別段そんなことはなくて
彼女の匂いで溢れかえっていて、ふっとこめていた力を抜いた。
ここの空気に飲まれないように気をいつの間にか張っていたようだ。

それから、怜奈とただ話した。
たわいもない話でにぎわった。
そして、怜奈が誰かに呼ばれた。
ちょっと待っててと言われて怜奈が席を立ち
僕は主のいなくなった部屋でぼんやりと座っていた。
ふっと視線を本棚にやれば、怜奈の好きそうな本たちを眺める。
その人なりを調べるのなら本棚だ。
その本たちは怜奈の性格を十分表していて、
少し楽しめて・・・それから僕は見つけた。
赤い名前のない本を。
暇だった。眠ろうとしてもここではなかなかなれない。
人の気配がわんさかする。
だから僕はその本をとった。


その本は・・・アルバムだった。


ペラペラとめくるたびに古くなるそれ。
最後のページ。

たった一枚だけ。
家族の写真。

小さな怜奈がいて笑っている・・・それから・・・それから
これは誰だろう?

このぶっすと顔を歪めて泣いている跡が分かる少女。


僕は怜奈の気配を感じてその本を閉めた。

「恭弥さん」

彼女以外の気配を感じる。

「紹介するね。京洛家の当主さん」

「よ。怜奈の恋人だって?」

「・・・そうだよ」

なんていう、威圧感。
僕は睨み返すことしかできない。

「ふーん。なるほどねぇ」

そういって、僕をじっと上から下まで見る。
不愉快だ。
このまま殴ろうかと思ったが、

「ちょっと、見たいって言うからわざわざつれて来たのに、その反応」

「ん?ああ、いい男見つけたな」

男は、笑顔で怜奈の髪を乱雑に撫でた。
そっから、威圧感は消えた。これが・・・京洛家当主。

帰りに怜奈とその男が帰りまで見送りにきた。
二人の姿は、まるで兄妹で
その単語だけでもう一人の実質姉を思い出す。

門までいって、怜奈とその男の振る手を背にうけ
僕は帰った。
それから、思い返す。
怜奈のアルバムに一つものっていないあの子。

それから、思い返す。
男が小さく呟いた言葉。


「ん?ああ、いい男見つけたな・・・は」


それから・・・それから思い出す。

あの子の

「ありがとう」



空を見れば真っ暗で、月と星が光っていた。





2008.12.13