最近噂されている原因を咬み殺しにいった。
風紀が乱れるのはよくない。
だから、僕は山本 武に会いに行った。
そして、もう一人の原因を咬み殺そうと思った。
そう、思って一週間が経った。
「なんでしょうか?草さん」
「いや、この資料だがどこにあるか知っているか?」
「あ、それですねそれはえーと」
その原因は、草壁と仲良く、僕が言うと遅いのに
草壁が言うと速くなる。
まったく、馬鹿でしょう。
なんで、そんな顔してるの君は、僕の言うことなんてほとんど聞かないし
遅いしとろいし使えないし
草壁を愛称で呼んでるのは君だけだよ
どこがいいの、この葉っぱ番長の。
・・・短所なら並べて何時間は語れる。
面倒くさいからしないけど。
いつのまにか、僕は二人を正確には京洛 を睨んでいた。
風紀を乱す奴は許せないただそれだけ。
そう、それだけだ。
横から、ふわりと太陽の香りと向日葵の笑顔を持った
怜奈が、笑った。
僕の、イライラはそれで少しは解消される。
だって、怜奈は僕の癒しで、僕の彼女だ。
二人っきりは嬉しい。
君といれるから。
ポカポカした気分になれる・・・本当に正反対だ。
甘えるように擦り寄ってくる。
猫のようで可愛い。
君の長所なら何個でもいえる。
怜奈が、鈴のような声で言う。
「二人は、お似合いだね」
草壁に書類のことについて聞かなければいけなかったから
僕は草壁を探した。
別に、二人のことが気になったわけではない。
「草さん」
廊下で、京洛 の抑揚のない声が響く。
「ん?」
「草さんは優しい人ですね」
「・・・」
「私そんなところ結構好きですよ」
フリーズ。
京洛 から久しぶりに聞いた悪魔のような言葉に
心が震えた。
好き?そんな草を口にくわえ
壁のような体格をもち、まさしく名前を表したような男のどこが!?
優しいから好き?
君は強いのが好きなんでしょう?
僕は、草壁を殴ってた。
好きという、言葉が耳から離れない。
君が僕にもう言うことのない言葉なのに、
なんでこいつには簡単に言ってるのとか。
そんなことは決してない。
ただ、風紀が乱れるから。
次の日。
京洛 の心配した声が聞こえた。
草壁が出て行って、珍しく怜奈もいないから
二人になった。
・・・いい機会だ。
「ねぇ」
呼べば、近づいてくる。
涼しげな顔で
「はい」
京洛 の顔を真正面から久々にみた。
やっぱり阿呆面で、なんでこんな女にてこずってるのか
自分でもよく分からない。
本当に、よく分からない胸が重りをつけたように沈む。
「君さ、草壁と付き合っての?それとも山本 武?」
顔を見れば、阿呆面をもっと阿呆にさせた京洛 。
解答が帰ってこない。
解答を聞きたかった。いや、聞きたくない。
なんなのこれ?僕ははっきりしないことは嫌いだ。
「君聞いているの?」
といえば、は顔を青ざめさせて答えた。
「えーと私は誰とも付き合っておりませんが」
・・・・・・。
「へー」
「だ、大丈夫です。草さんに私はつり合いませんからね」
つりあってたら、どうするの?
「それと武君は」
武君。
昔、京洛 が言った言葉がよみがえる。
恭弥先輩って呼んでもいいですか?
彼女にとっての、愛情表現。
そう、いうこと?
僕は、トンファーを投げた。
「付き合えばいいじゃないか」
自分でも、殺気が出ていることは分かっている。
でも、コントロールできない。
最初から咬み殺すつもりだったけどこれじゃ・・・殺してしまう。
恐怖で怯えていたはずのそれは、急に笑顔になって、
「そうですね」
と、答えた。
笑顔なくせに、泣くのを耐えたような顔。
何かが、壊れそうだ。
「なんで」
それは全てにかかっていた。
なんで、笑うの?
なんで、諦めたように笑うの?
なんで、なんで?僕は、君にそんな顔させてるの?
手には何もない。
衝動だけで、僕は殴った。
子供のかんしゃくのようにただ殴った。
その間、彼女はその笑みを持ち続けたまま気を失っても
そのまま・・・。
生きてるかなんて、確認するのにこんなにも手が震えたことはない。
この笑みのまま死なすわけにはいかなかった。
彼女の傷ついた体を抱きしめて自分よりもかなり小さいそれに、
どこか僕は、彼女が鉄で出来ているイメージがあった
何をしても壊れない
踏んでも立ち上がってくる
そんなイメージを。
初めて触って気付いた。
彼女は、そんなんじゃないんだということ。
彼女の体は、僕が思っていた以上に怪我だらけで
包帯を巻くたびに
胸が、虫に食われてそこから広がっていく鈍痛を感じた。
なんで、こんなことをしたんだろう。
保健室に横たわる彼女
僕はそれを黙ってみていた。
何時間経ったか分からないほど彼女をみていた。
起き上がってくる気配がする。
僕は彼女が見れない。
驚いた気配がする。
そうだろうね、僕は他の人を治療なんて初めてした。
「私は大丈夫です」
「体が異常に頑丈だって知っているでしょう?だから大丈夫です」
大丈夫だと笑う君にあの笑いはなかったけど、
僕は
「君馬鹿でしょ」
「ええ、馬鹿です」
あの時と同じ会話。
君が泣けばいいと思った。
そして、僕はその後知る。
君は、泣けないことに。
僕は、君の短所を何時間でも語れる。
だから、僕は君が嫌いなんだ。
だって、それは、君をよく見ているということだから。
2008・12・13