「雲雀、話したいことがある」
赤ん坊からの電話。
内容を言えば、二者択一。
『どっちととる?』
言っている意味は、嫌なくらい分かった。
お茶練習したんだ。
お茶葉も、新調したんだ。
この書類もやっといたよ。
これはもういらないよ、ね?
ね、恭弥さん。私、恭弥さんのこと大好きだよ。
怜奈は、そういってお茶を注ぎ、
真新しい缶をみせて、
誰かがやるはずの書類を渡して、
一個のカップを捨てて、
それから耳元で囁いた。
もう、一人はずっとグラウンドにいた。
ここのところ体調がそんなにかんばしくないはずなのに
今日だって、保健室に運ばれたのに
山本 武の応援をしている。
腕に、いつも付けていた腕章はない。
終われば、二人で帰る。
恋人みたいに、楽しく語り合う二人の後姿を見ていた。
『は違う奴に頼むぞ』
赤ん坊の言葉が、頭の中で繰り返し流れる。
「恭弥さん、一緒に帰ろうよ」
怜奈が、腕にくっついたけど、僕は。
「まだ、仕事があるから先に帰ってて」
僕は、どちらをとるのか。まだ、迷っていた。
答えは出ているのに。
誰もいなくなった学校。
夜もふけて真っ暗だ。
応接室だけに明かりがともる。
ゴミ箱をみれば、カップが落ちている。
割れて砕けていた。
なんで、今日来ないのかも知っていた、
なんで、怜奈がそんなことをしたのかもわかっている。
分からないのは、彼女宛のメールの内容。
その日は、真っ白ろのままで終わった。
次の朝。
僕と怜奈だけにさせた応接室。
「えへへ、嬉しいな。恭弥さんの淹れた紅茶が飲めるなんて」
紅茶に口をつけているけど、本当は飲めていない。
「怜奈」
僕は、怜奈を見た。
君は、僕に何を言われるのか分かっていて、
いつもより陽気で、話をずらそうとする。
「恭弥さん、今度デートしよ、ね?
ここんとこ、バトってばっかで、潤いも必要だよ」
「怜奈」
「どこがいいかな?動物園とか、あ、でもお客さん殴っちゃうね」
「怜奈、聞いて」
「やだ、やだよ・・・・・・なんで、私は恭弥さんが好きだよ。
恭弥さんだって私のこと好きでしょう、そうでしょう?」
涙を、ためて僕に言う。
胸に響く。それでも、言わなくては。
僕は、決めたから。
「怜奈、あの子の腕章を返して」
怜奈は、涙を流して泣いていた。
「・・・・・・・・・・・・私も誰かに連れてかれたらいいんだ。
そうだよ、ずっと同じで障害がないから。
そしたら、恭弥さんは私を」
「怜奈!」
僕は、大きな声を出した。
こんなに僕を好きでいてくれた人を、
僕も好きであった人が、これ以上壊れてしまうのはいやで、
でも、傍にいって涙を拭うことはもうできない。
「怜奈、の腕章を返して」
あの子の名前を呼べば、彼女が震える。
「な、んで?私と恭弥さんは恋人であいつは邪魔者で
恭弥さんのこと好きでもないのに好きっていう、酷いやつだよ」
「それでも、僕はあの子がいい」
外では、草食動物たちの声騒がしい。
「好きじゃないの?私のこと」
「好きだよ。でも、恋じゃない」
友達で、妹みたいで、曖昧な感情だった。
分からせたのは、あの子。
「・・・・・・・・・それじゃ駄目だよ。諦めきれないよ。
ねぇ、恭弥さん。あいつは本当に酷いんだよ。
全部ぜーんぶ、分かっていていつも行動しているよ。
そんで、だーれも誰も愛さないよ。
恭弥さんの傍にいたのは、どうせくだらない感情でしかない。
ねぇ、ちゃんはね、きっと六道 骸が好きだよ。
恋じゃなくても好きだよ。それは、きっとあの人だけだよ。
だって、ちゃんが、自分のこといったのは、あの人だけだもん
だから、私は恭弥さんを渡せないよ」
そういって、涙を流しながら笑う。
君はとても綺麗で、
もしを考えてしまう。
もしも、僕がを知らなければ、僕は君を愛していただろうか。
「こんにちは」
いいや、
がいなければなにも進まなかっただろう。
全て、いつも通りの日常。
ねぇ、覚悟しておいてよ。
君に僕のことを愛させてみせる。
じゃないと、フェアじゃないでしょう?
僕ばっかりこんなに愛してるなんて。
2008.12.25