僕がこのいけ好かない奴を倒したとする。
そしたら、京洛 は僕をどう思うか。
魔王から救われた勇者のように扱うだろうか。
答えは、ノーだ。
自ら望んで傍にいたのだから、そんなことあるわけがない。
だから、君が寝ていてくれて安心した。
君が傷つくのが嫌だから、じゃない。
もっと自分本位な考え。
僕は、僕以外の男のことで君が傷つくところがみたくなかった。
それなのに、傍にいて欲しかった。
なんて、矛盾。
君に触れて、全ての感覚で、君を感じて
手に入れれたと思ったんだ。
けど、
そんなの、まったくの嘘。
誰かの叫び声が、泣き声に聞こえた。
すべてを失って、世界すらも崩壊しそうな声で、目を覚ました。
まだ暖かいソファは、君が近くにいることを教えて、僕は君を探した。
君はまた、僕からいなくなろうとする。
僕から離れて違う所へ行こうとする。
それは、許せなくて。
僕は、自分のエゴで君を傷つけた。
「ま、ちなよ」
「・・・離してくれませんか?」
君は僕を見ていない。
地面をはいつくばってピクリとも動かない無様な男を見ている。
二人の何か言い知れないもの感じてとって、思い知らされる。
僕がここに入ってはいけない。部外者だと。
けど、ここで手を離せば、あのときみたく君はいなくなる。
それが、怖くて駄々をこねた。子供みたいだと、いわれてもかまわない。
君がやっと僕のほうを向いて見えたのは、
何も映し出さないくもりガラスのような目で、
「私は、骸側の人間です」
そんなことをいう。
・・・・・・だからなんだ。
「君は、風紀委員だろ。なら、僕のものだよ。アイツのじゃない」
君は、一瞬動きは止めた。
さっきまでの無表情を一転して、いつもの顔で僕をさとす様に言う。
「何言ってるんですか、怜奈がいます。私は必要ないでしょ。だから行かせて下さい」
必死になる君をはじめてみた気がする。
どこがいいの、あんな男の。どこが・・・
「・・・・・・行かせない」
ゆっくりと、落ちていく君の体。
受け止めれば、君の匂いがした。
怜奈のようなお日様の匂いではない。
それなのに、安心したんだ。
「この子は、僕のだから。あいつらとは関係ない」
そういって、僕も、崩れ落ちた。
最後に聞こえたのは、
「おいて、か、ないで・・・」
君の小さな音にならない声だった。
僕は暗い闇の中で、彼女の本当の言葉を聞いた。
静かな、個室に一人の少女が寝ている。
彼女には外傷はない。
けど、2・3日たっても、目を覚まさない。
医者が言うには、精神的ダメージが強くそのために深く眠っているのだと。
僕が思ったことといえば、
ここに君がいる安堵の気持ちや、
君が大切なものを失わせたという後悔と嫉妬。
何度も僕の耳に聞こえてくる君の小さな本音。
口に手をあてて君をただ眺める。
あの時の応接室を思い出した。
君を殴リ続けたあの日を。
あの日から、僕は君を傷つけるもので
あいつが、君を守るものだったのか。
そんな思いが、輪を描いてクルクルと回り廻っている。
僕は、君になんていえばいいんだろう?
それなのに、この場所から離れられない。
カーテンが風で揺れている。
ピクリと君の指が動いた。
ーー僕は動かないーー
目蓋が開いて、天井を眺めて、手をかざして、僕を見た。
ーー僕は動けないーー
本当、君は、どうしてそうなんだ。
どうして、そこまでに頑なでいれさせてくれないんだろう。
無表情なら良かった。僕は君の怒りをうけいれたのに、
泣かれるなら良かった。僕は君を慰められたのに、
怒って、泣いて、恨んでくれれば少しでも僕を見てくれるのに。
君は、やっぱり笑った。
ザーと雨のように感情が流れていく。
それでも、僕は、君を抱きしめてどこにも行かないように閉じ込めた。
どこまでも自分勝手な自分。
「・・・僕を恨むかい?」
こんな恐怖はない。
僕は、君の顔が怖くて見れない。
返ってきた言葉は否定する言葉、でも。
「・・・いいえ」
「ありがとうございます」
そういって、君は笑顔で絶望をみせた。
2008.12.23