夏の日差しが残る空は雲ひとつない青空。
風も聞こえてはこない。
僕と怜奈は、初めてのキスをした。

考えれば、付き合ってからそういう行為をしていなかったことに気付く。
キスは、甘いリンゴ味。
怜奈は、ちょっと顔をそめて言う。

「えへへ、リンゴの飴を舐めていたの。
好きなんだ。リンゴ」

もう一回しよう?
怜奈が、目を閉じて僕との距離をつめる。
積極的な、彼女。
何か無性に僕とのつながりをつくろうとする。
寂しい思いをさせているつもりは、ないのに。
何を焦っているんだろう。

僕と怜奈は、恋人だよ。

耳に囁いて二度目のキスをした。




目を開らけば・・・君はどれだけタイミングが悪いの?
京洛 
何、みてるの。さっさとどっか行って。

「暇なら、雑貨用品買いに行って」

君は、頭を下げて出て行く。
さすがに、居心地が悪かったらしい。



怜奈は、いつもより機嫌よく。
赤ん坊に呼ばれて、どこかに行った。
今日は、嬉しかった。そう言って僕の一等好きな笑顔を浮かべて。


手を振って気配が感じなくなると、僕は椅子に深く腰掛けた。
さっきから、体中に稲妻が走っているように、
ツキツキと痛んでる。

怜奈が、僕は好きなのに。
あの子のあの時の顔が見れなかったこととか、
どう思ったかなんて考えてる。

なんでだよ。
僕は、適当に壁を叩いた。
大きな音はしたものの穴は開かない。
こんなの僕らしくない。

悪いのは、こんな時間を与えたあの子だ。

「先輩〜買ってきましたよ」

なんて、のんきな声。
いや、いつもよりもなんとなく機嫌がいい?
ツキツキと、痛む。

「知人がいたんで話し込んじゃって」
「あはは、アイスティーいれるんでこれここにおいときますね」

鼻歌まで聞こえる始末。
ツキン、ツキン、
そうだね。君は僕と怜奈が仲良くなって嬉しいんだろう。

「はい、どうぞ」
僕が、嫌いな笑顔で渡す。

アイスティーを一気飲みする。
外は、どうやら暑いらしくうっすらと汗をかいていた。
京洛 は、ふーと声に出すと
書類に取り掛かる。君は、あのことがなかったように振舞う。
どうでもいいことなんだろう。
また、痛みが増す。
すると、どこかから視線を感じてみれば、
あの子は僕を見ていて、
目が合えばふんわりと笑う。
たかが、そんだけで、そんだけで、
僕の中から痛みが、消えた。


本当、なんなんだろう。


それから、君は、めずらしくミスなく終えて帰り仕度をしている。
帰るの。
帰ってしまう。
帰ってしまうのか。

僕は、いつの間にかあの子の腕を掴んでいて。

「手離してくれません?」

その言葉に、はっとして手を離す。
次に、口から勝手に言葉が出る。

「暗いから送っていくよ」

一人で帰したらいけない気がした。
君は、びっくりしてそれから、なんだかよく分からない表情をして、
いつもの顔に戻って。


「大丈夫です。迎えが来てますんで」
「さようなら雲雀先輩」



すっと、僕の横を通っていく。
一人きりになった応接室で、苛立ちや痛みのほかに別の感情が芽生えた。
あの時、君を殴った後に似た別の感情。


それから・・・


それから、君はいなくなった。
文字通り、どこを探してもいない。

僕は知る。
あの時の言葉は、本当の別れの言葉だった。と






2008.12.21