白衣を風になびかせて長い階段を登る。
ああ、タボコの煙が目に染みる。
上品でかったくるしい日本の美とかいう建築物で、
酒も飲まずにタバコもやめて待つ相手なんて極上に違いねぇ。
「お待たせしました」
襖が開いて入ってきた相手は、真っ白な女の子。
俺がにやりと微笑めばにっこりと笑顔をもらす。
たっくあの時よりもいい笑顔しやがる。
眩しいぜ。
「来てくれたんですね」
「俺がお嬢ちゃんにあいにいかずにどこに行くんだ。
ああ、レディーの方がいいか?」
「お嬢ちゃんで、いいですよ。あの時は結構な事いいましたけど、
私はまだ恋のこの字も理解してないお子様で十分です」
「いうねぇ」
どうぞ、といわれて飲み物を進められる。
緑茶をすすっていれば、目の前の少女はあの時のようだと笑った。
確かに味はかなり違うが状況は似たようなものだ。
「今日はどういったご用件で?」
「あーちゃん。今日がなんの日か知ってるか?」
「土曜日です」
「いやいや、曜日聞いたんじゃなくてさ。
今日は女の子が男の子にアマーい思いをあげちゃう日だろう?」
「ふふ、分かってますよ。はい」
懐から箱を渡す。シンプルな包装紙で包まれていて、それが彼女らしさを表していた。
俺は、包装紙から中身を開ければ
生チョコが見事に整列していて一つつまんで口に入れる。
甘い味と苦い味の微妙なコントラスト。見事だ。
料理がうまいとお菓子づくりがうまいとでは意味が違うが
彼女の場合全ての料理が得意なようだ。
最後に残ったココアパウダーを舌でなめとる。
「美味かった。ごちそうさん」
「私がつくったとは言ってないんですけど」
「俺ぐらいになるとそんくらいすぐに分かるんだよ」
「そうですか。ありがとうございます」
彼女がにっこり笑う。それから言う言葉なんて理解できてる。
「以前と同じとはいきませんが、この通り。ここまでは分かるようになったんですよ」
彼女は聡い。
来たときからチョコをせしめに来ただけじゃないと気づいていた。
俺がわざわざこの日に来るだろう事を知っていてわざわざ手づくりを用意していたのだろう。
「毒の副作用。視力、味覚の低下だったっか」
「よく分かりましたね。気づいてるのはあなたぐらいですよ」
「それと、時々記憶が抜ける」
「・・・・・・本当に素晴らしいドクター」
「で、今はどのくらいなんだ?」
「味覚は確認した程度です。視力は時々白黒になるのと光の暗明がハッキリしない
記憶はボケてると思われる程度と言ったところでしょうか?」
「」
「はい」
「俺の患者になるつもりは?」
「・・・・・・とてもいい話ですね、ですけれど分かってますか?今私はここから離れるはできない
その意味が。あなたは自由な方だ。縛りつけられたくはないでしょう?」
「勘違いするなよ。。俺はな、とびっきりの女のためなら会いにいくことなんて苦じゃねぇんだ」
そういえば、目を見開いて笑う。
その笑顔はとても年相応のもので、柄にもなく見惚れた。
「根負けです。分かりました。お願いします。ああ、それとドクター
了承の代わりにベーゼでもしようと近づけば、
は俺の上を見た。
恭弥先輩いますよ?」
後ろから最大級の危険をヒシヒシと体で感じる。
今の時間はまだ、学校やってるだろうに!
雲雀が、俺の食べたチョコと俺を見ている。殺気が増えた。
「ねぇ、何してるの?害虫」
ちゃん、笑ってないで弁護して。
本当、いい女にはトゲがある。
ーその後ー
「何怒ってるんですか?恭弥先輩」
「・・・・・・チョコレート」
「ああ、先輩の分もありますよ」
「そうじゃなくて、なんで僕より先に他の男にあげちゃうの!」
「・・・・・・(順番があったのか)分かりました。次からは先輩優先にします」
!!違う。本当は、僕だけにしてって言えば良かった。そんなの後の祭り。
2009・2・14