雨がしとしと降る。
いつもよりも静かな保健室で、クスクスと僕の下から笑い声が聞こえた。
「どうしたんだい?」
「うん。これみて」
そういって、彼女が渡したのは、雑誌の占いコーナーで、
彼女の星座には、永遠の愛がかなうかも。と書かれている。
彼女はそれをみて、眉をひそめた。
「永遠の愛ですって」
「永遠を信じない?」
「・・・・・・永遠は信じないよ。形あるもの必ず壊れてしまうもの」
うつむいている彼女に僕はいいよどむ。
まだ、彼女は藤くんのことを忘れれないのだろうか?
それが、悔しくて、胸が張り裂けそうで、僕の太股に頭をおいてる彼女におい被さると、彼女は、僕の激情に、柔らかな微笑みをくれた。
「永遠なんて言葉より、逸人さんを信じてる。
誰よりもなによりも、私よりも信じてるわ」
そういって、僕のさわり心地がいいといえない頬にキスをした。
ああ、大誤算。
僕が思っていた以上に彼女は羽化してしまった。美しく魅力的に。
僕らの名前を言い合うのは時間がかからなかった。
と、いっても、僕が最初から名前呼びで、不公平だ
とすねたところは、じゃあ、みんながいないところで、呼ぶねと
何十回の失敗の末に、今のように、いない場所といる場所で、
完全言い換えれるようになった。
その間に、は、恋人の僕に贔屓目にみなくとも、
どんどん綺麗になっていった。
もともとかわいらしい顔立ちをしていたのだけれど、そこに自信がついてきて、
めきめきと恐ろしいことにまだ成長を続けている。
学校のクラスのことも、友達のことも、鏑木さんのことも、自分で解決してしまった。
ちなみに、僕は彼女の病魔を食べていない。
僕が、彼女を愛した日に、自分の力で消滅させたのだ。
その理由の僕の考えだけれど。
いや、もし違ったときに恥ずかしくていえないのだけれど。
「なに戸惑っているの?」
なんで、バレたのだろうか。もしかして、は超能力者なんじゃ。
なんてお決まりなことを考えていれば。
「顔にでてるよ。言って?アイコンタクトっていうけど、言ってくれなくちゃ分からないよ」
ふっと笑う。その姿は、中学2年生と言うには大人びていて、
だけど素直に感情をぶつけてくるところは子供で、
そのアンバランスさに、惹かれながら僕は秘密をばらした。
「僕は君に秘密を」
秘密を言ったら、君は僕を嫌いになるだろうか。
僕の所にもう二度と来ないで、藤くんのような失敗も僕のような失敗もしない
男のもとへ行ってしまうんじゃないか。そんな思いがよぎって口を濁せば。
「私に病魔がついていたこと?それを払わなかったこと?」
「え?」
なんで、それを。
「逸人さんって隠し事できないよね。
前、私のうちで疲れて寝ているときに言ってたよ。ごめんなさいって」
は、苦笑していた。
まさか、寝言で謝っているとは、大誤算だ。
そして、僕よ。なんて小心者なんだ。
あたたたと、自分自身を、恨んでいれば、は、
そのまま話を続けた。
「病魔って先生の力で払うこともできると思うけど、
自分ともう一人の力だって直すことができると思うの。
だってね、私のそれが消えたのって、逸人さん。
あなたが私を愛してくれてからだよ。
自信なんかなくて、自分なんて消えちゃえって思ってたけど、
逸人さんが私を愛してくれた。
綺麗で格好よくてキラキラしている逸人さんがね。
どうしようもない私を愛してくれたなら、私は、それに答えようと思ったの。
怖くてしかたがないこともあったかな。
でも、逸人さんは私を守ってくれるヒーローだもん。
ヒーローの横にいるのに、泣き言なんて言ってられないよ。
日々、戦場で、日々、成長。それでね、一緒に戦えたら幸せかなって、わっ」
「、、」
なんて、可愛いこというんだ。
好き、大好き、愛しい。全ての言葉じゃ補えなくて
名前をなんども呼んで、抱きしめた。
の体は、相変わらず小さくて細くて、僕の腕が余るくらいだけど、
それをぎゅっと包み込めば、の体温を感じて、の匂いを感じた。
僕の悩みが、とても大きかったのに、は大丈夫って笑って蹴飛ばした。
の大きかった悩みも二人で、蹴飛ばせて、
僕ら二人なら、蹴飛ばせる。そんな二人を無敵だねって無邪気に笑って、
一生のうちに感じれるかどうか分からないほどの幸せを感じた。
そんな僕の髪を撫でて、は言った。
「うん。言えなかったけど、ようやくいえそうかな」
何をだろう。の顔が見えない。だけど、温もりを失うのもヤダ。
二者択一に悩んでいると。
「好きだよ。愛してる。永遠なんかよりずっと。逸人さんだけを愛してるよ」
言われた言葉に、ガバッと起き上がる。
「それって、本当、絶対?」
「逸人さんって時々子供っぽいよね」
「こ、子供っぽい僕はだめ?」
「いいえ、むしろ大好きです」
「」
「うん?」
「結婚しない?」
結婚は、早くて16歳からだと知っている。
僕が言った矛盾には気づいていたけれど、
その真意も気づいて、言葉のかわりに溢れるほどの涙を流した。
僕は、彼女の言葉を待たずに、左の薬指に、シンプルな指輪をつけた。
「安くてごめんね」
「・・っ私は、これが、これがいい」
そういって、涙をゴシゴシと強くふくとは、
「逸人さんのは?私がするから」
そういって、僕の薬指に指輪をつけて、二人笑いあった。
「これで、私、逸人さんのだね。で、逸人さんは私のだ」
「うん」
「浮気しちゃ駄目だよ。私、今度は泣かないからね、戦うから!!
怒ったら怖いんだから、真哉ちゃんに空手教えてもらってるんだから」
「しないよ。僕は、のほうが心配だけど」
「私が?ありえない。だって、私を助けてくれるのは、逸人さんだけなんだから」
は、僕だけだといったけれど、
黒の視線が徐々に強くなっていることに気づいていた。
僕らの世界が終わってしまう要因が一個でもあるなら、僕は。
2人を離さないもっと絶対な約束がほしかった。
たかが、指輪をしたぐらいというけれど、常識が乏しい彼女にとって、
それは、結婚と同じだと僕は知っていたから。
卑怯?
いいとも、その言葉を全員に言われても、後悔なんてしない。
だって、僕は、誰にもを渡したくはなかった。
2010・08・22