「はい」
そういって上げられた手はまっすぐで、
誰もあげていない中一人違ったことをする彼女は。
「保健委員は、私がやります」
あきらかに変化した。
「惜しいことしたな」
そういって、たくさんの男子生徒に囲まれている美作くん。
美作くんって、女の子にはモテないけど、男の子からはモテるよね。
もちろん、変な意味じゃなくて。
「みっちゃんは、男の中の男だから」
「・・・あれ?いま、僕声にだした?」
「明日葉くん、みっちゃんはね・・・・・・・」
そういって、美作くんのいいところを、
というか本好くんにかかれば、
美作くんが、全てが完璧で素晴らしく尊敬すべき人物になる。
半ば強引に本好くんと友達となった僕は、
このごろようやく、美作くんの話をしている本好くんの扱い方が分かってきた。
美作くんの話を、話し初めてしまったときは、
「今、美作くんが素晴らしいこと言っているような気がするよ」
「!!聞きにいこうか。明日葉くん」
注意を美作くんへ持っていく。これに限る。
苦笑しながら、本好くんに腕を取られて美作くんの近くに来ると、
美作くんが僕に話を振る。
「明日葉、お前もそう思うだろう?」
「えーっと、何の話?」
「ちゃんだよ。ちゃん!!このごろ授業に出てくるじゃねーか。
そしたらさ、綺麗になってないかって話だよ」
僕は、話題の人物を、ちらりと、見た。
さんは、前よりも頬がこけていない。痩せすぎてもいない。
白い肌なのは相変わらずだけれど、うつろだった瞳は、
しっかりと前を見据えていて、瞳の輝きが明らか様に違う。
さんの綺麗な長い髪が、サラリと前へ動いた。
前は、いつも下を向いていたのに、胸なんかはれていなかったのに、
目を見てはなしてくれることなんて稀だったのに、
話しかけるなんて出来なかったのに、
今、彼女は、友達に笑顔を向けた。
「え、じゃぁ、マク○ナルドとセ○ンイレブンって同じじゃないの?」
「同じじゃないよーでも、「笑顔ください」って本当に、セブンで言ったの?」
「だって、テレビで笑顔がゼロ円だって言ってたから、本当かなって」
「ちゃんって、控えめで弱い感じしたけど、全然強いよね。心臓」
「それと、今度行こうよ。マ○ドナルド、あ、ミスター○ーナッツって知ってる?」
「し、知ってるよ・・・・・・・。あの・・・・・・・・ドーナツさんだから、
王様のドーナツ?ってことは、ドーナツのフードファイトの店でしょう?」
「「あはははははははは」」
二人の女の子が笑って、さんは、白い頬を真っ赤にさせた。
内容が凄いことになっているけど、
さんは、大体部屋にいて、出ていくときも、両親と一緒に、デパートぐらいで、
学校の帰り道も、倒れては怖いから、そのまま家に帰るか、
セブ○イレブンによるだけだったらしい。
知ってて、当たり前のことがまったくなくて、テレビからしか情報がない。
そういえば、藤くんとのデートも、ファーストフードとか言ってなかったみたいだし。
みんなで、行けばよかったかな。なんて思っていれば、
横で同じように見ていたクラスの男子が立ち上がった。
そのまま黙ってどこに行くのかと思うと、さんのところへ行って、
「、だったら、ケ○タッキーとか知ってるか?」
「ケ○タッキー?
それは、知ってるよ。ヒゲのおじいさんが揚げている鳥の名称でしょう?」
「おしい!!」
「あ、じゃぁさ」
わいわいわいと、男の子一人を皮切りに、何人もの人たちが近寄ってくる。
その中心は、さんで、照れて、笑って、驚いて、感情豊かだったんだ。
なんて前まで近い場所で見ていたのに、全然気付かなかった。
ぼうっと遠くなっちゃったなぁなんて思っていれば、首元を急にひかれた。
驚いて振り返れば、美作くんで、僕を掴んだまま教室を出て行く。
キンコンカンコーンと授業開始の合図が聞こえた。
「美作くん、授業始まっちゃったよ?」
そういっても、美作くんは無言だ。
ぎぃっと重そうな扉が開いた。上は上限がないほど広く、青く。
下では、小さな人の形が集まっていて、どこかのクラスが体育をしているようだ。
聞こえてくるピアノの音。
灰色のアスファルトで出来た床から棒が、規則正しく群れをなして、柵となっている。
そこに美作くんはドスっと座ると、んっと視線で、横に座るように促された。
僕は、ペタンと座ると、日が当たっているはずなのに、
コンクリート独特のひんやりとした質感を感じた。
美作くんの変わった髪型が、風により少しだけ動いた。
「本当に惜しいことしたよな。藤は。
目は悪くなかったのに、俺でさえ、気づかなかったのに、
かなりのいい女だったのに、離しちまうなんてよ」
美作くんの声だけが屋上に響く。
「で?」
「・・・・・でって何?」
「ありゃ、なにかあっただろう。教えろよ。明日葉」
「僕は・・・・・・なにも知らないよ」
「嘘つけ。保健室、頻繁に行ってたの、俺、知ってんだかんな。
なんだよ。俺には言えねーってか?」
じろりと睨まれた。普段の僕だったら、つい気圧されて言ってしまう。
だけど、この秘密は言ってはいけない。
だって、禁忌で、時間がかかったんだ。全てを注いでいたんだ。
「本当に知らないってば」
「おい、おい、知らないはないだろう?付き合ってるんだろう?」
ドキリと心臓が動いた。ばれてる?焦る僕に、
ふっと、一回決め顔と決めポーズで、
「ちゃんとお前付き合ってんだろう。どうだ。俺の推測!!」
と、美作くんは、格好つけた。間違っているし。凄い格好悪い。
僕は安心と呆れをそのままに。
「僕じゃない」
と、言ってしまった。言ったあとに、しまったと思って美作くんを見れば、
なるほどと腕を組んで頷いている。
「僕じゃない?ってことは、あのやろうか」
違う。と言いたかったけれど、美作くんの目は確信を持っていた。
「まぁ、実はそんな気がしてはいた」
「美作くんこのことは「誰にも、言わねぇよ」」
僕の焦った声に、静かに重い言葉がはいる。
美作くんは、立ち上がり、柵に腕を置き、空を見上げた。
「俺だってな、気になってはいたんだ。
だけど、だけどな、・・・なんて言っていいのか分かんなかったんだ。
男だとさ、言えたんだけどな。
仕方がねぇ、なんてさそんな言葉しか浮かばなかった。
だから、羨ましいけどな、あいつがしたことが、凄いことだって分かってる。
俺には到底出来ないってこと分かってる。
ちゃんの病気がよくなったのも、綺麗になったのも、
あいつのおかげなら、俺は何も知らない」
そういって振り返って笑った美作くんは、太っていて、ハンサムじゃないのに、
本好くんの言っているハンサムが分かって、つい呟いた。
「美作くんって・・・本当中身は男前だよね」
「知らなかったのか?俺はいつでも藤よりも、イケメンだ!!」
あははは。と肩を強くバンバンと叩く。
痛いとも言えずに、そのまま教室に戻ることも出来ずに、
僕らは二人で、他愛もないことを話していた。
「カマかけたけど、ちょっと疑ってたんだぜ?ちゃんとお前。
まさか、好きだったとか、あるのか?」
「・・・・・・好きというか、なんでか分からないけど、
救わなくちゃなーとは、思っていたよ」
だから、あの放課後、教室に、藤くんと江嶋さんがいるのを知っていて、
彼女がさんを嫌っているのも知っていて、
さんが、教室にカバンを忘れているのも知っていて、
行ったらどうなるかも大体分かっていて、
なんせ、藤くんと江嶋さんのイチャつき振りは有名だから。
だから、僕は、カバンを届けずに、ハデス先生に行かせたんだ。
彼女を救って欲しかったから。彼女を愛して欲しかったから。
僕は傍観者で、主人公は彼らだ。
といえば、美作くんはきまり悪そうに頬をかいた。
「・・・・・それってよー。いや、なんでもねー。
明日葉ぁ、今度の休みさ。
ちゃんとあいつ誘って、遊園地とか行ってみねーか?」
それは、とてもいい案だ。ファーストフードすら行ったことがないのだから、
遊園地とかも行ったことがないだろう。
行きたくても先生と生徒だから、人の目があって、
なかなか行けなさそうでもあるし。
それと、綺麗になった途端集まってくる周りの馬鹿な男どもから、
彼らを守るのはきっと、僕で、僕は勝手に、それを使命だなんて思ってる。
2010・07・27