ああ、ここはどこだろう?確か暗い闇の中で
一人だったはずなんだけど、ここ。
ああ、ここは私の部屋だ。見覚えある。
立ち上がる私に、床に座っている誰かが尋ねる。

「行くの?」
「うん」
「どうして?あなたはあなたが嫌いでしょう?攻撃されちゃうよ」
「ううん。ちょっとは好きだよ。
だって、好きな人が好きって言ってくれるんだから」
「誰があなたに言ったの?」
「覚えてない」
「確証もないのにいくの?本当は一人なんじゃないの?」
「それでも行くよ」
「なんで?どうして?あそこは苦しいよ?ここにいれば、
あなたを誰も攻撃しない。楽しいよ?どうして行くの?」
「待ってるの」
「あなたなんて誰も待ってない。それは思い違いだよ」
「そうかも知れない。でも、だったら待ってくれる人を見つけるよ」
「ダマされるよ。人は裏切るよ。それに耐えれないでしょう?」
「騙されてもいいんだ」
「なんで」

なんでだろうな。こんなこと私は思えたっけ?
助けてくれた。愛してくれた。待っている。
笑ってくれた。笑わせてくれた。泣きはらした。
友達になった。歌を歌った。胸をはれた。嫉妬した。喜んだ。怒った。
誰かが、色々なことを教えてくれた。
覚えてないけど、心がそういってる。
私を恐ろしそうにみるその子の顔を私は見た。
その子は毎日見ている顔にそっくりだった。

「騙されることを恐れるより進むことを恐れるほうが怖いから」
「・・・・・・」

沈黙したその子に私は手を差し出す。

「それにね。嫌なことばっかりじゃないんだよ。いいこともあるんだよ。
あなたも一緒に行こう?」
「だめだよ。外は怖い」
「手をつないで一緒に行けば怖くないよ」
「・・・・・・本当に?」
「本当」
「・・・・・絶対手を離さないでね」

疑わしそうにみるその子の手をとって立ち上がる。
その子の手を取ったら、進む方向がちょっと明るくなった。
だから、足元に足を抱えて座っている子に気づけた。

「ねぇ、そこの子も一緒に行こうよ」
「・・・・・・怖くないの?」
「なんで?」
「私ドロドロで姿なんてヘドロみたいだもの」
「それは、変なの?」
「変だよ。みんな変だって言うよ」
「じゃぁ、私は変だって言わない」
「あんな酷いことした私を許してくれるの?」
「酷いこと?」
「あなたをここに落として、すっごく傷つけた」
「でも、あなたのおかげで私は何かを信じれた」
「・・・・・・あのね」
「うん」
「私、私ね」
「うん」
「私ね、本当はね、いらないの。
あなたの目。あなたの好きな人。あなたの記憶。あなた自身。
私が本当に欲しかったのは」

ドロリとした物体が私の体をまとう。
暗かった世界が明るくなった。
私が誰か思い出した。私が何をしてきたのか思い出した。
誰が私を愛し、救い、待ってくれているのか思い出した。
私の頭に直接語りかける。
ごめんの洪水の中に、あの子が私に言う。

「あなたが綺麗で憧れていたの。
でもあなたになりたいわけではなかったの、
私、あなたと友達になりたかったの」
「まだ間に合うよ。だって私生きてるんだから」

そういうと、ドロリとした物体・・・いやあの子は私に笑った。






目を覚ますと、凄い力で抱きしめられた。

ちゃん!!もう、心配したんだから、」
「わわ、真哉ちゃん?」

どうして泣いてるの?と混乱した頭で誰かに救いを求めようと
振り向けば、明日葉くんと美作くんが涙目で、
本好くんが手を振って微笑んでる。

「おかえりなさい。ちゃん」
ちゃん・・・おかえり」
「その間カッコイイさすがみっちゃん。おかえり。頑張ったね」

藤くんはバツが悪そうな顔をしてこちらを見ずに答えた。

「・・・・・・おかえり」

それから。

「おかえり、
「・・・・・ただいま。逸人さん」

世界で一番、愛しい人に微笑んだ。













2011・5・9