小さい時、初めてそれに気づいた。
誰かが持っていたお人形。
お母さんが買ってくれたの。と嬉しそうに言う友達。
別に私は、うさぎさんなんて好きじゃなかった。
それよりもキリンさんのほうが好きだった。
だって、首がありえないほど長い。
彼等の見ている風景は、私たちの一個上だから、
素晴らしいものがみえているはずだ。と思っていた。
なのに、私は、そこらへんにいるうさぎさんを急に欲しくなったのだ。
欲しくなったら、言えばいい。
「それ頂戴」
それが、きっと始まりだった。
あたりまえのごとく、彼女はくれなかった。子供すぎる私は泣いて泣いて、
先生が他のものをもってきても、お母さんが他のものをくれても、
彼女のが欲しかった。
そして、彼女と奪い合いしてボロボロにして最終的に私は、奪った。
私はとても満足した。
だけど、それってそれまでなんだ。
一週間すれば、私の興味は違うものに移った。
その後、お父さんが買ってきたうさぎさんのぬいぐるみに、
「キリンのほうがいい」といったらしい。これは覚えてない。
ともかく自分がそういう性格だと分かってから、友人の好きな人を探ることも、
聞くこともしない私は、恋に興味がないと思われていらしい。
確かに、恋に興味はなかった。ちょっと夢ぐらいはあったけど、
そういうふうにしないと、友情なんてボロボロで、
悪い噂にしか流れないそんな女なんて嫌だから、偽ってきた。
それなのに。
まさに恰好の人物がいた。
学校一のイケメンの藤 麓介くん。
でも、彼は別にそういう意味で奪ったんじゃない。
恋に興味ない私だったけど、一回話して、意外と気さくとおもって、
顔を近づけたのが悪かった。彼の顔は誰よりも整っていて、
胸がバクバクして、ポーッとなる。性格もイケメンの割には、
全然イケメンじゃない性格で、それがまたツボだった。
もしかして、これが恋かもって、好きかもって、
ようやくみんなと一緒に恋の話に盛り上がってさ、毎日楽しくてさ。
それで、満足だった。
欲しいって思ったけど、それは藤くんの決めることで、私も一応アピりますけど、
前みたく無理やりだなんて、恋という綺麗なものを汚しちゃ駄目だって思ってた
・・・あの子が来るまで。
あの子は、下ばかりみていた。髪が長いから、肌が青白いから、
幽霊みたいで、気味悪い、 。
みんなに言えば、暗くて病弱な子で、あんまり学校来てなくて、
いや、保健室にいるよ。暗いよねって意見一致させていたけど、
私は、彼女をみるたびに、胸がぞわぞわした。
だって、下を向いている彼女が、人が前に来ると、ちらりと顔を上げるのだけれど、
その時の瞳が。
瞳が、透明で、ありえない透き通っていて、
昔、大好きだったおはじきの色を思い出した。
彼女は危険。
彼女は危ない。
彼女は。
なんなんだろう。
なんなんだというの。
ちょっと見かけるだけで、身の毛がよだつ。
だけど、本当に見かけることが少ないから、私は楽しいことばかり追いかけて、
その子のことを忘れていかけたときだった。
彼女は、クラスにちょっと来るようになった。
明日葉くんや美作くん、それに藤くんに囲まれて、微笑んでいた。
誰かが言った。
まるで、ナイトを控えているお姫様みたい。
それは悪口だったのだろう。彼女は、藤くんが好きだったから。
でも、お姫様は、悪口だと思う?私は褒め言葉にしか聞こえない。
彼女がそこらへんの石っころじゃないこと、どこかみんな分かっていたんじゃないかな?
だから、今、彼女は羽化して、綺麗なチョウチョになった。
私の大好きだったおはじきの輝きをもっと強くさせて、
儚く、そのくせ、力強く笑う。
背は丸まっていない、まっすぐで、下じゃなくて前を見てる。
彼女を今は誰も幽霊なんて暗いなんて言わない。
むしろ、彼女によって、彼女とともにいることを喜びだと思っている。
それに、彼女への男どもの好意の視線も増して来ている。
私は、今こそ、明日葉くんと美作くんはナイトだって言えると思うの。
彼女が変わったとたんに群がってきている男どもから彼女を守ってる。
方杖をついて見ていたら、誰かが近づいてきた。
「梨華」
名前を呼ばれた。声質で分かる。彼が誰か。
彼は私が好きな藤 麓介。
今、目の前で見ていた綺麗なチョウチョ、 の彼氏だった。
彼は、彼女の姿を見もしないで、私に微笑む。
それはとても満足。
が彼に捨てられて私を選んだ時なんて、
すべての人に、愛を叫んでもいいほどで、
自分の部屋に帰ったら、ガッツポーズして、
ベットの上でもんどりうつくらい幸せだった。
だって、私たち愛し合えたの。
今までの人生で一番欲しいもの手に入れれたの。
なのに、どしてだろう。
「麓介は、あの子のこと、まだ好き?」
「はっ?馬鹿なこというなよ。俺は、梨華しか好きじゃない」
その言葉に私は満足して、彼女を見る。
前、こんなこと言ったら、すごく反応していた肩に、雰囲気。
でも、今は。
「明日葉くん。私ね、遊園地とか初めてで、真哉ちゃんに聞いたら、
ぐるぐるまわる凄く面白いたくさんの椅子があるんだって言ってたのだけど」
「それは、ジェットコースターだね」
「ジェットコースター?ああ、見たことあるよ。火が出るんでしょう?」
はははとから笑いしている明日葉くんの代わりに美作くんが答える。
「ロケットじゃないよ。ちゃん。
それより、お弁当は、真哉ちゃんが作ってくるって本当?」
「うん、合作するの」
真哉ちゃんというのは、B組で有名な強い女の子だ。
と一番仲の良い子。
前は、私とちょっと似たような空気を持っていたのに、いつの間にか和解していた。
混ぜて、どうにかしようかなって思っていたのに、残念。
「・・・・・・鏑木さんは、物を混ぜるだけにしといたほうがいいよ。
というか、してください本当に」
明日葉くんがぷるぷる震えている。
「こら、明日葉くん。真哉ちゃんだって、ちょっとは・・・・・・ちょっとは、
ほんのちょっとは、・・・う、美味くなったんだから」
最後には言葉を濁した に二人は、暗い顔で沈黙した。
「そういえば、あいつは白衣で来る気か?」
ここからは、私がわからない話。
「うん。怪我したら困るからってちゃんと救急箱持って行くって」
「あ、あのさん。私服みたくない?」
「・・・・・・」
「さんが言えば、いつもと違った雰囲気が」
そう明日葉くんが言えば、 はちょっと頬を赤く染めて、
「わ、私ちょっと用事できたから、あ、あとのことは、メールで、じゃぁ」
そういって、カバンをもって、教室を出て行った。
本当に彼女は病弱だったんだろうか。
扉がすごい音がしたよ。
「分り易すぎないか。ちゃん」
「でも、誰も気づいてないから、ありえないと思われてるし、大丈夫でしょう」
そんな会話を遠くで聞きながら、
「帰ろうか。梨華」
麓介が、私の荷物を持って立ち上がってくれる。
背中を見て、好き、大好き。大好き。
恋なんてって思っていた私が好きって思った人。
今でも胸がきゅんってする。
腕にしがみつけば、微笑をくれるカッコいい。
今、とても満足。
満足・・・なのに、どうしてかしら?
なんだかちょっとつまんない。
2010・08・24