私はいつだって自分に自信がないから、
あなたから言われた告白は、信じられないものだった。
だって、あなたはこの常伏中学で一番のモテる男の子で、有名だったから。
あなたの顔は、女の子たちが噂するほど、整っていて、
きっとこの中学以外にもあなたを、好きな人たくさんいる。
私は・・・中学が終われば、あんな子いたっけ?って、忘れ去られてしまうほどの存在。
そんな私とあなたの接点は、白い空間と薬の匂いで立ち込める保健室。
私は病弱だから、保健室にほとんど通っていて、
顔が怖いってこれまた違う意味での顔の噂をされているハデス先生は、
噂と違って、とても優しくて繊細で、強い大人の人。
私が来て、優しい顔の裏に、面倒くさい子って顔を隠して、
何かとあればどこかへ行ってしまった前の保健室の先生より好き。
ハデス先生は、何かとあれば、話し相手になってくれるから。
嫌な顔ひとつしないで、お菓子くれて、辛くないかいって優しい声色で言う。
でも、周りの人は誤解して、怖がって、苛立たしい気持ちが募るけど、
学校を休んだ次の日に、私しかいない保健室は人が、増えていた。
先生は嬉しそうだから、私も嬉しかった。
その中で、毎回保健室で休んでいる藤くんとは、二つしかないベットを所有している
者どうし仲良くなった。知っていくうちに分かっていくこと。
ダルダルで、怠惰で、怠け者で、神経が図太い。
藤くんは、綺麗な顔しているけど、全然イケメンな性格していない。
どちらかと言うと、美作くんのほうが、断然イケメンな性格してる。
そう言ったら、美作くんは涙を流して、藤くんは怒ってた。
明日葉くんは、オロオロと二人の間で困っていて、ハデス先生は笑って、
なんだか分からないけど私も楽しくなって笑った。
そんな居心地のいい空間。
私のこと、友達だって言ってくれるみんな。
私のこと、大丈夫だって言ってくれるみんな。
彼らは同じ組だったから、私を引っ張り出すように、
教室へ連れていってくれた。
なにかあるたびに、倒れる私の体は、本当はそんなに弱くない。
すぐ倒れてしまう体質で、命に別状はなかったりする。
問題は心だった。なにかあるごとに倒れる私は、お荷物にしかならなくて、
みんな面倒くさい顔してる。
ちょっと走っただけで、地面に座る私。
そんな私の肩に僅かな温かみが乗っかかる。
顔をあげれば、藤くんがいて、
「よく頑張ったな」
だって。
みんな大好き。だけど、その中でちょっとだけ足を出していた藤くん。
だから、私は藤くんの告白に、「いや」と言えるほど嫌いじゃなかった。
むしろ、大好きで、夢みたいで、死んじゃいそうなくらい嬉しかった。
告白する彼の顔が必死で、顔を赤くしていて、
私、愛されているって感じれたから、
最初のデートは、二人して照れて、
私は、かなり久しぶりの映画館、流行りの恋愛物語。
藤くん、寝ちゃわないかな。って失敗は杞憂で、凄いカチンコチン。
ご飯を一緒に食べるのは、初めてじゃないのに、外で一緒に食べたら、
味なんか分かんない。
話だってちょっとしかできなくて、藤くん私といてもつまらないよ。きっと、
って涙出そうになったけど、
俺、付き合うの初めてだから、何していいか分からなくて、ごめん。
ってデートの最後に、言ってくれて安心して涙が出た。
それに焦っている藤くんに、私もって言って、二人で笑った。
それから、何十回もの帰り道でようやく繋げた手。
何もせずに一緒にいても会話がなくても居心地が良くなって、
これまでの人生にこんな楽しいことがあるんだって知った。
学校に休まずに三ヶ月もいけた奇跡に、両親だって喜んだ。
夢みたい、死んじゃいそう。
うん。夢だったみたい。
目を開ければ白い天井。私がいるのは、馴染み深い保健室。
「大丈夫かい?」
そういって現れた男の人が、一体誰か思い出さなかったけど、
ハデス先生と口が勝手に言って、彼が誰か思い出さした。
「うなされていたよ」
そういって、私の頬に流れた涙をハデス先生はすくった。
私は、ほろほろと流れている涙をどうしていいのか分からないのに、
体を起き上がらせて、目の前にいる優しい人のじっと見る。
ハデス先生の瞳の中にいる惨めな女の子は誰だろう。
小さな体をもっと小さくしている。
肌の色は白くて、可愛くも綺麗も程遠くて、死にそうが合う女の子。
誰だろうって、思っていれば、ぐっと抱きしめられた。
惨めな子は消えたけど、私の頬を伝う涙はとまらない。
なんで泣いているの?
夢が幸せ過ぎて、現実がとてもリアルすぎて、悲しいの。
私を好きだと言ってくれた人は、私の好きな人、私が愛した人。
その人は、ある日、突然、私に別れを告げた。
告白された日と同じの雲ひとつない晴れた日。
飛行機雲が、一本、空に出来ていた。
「他に好きな人が出来たんだ」
私は、私は「いや」と言うことが出来なかった。
だって、嫌いじゃなかったから。
大好きだから、女々しくすがって面倒くさいって言われて、
嫌われたくなくて、「そう」と言った。
その言葉に、藤くんは嬉しそうに、「じゃぁ、これから、友人だ」と言った。
私は、友人になれるなんて思っていないのに、
好きだったから、コクンと頷いた。
「大丈夫」
そう言って私の髪を優しく撫でる人が、藤くんじゃないことは分かっているのに、
「頑張ったね」
私が彼を好きになった言葉を口にするハデス先生に、
とうとうその背中にしがみついて、泣きじゃくった。
「友達なんて無理、さようなら」
「なんで私のどこが悪いの?」
「私は好きだよ」って言えたなら、私、まだ苦しくなかったかな。
ううん。きっと同じだ。
初めてがあなたで良かったって言えばいい?
あなたの初めてが私で良かったって言えばいい?
私なんかが、付き合ってしまって時間を消費させてごめんなさいって言えばいい?
知っていたのに、藤くんと一緒にいて忘れていた。
私なんか、ってこと。
私は誰よりも、下の底で、忘れられてしまう存在なのに、
太陽と一緒にいれば、同じになれたと思っちゃった。
太陽が隠れてしまう時間を、忘れてしまった馬鹿な存在。
夢は覚めるから、夢だったんだ。
声をあげた泣いたら、少しだけすっきりした。
ごめんなさいと、顔をあげたら、
ハデス先生はつらそうな顔して、優しい人だから、
そんな顔してほしくなくて、
「そんな顔しないでください。最初から、おかしかったんです。
藤くんが私なんか好きになるはずなかったのに」
「私なんかなんて言うな!」
いつもの丁寧語じゃなくて、声も大きくてびっくりしていれば、
ハデス先生は、ごめんと謝った。
「・・・・・・先生。大丈夫。私は大丈夫なんです」
「全然大丈夫じゃない。顔だってこんなにやつれて」
と私の頬を撫でる先生に、違和感を感じたけど、
藤くんの友人に戻っては簡単にいかない。
私の友人たちは、私たちが付き合っていたことを知っていたし、
祝福をしてくれたから、
しかも、私と別れて、藤くんは、好きな子とめでたく付き合うことになったらしい。
私は彼女が可愛くて、明るくて、全然敵わない子だって一回見ちゃったから。
最初は、みんなも、どこか文句を言っていたけど、その子は、面白いから、
楽しいから、明るいから、可愛いから、自然とみんなの輪の中に入っていった。
元恋人に遠慮して、私だけが輪に加われずに、取り残されて、一人。
変わらず私の傍にいてくれるのは、ハデス先生しかいなかった。
だから、その違和感を飲み込んだ。
撫でられているひび割れた手をみながら、直感。
私が、藤くんを忘れる日がいつか来るんじゃなくて、
きっと私は、この優しい繊細で強いこの人に食べられるのだろうと。
そして私はその手を払うことはないのだろうと。
2010・07・06