フンフンと僕には分からない鼻歌を歌う彼女に、僕は、声をかけた。
「」
「なになに。ミカちゃん?」
彼女は、春のような、温かな日差しのような笑みを浮かべて、
味噌汁一つ作ることが、なんでそんな嬉しそうなのか分からない。
けれど、彼女が日常を愛しており、非日常を回避する
自分と対極な人であると、半同棲のようなことをして気づいた。
という少女は、その年齢にふさわしくなく、
激しく面白いことが多い非日常よりも、そこらへんの草にですら、
笑みを浮かべて空想できる極めて稀な人種だった。
ただ少し彼女自身は、非常識ではあるが。
僕は、少しだけ考える。
今から言う言葉が何を生むのか未来は見えない。
しかし、
「静雄さんと話してみたいんだけど」
生きているだけで、非日常の塊である
『池袋最強の男』の平和島 静雄に僕は、強く惹かれていた。
彼と交流がある彼女に、羨望の眼差しを向けほどに。
だが、彼女がいれば、彼と交流できるかもしれないと
淡い期待を持ちながら彼女の答えを待った。
彼女は緑色の瞳を細くして。一回頷くと。
その行動は、思考の整理するときの彼女の癖なのだろう。
よく、その行動を見る。
「うーん・・・まぁ、いっか。ミカちゃんだし。
あ、でも静雄さん意外と傷つきやすいから気をつけてね」
それから、僕は、非日常的の代表格の人との付き合いが、始まった。
世界は常に光に満ちている。
その中心に立っているのが、あの人で、
私はそのために取り立て屋の相棒、もとい彼の暴走を止める、
ストッパーなんて、仕事までやってる。
ミカちゃんが心配してたけど、私そこまで世間知らずじゃないよ。
危ないお仕事マイナス、でも、あの人がいるってことで、超プラスなんだよ!!
私とあの人との繋がりを、嬉しそうにしていたミカちゃんは、
思った通り、日常じゃない違うものを求めてた。
「初めまして、竜ヶ峰 帝人って言います」
「・・・・・・平和島 静雄だ」
ミカちゃんが差し出した手にきょとんとしながらも、
おずおずと手を出す静雄さん。
あまり自分に好意的な人に慣れていない静雄さんは、
ミカちゃんに話しかけられても、そっけないけど、
ミカちゃんは、嬉しそうに、キラキラと目を輝かせている。
そのキラキラ攻撃は、静雄さんに有効的だろう。
何回かミカちゃんと会えば、
静雄さんは、見かければ、声をかけるようになるだろう。
それほどまでに、静雄さんは、寂しがり屋で、人が恋しい破壊神なんだ。
良かった。良かった。と、二人の姿に、にんまりと笑いたかったけど、
静雄さんの金色の髪が光って、彼等の上に降り注ぐ光に、嫌な感じがする。
外れてくれたら嬉しいけど、私、第六感、凄いんだ。
それからやっぱり、私の勘が当たった。
彼等を会わせたことに後悔したけど、私は運命信奉者だ。
起こったしまったものは、もう取り返しがつかないし、
どうしようもなく、運命に口を閉ざすしかない。
「お、竜ヶ峰」
取り立て前の暇な時間。私が目を凝らしてようやく見える人の群れの中から、
ミカちゃんを見付け出した静雄さんは、私がいることを忘れて、
歩いてミカちゃんの方へ行ってしまった。
シャツを掴もうと手を伸ばすけど、私は、無駄なことはしない主義だ。
静雄さんは、自動販売機をかるがる飛ばせるのだ。
力で止めれると思えない。私の声で止まるとも思えない。
人が恋しかった獣のような静雄さんは、私じゃなくて、
ミカちゃんに恋しちゃった模様。
なんてこと。
遠くにいる彼等を私は暗闇の路地裏から眺める。
じゃないと、嫉妬してしまいそう。
だって、私は、静雄さんにあんな柔らかな笑みを向かられたことないし、
あんな優しい目で、見られたことも、髪を撫でられたこともない。
女である私より男のミカちゃんのどこが良かったのか。
いや、ミカちゃんは、可愛い。
男にしとくのはもったいないほど可愛い。
行動も小動物系の可愛さがある。
あと、興味があることには自分を顧みない無鉄砲さもある。
怖いもの知らずで、ちょくちょく危ない彼は、何度か静雄さんに助けられている。
ちなみに、私はゼロだったり。
だって、危ないことに突っ込むのは、面倒なんだ。
静雄さんはあのなりで、保護欲をかきたてる小動物が好きだった。
子猫の特集を見ては、「飼いたいな」と呟くような人だった。
だからかな。と彼等をぼうっと見ていれば、声が響く。
「君って、頭おかしいんじゃないの?」
暗闇の中、折原 臨也の目が赤く光った気がする。
「おや、折々さん。お久しゅう」
「折原だって、わざと間違えないでくれる?不愉快だよ」
「さっさと、新宿に帰ればいいのに」
「あー、その態度。俺傷ついちゃうよ。
傷ついちゃったついでに、静ちゃんの情報をマフィアに売ろう」
チッと舌打ちしたいほどのウザさ。しかしここで舌打ちをすれば、
彼は、あー、いいんだ。じゃぁ、しちゃおう♪と、
ちょっとそこまで、お茶をしにのノリで、やってしまう。
なんとも面倒な人だ。
「・・・・・私になんのようですかぁ?
ミカちゃんが盗られちゃって暇つぶしに私をからかうなら、
全力で来てくださいよ。そっちのほうが、心底嫌えますからァ」
本当に、なんで彼は私に構うのだろうか。
静雄さんの弱みになりそうな私をたぶらかして、
静雄さんを攻撃しようとしていたことは分かっている。
事務所の先輩であるトムさんが言っていたのだ。
気をつけろと。私は勘だけは確かだから、最初一目見た時から、
彼は敵でも味方でもないけど、どちらかと言えば、敵に近いと感じていた。
だけど、今、私の価値は、ミカちゃん以下だ。
でも、この人がまだ私のところに来るということは、
ミカちゃん以下な私もまだ、静雄さんにとって価値があるのかもしれない。
そう思うとちょっと晴れやかな気分になったけれど。
「あれ、なに?俺のこと嫌いじゃないの?ふーん、そうだよね。
ほら、俺って静ちゃんより、美しいし、格好いいし、優しいし、お金あるし、頭いいし、
どことってもいい男だもんね」
目の前の男は、いいように理解したようだ。
「・・・・・・まぁ、勝手に思ってればいいんじゃないですか」
「じゃぁ、俺のもんになる?」
「今の話からどうしてそうなるのか、激しく遠慮します」
「ええ!この俺が、誘ってるんだよ。これって凄いことで、超希少なことなんだよ?
俺のこと好きな子、多くて、競争率もハンパないのに、
君はそのチャンスを棒にふる気?」
「じゃぁ、その好きな子を誘ってください。静雄さんの嫌がらせのために
私を使わないで頂きたいです」
「えー、でも、君だって暇でしょう?静ちゃんが憎いでしょう?
あんなに尽くしたのに、静ちゃんは、初恋みたいなものに振舞わされて、
君、今、ゴミクズ以下だよ。
ほら、帝人君に犬みたいに尻尾振って、馬鹿みたい」
確かに、彼は最初の愚直なほどまっすぐで、寡黙な彼はなりを潜め、
愚直なほど愛にまっすぐだ。顔がにたーと、だらけている。
「でも、初恋もまだなあなたよりは断然マシですよ」
そういえば、折原 臨也は目を見開いて驚いた顔をしている。
この人は、嘘か本当か分からない演技をするので、
本当に驚いているかは真実分からないけど。
「はぁ?何いちゃってんの。俺、超恋しまくりだよ。だって、人Loveだもん」
そう言った彼に笑った。
「それは種でしょう。個別に人を愛したこともないくせに、
静雄さんをけなすのはやめていただきたい」
「へーじゃぁ、君はあるっているのかい?」
「ええ、私、静雄さんのこと大好きですよ」
「・・・ふーん。嘘つき」
私は、彼の最後の言葉を無視して、
そろそろ始まるお仕事に、かの人を迎えに行った。
空は、夜と昼の境目で、オレンジ色の太陽が沈んでいた。
2010・10・3