ねぇ、知ってた?
空はあんなに青いのに、私には、ずっと灰色にしか見えてなかったこと。
この世界の全員死ねばいいって、ずっと思ってたこと。
そんなこと口にすれば、中二病って言われたよ。
意味がわからなくて聞き返せば、ウザイってさ。
馬鹿みたいな平和な世界に、馬鹿みたいな人・人・人。
携帯開けば、知らない人と簡単にお友達になれる。

『かわいいね。今から会わない?』

かわいいなんて、どうして文字で分かるのかな?
あはははと、笑いたい気持ちを押し殺して、
そのまま、相手のメールアドレスを抹消してみた。
消す前に出てくる、本当に消しますか?が、嫌味なほど面白い。
YESを押して、私はそのまま携帯を閉じた。
そんな殺伐とした世界は、やっぱり全部灰色で、
でも、色盲じゃないから信号機は渡れる。
青の信号を渡ろうとすれば、人の大きな声と、飛んできた自動販売機。
キラキラ光って見えた金色。

そして、私、恋に落ちた。




【天使にはなれない 1】




「ちわちわ。こんちわっす。初めまして、 ちゃんです!!」

そういって敬礼しながら、自己紹介をし始めた彼女は、来良学園の日常に、
不釣合な非日常だった。
しかし、僕はそんな非日常には、関わりたくない。心底。
だから、彼女は僕にとってあまり話さないだろう同級生に、
カテゴライズされていたのだけれど、運のないことに、

「あーれ?あれれ、君は、我が組のカワイコちゃん。
竜ヶ峰 帝人くんではないですか?
もしかして、お隣さんですか?」

彼女は、僕のボロアパートの隣の住人だった。
引きつった笑顔しか出来ない僕に、
彼女はカラカラと何が楽しいのか分からないけど笑って、

「よろしっく!!」

と敬礼をした。そのよろしくは、社交辞令でもなく、
これから彼女は僕の部屋によく無断でいることになる。
怒りたくても、屈託の無い笑顔と、かなりの料理の腕に僕は、何も言えないでいた。
一緒にいることが多くなり、
そしてお互いを、「」「ミカちゃん」と言い合うようになって、
彼女はそのまま僕の傍にいて、紀田 正臣とじゃれ合っている。

ちゃん今日もかわいいね」

「そうでしょう?今日もかわいいでしょう?そういう正臣くんも今日もカックイーッよ」

「だろう?なぁ、聞いたか。帝人。俺、カッコいいって」

「「あはははははは」」

正直、毎度のやりとりに、何が楽しいのか分からないけど、
彼らの空間は決して悪いものじゃなかった。
むしろ、心地良ささえ感じて、自然と笑ってしまう、
そんな時間を日常というなら、僕は、きっと日常も愛していたんだ。
だけど、僕は「非日常」を愛する。
二人、そしていつの間にか、園原 杏里さんも来て、三人の背中を僕を
見ていた。その姿に誰かが泣いて、誰かが笑って、
それでも僕は歩みを止めない。

彼と出会ったのは、偶然だった。
非日常の代表格とも言える『池袋最強の男』
『絶対に喧嘩を売ってはいけない男』『池袋の自動喧嘩人形』
平和島 静雄。
絶対会ってはいけないと言われた人物に、二度目の会合。
会合と言っていいのだろうか。遭遇と言った方が早い気がする。
ガードレールが飛んできたのだから。
周りにいた人たちはいつの間にか、蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていて、
僕に何かと言って、くっついてきている折原 臨也さんが原因なら、
僕はこの人をさし出してさっさと逃げたい。


「い〜ざ〜や〜く〜ん。池袋には来るなって言っただろうがぁぁ。
なんでここにいやがるノミ蟲がぁぁぁ、殺すぞぉ!」

「相変わらず、うるさいなぁ、静ちゃんは。そんなんじゃぁ、ハゲるよ」

「絶対、殺す!!」

あはははと楽しげにからかって、普通なら飛ばない物体が飛んでいるのを
軽やかに避けている臨也さん。
頭の中にある色々なもの・常識とかがガラガラと崩れていって、
どこか胸がドキドキと新しい世界を待ち望んでいる自分。
そんな不安定な精神状態に、
気が抜けるほどの脳天気で、聞き覚えがある声が聞こえた。

「あっれーミカちゃんじゃん」

振り返れば、行く場所があると先に帰ったがいた。
しかも、白の長袖のシャツに、黒の蝶ネクタイ。
黒のベストに、タイトで膝上の黒のスカート。
そう、バーテンダーの格好をしている。

「え、?」

なんで、そんな格好をしているの?
と思ったけれど、暴れている金色のほうの同じ格好をみて、
もしかしてと頭によぎった。
僕の非日常であり、日常の代表格である の、
本人曰く、天然パーマである肩につくかつかないほどの
茶色の髪が、風に揺れた。



ボロアパートに戻ると、僕よりも先にがいた。
は、おかえりーと声をかけて、鍋の火を消す。
僕が、じとっと見れば、彼女はニコニコ笑っているだけで、
その笑顔の質は、臨也さんに似ているけれど、
彼には悪意しかない。彼女には、何も無い。
遠まわしにいうよりも、直球で言った方がいい人間だと
僕は彼女と過ごした数日理解する。
なにせ、行き来がめんどうだよね。という、
そろそろこっちに来るな。という本音を包んだ柔らかな表現に、対して
次の日に、僕と彼女の部屋を行き来できる穴を作る、
という方法にとってしまう彼女だ。
あの時は、驚いたのを通り越して、褒めた。
だって、どういった方法で一日で穴を掘ったのか。
彼女の腕は、普通の女子と同じで、
ゴリラのように拳で穴を開けるタイプには見えない。
一回聞けば、企業秘密と言われたが・・・いけない。話がそれた。


「どうしてあんな所にいたの?」

「ミカちゃんも、どうして、折々が傍にいたの?」

「お、折々?もしかして、臨也さんのこと?」

「そういう名前だったかもね」

「もしかしなくても、ってさ。臨也さんのこと嫌い?」

しばらくの沈黙のあと、彼女は、うーんと頭をかしげた。

「嫌いとかそういうのじゃないぁ。興味はないけど、仕事に支障をきたすから
面倒な人だってところかなぁ?」

「仕事って」

もしかして、と顔を青くすれば、彼女はニパっと明るく。

「取り立て屋さんの相棒だよ!時給いいから入ったんだけど。
入ったら、なんと静雄さんの相棒になったよ。
ここまで続いたのはおまえがはじめてだ、ガッツあるなって誉められた!!
凄くない?ミカちゃん」

「・・・・・・頭痛い」

 には、一般常識がなさすぎた。







2010・07・08