【横を見れば壁がため息を吐いていた】愛すべき馬鹿より
横にいる女は、 だ。
こいつは、音楽科のなかでも変人と名高い女だ。
本来の俺ならば音楽科と聞いただけで近づくことをしない。
しかも、音楽科の象徴みたいな月森が仲がいいコイツならばなおさらだった。
しかし、とあること(9話)にての約束をしてしまったので、しょうがなくだ!
しょうがなく、俺はを探した。
そして、こいつの教室へ言ったり周りを探したりして昼食終了五分前に、
木の中から出てきた。
「よ!壁。ふんふん、キミはとてもいいものを持ってるじゃないか」
いきなり出てきたに俺は何も言うことができなくて、というかビックリしすぎて
言葉を失った。は俺を気にせずプリンの入った入れ物を開けて、プリンに
スプーンを差し込んでいた。
一時は心乱したものの、これで約束は守ったぞと言って
そこから離れようとすれば、プリンに夢中なはずのはしっかり俺の裾を掴んでいた。
「お、おい、。離せ」
「うん、うん」
なぜかは俺の言葉を無視し、相槌をうちながらプリンを食べ続け、
裾を離すことはなくしっかり掴まれている。
俺は裾を離そうとの手を掴もうとした瞬間、授業が始まる鐘が鳴った。
「はー」
「ため息を吐けば、幸せは逃げるって知ってた?」
「・・・・・知ってるよ」
「私はあれは嘘だと思うんだ」
「は?」
「ため息を吐く時点で、もはや苦労をしているんだぞ。不幸なんだ。
それを表してる行動だろう?
正しくは、ため息を吐いているときは、慰めとけだ。
と、いうわけで、機嫌がいい私は、苦労性なキミを慰めなくてはいけなくなったわけだ」
「どういう理屈だよ。というか、ため息の原因はお前だ」
「?なんで」
「なんでって」
俺は、の悪意のない顔を見た。しかも、本当に分からない教えてという顔をしている。
その顔は幼い子供を思い浮かべた。
悪意がないだけ質が悪いとはいい言葉を考え付いたもんだ。
俺は二度目のため息を吐いて、もうどうでも良くなった。
「あーなんでもねぇ」
「そうか。だが、二度もため息を吐いたのだから。私は二回キミを慰めなくてはいけないな」
なんだよそれと、思った俺はとっさに話を変えた。
「あ、あれだよ。そのプリン美味しかったかと思ってな」
ああ、と言えばはプリンの空を目の前に出した。
四個もあったそれはものの見事綺麗に食べられていた。
よく、食えたなと思ったが、は質問に答えず、俺にそれを差し出すだけだ。
「・・・・・・なんだ」
「これ、作ったのはキミだろう」
「・・・・・・よく分かったな」
俺の趣味を聞けば、誰もがビックリするものをはなんなく当てた。
それは驚いた。
「ん、入れ物と味そして、聞くってことでそう判断した。ま、あとは勘」
するりとなぜの疑問を言っていくは、変人の名前がよく似合っていると思う。
よく分からないことに鋭くて、常識が抜けていて、人の気持ちも本人の気持ちも読めない。
「で、私はこれがとても美味しかった。出来れば次も作ってきて欲しい」
そう言って笑ったの笑顔は、いつもの飄々さよりも屈託のないという言葉が似合っていて、
思わず顔が赤くなるのを覚えた。顔をいきなり隠した俺に、隙間から見えたは
やっぱりよく分からない顔をして、
常識がない、変人、それがという人だけれど、
言い換えれば、小さな子供のようなものだろう。
「おい、どうしたんだ」
そう聞いてくるに、そうと分かれば、なんだか可笑しなくらいに許せる気がしてきて、
ため息とともに、の頭に手を乗っけてなでた。
「しょうがねぇな」
きょっとんとしたが言ったのは、
「ため息三回目か、もう慰めるのは無理だな。あーそうか、うん」
は、撫でられていることに疑問を持たずに、ただ少し気持ちよささそうに目を細めて
「土浦。どうだ。私の原因というのはそれだろう?」
・・・・・・やっぱりコイツは苦手だ。