「うおぉ」

と、ぶつかってきた人が声をあげた。
自分が、でかいということはよく分かっていて人にぶつかることも多い。

しかし、

「壁という名の人間」

出会いがしらに、喧嘩を売られたのは初めてだ。
しかも・・・女に。

音楽科は、つっけんどんして嫌いだ。
そして、その象徴であるかのような、月森が嫌いだ。
そして、そして今付け加えよう。
この、 という女は、苦手だ。
音楽科の白い服を、身に包み、長い二本の三つ編みをたらして、
なぜか、横に座っている彼女。

ぶつかる→喧嘩を売られる→睨む→なぜか購買で物を奢らされる
・・・なぞだ。
睨んでから、どうして俺はこうなったのか。

にまにまと嬉しそうにプリンをほおばる姿に、土浦はため息を吐いた。
せめての救いは、喜んでくれているということだろうか。


俺が、嫌いな人物と、至極仲が良く、
そして出会いがしらから喧嘩をうってくる、
苦手と思わしき女と、ここにいるのは。
睨んだあと、そのまま彼女が倒れたからだ。
しかも・・・プリン3個目を食べ始めた彼女を見て分かるだろうが、
原因は、空腹。
倒れた彼女を、抱きかかえて時の腹の音は、忘れられない。

ああ、やばい。
思い出して笑いそうになる。

「変な顔してるね。壁」

「・・・だ、か、ら、俺は土浦 梁太郎だっていってるだろう」

「うん。ありがとう、壁。空腹で、まさか人外に会うとは思わなかったなぁ。
壁は、なかなか優しいねぇ」


うんうん頷きながら、それでもプリンをほおばる。

・・・・・・つかれる。
俺は、さっきから名前を何回連呼しているんだ。痛いやつではないか。
ほにゃと、笑う顔が悪意をこめていっているわけではないことを物語る。
彼女はどうも、思ったままのことを言ってしまう癖があるようで、
しかも、インプットされた考えは、なかなか交換できないようなのだ。

「あれ。さん?」

「えーっと・・・先輩?」

おいおい。まじか。
こいつ、コンクール参加者おぼえてねぇぞ。
途中参加の俺ですら、覚えている。
音楽科らしくない先輩であのなかで一番好感を持てる火原先輩。
火原先輩は、こいつの?の部分をすべて聞き逃したらしく、
人好きする笑顔で、席に座った。

「えーさん、土浦と仲いいの?」

「・・・はい」

・・・コイツ、嘘つきやがった!
俺の名前すら覚えないくせに、というか今日会ったばっかだ。
を見れば・・・・顔に説明面倒だって書いてある。

「そっか〜」

そしてなぜ、火原先輩もなぜ気付かない!

「このごろ柚木とも、仲いいし志水君とも仲いいし・・・
よぅし、ちゃん、あ、今からこう呼ぶから、それと土浦」

俺は、おまえか?


「一緒にバスケしよう」


なんでだ!



2008・12・10