手はいつも何かを掴むためにある。
たとえば、物をつかむ。物を描く。その他もろもろ。
いつも何かの手段として使われる手。
なら、私の裾を掴むこの手は一体何を求めているのだろうか。


のどかな日だった。太陽はサンサンと照りつけている。
窓からはそんなことは伝わらない。ただ青空と雲が覗けた。

は、長い2つの三つ編みを揺らしながら、廊下を歩いていた。
目的は、購買でもなく、羊くんとの場所でもなく。

第二音楽室に行く所だった。
伴奏者のことを、おかんこと月森にぐちぐち言われ、
しょうがなくは、金澤に相談するつもりだった。
は、窓から見える景色にコンクールでなくてもいいかな、っと思いはじめた。
つまるところ、行くのが面倒とその感情に支配されていた。

場所を変えて、購買でプリンでも買うか。と思い始めた。
しかし。
は自分の裾をいきなり掴まれた。

音がでるなる、グワシと擬音語がつくほどの威力。
はのけぞったが、どうにか踏みとどめられた。
なんだ。

が、口を開く前に掴んでいる男を見た。
自分よりも幾ばくか背の高い
・・・つまり平均男性並みの身長をもった男が裾を握っていた。
服は、白、音楽科の人間だ。
髪は、真っ黒に染めているんじゃないかというほどの黒い髪をもち、
月森と同じくらいな長さのくせに、サラサラと流れているので長く見える。

顔を一向に上げないので、髪が極上だということしかわからない。

本当になんなんだ。

は、口を開いた。
「なにかようかな?」

そういうと、極上の髪を持った男は顔を上げた。
は、その顔をみてほほう、美形と思った。
月森が、西洋な美形なら彼は和風美人。
一重で切れ長な目と、薄い唇。
凹凸がそれほどはでではないものの、凛とした印象を受ける。

はてさて。

は、思う。自分の知り合いには彼は該当しない。
そして、彼はなぜこうも自分を睨んでいるんだろうか。

逃げようにも、しっかり握られた裾によってそれは不可能だ。

「・・・市松くんなにかようかね?」

は、名前を知らないので勝手に、名前をつけた。
由来は市松人形だ。

「・・・北村 悠です」

 だ」

先輩」

北村の手が少し震えた。


「僕を、伴奏者にしてください」



かくして、は北村 悠を手に入れた。(伴奏者として)
後日、北村は睨んでいたのではなく緊張していたと知る。
そして、北村の後悔はさっさと名乗っておけばよかったということだ。
は、彼を市松としか呼ばない。
おかげで、市松と金澤にも周りの人間にも呼ばれるようになった。





2008.11.10