僕の名前は、北村 悠。
今日は、人生最大の決死の覚悟で、掴んでいる(裾)。
今、僕の目の前にいる2つのおさげの先輩を、 先輩という。
先輩は、くりっとした真ん丸い目で、僕をみている(気がする)
顔が上げれない。
顔の赤みが消えない。き、消えるまで先輩は待っててくれるだろうか。
こんな顔は見せたくなくてどうにか根性で顔を上げれば、
予想以上の、真ん丸い目と
小さな顔に身長、きっとこのおさげもとけば、ふっわふっわに違いない。
なんか、いい匂いがする様な気もしてきた。
どうすればいいんだ。
な、なにか言われたけど緊張しすぎて聞こえない。
ご、ごめんなさい。もう一回言ってください。
「・・・市松くんなにかようかね?」
可愛らしい声で、きっと自分のことを呼ぶ。
そうだ、自分はまだ自己紹介もしてない!!
「・・・北村 悠です」
あーなに言ってんの僕。
昨日練習したのにちっとも、言えない。
やばい泣きそうだ。
けど、先輩は優しく。
自己紹介をしてくださった。(糞生意気だと思われなくて良かった)
このときの感動を、なんて言葉になんてできない。
僕はただ先輩の名前を呼び。
「僕を、伴奏者にしてください」
それだけで、精一杯だった。
のちに、僕のあだ名が市松になるけど、
それを呼んでいいのは先輩(な、なんとお許しいただけた)だけなんだ。
そことこ、分かってる?と同級生を睨む。
それから、市松と呼ぶ人間が少し減った。
さて、これが、僕が先輩の伴奏者になれた経緯だが、
僕はそれより前に先輩にあっている。
それがなければ僕は先輩のことを他の人と同じく変人としてしか見れなかった。
まったく他の奴らは分かっていない・・・あんな素晴らしい人が変人なわけ
・・・素晴らしすぎて常人には理解できないのかもしれない。
そう、僕がまだ常人だった頃。
その頃僕は、中学三年生で、人生最大の危機を向かえていた。
僕は、もてる。
なぜだか知らないが、もてる。
自慢ではない。決して。もてる対象が、可愛い子だけならいい。
が・・・。
僕の目の前で、告白してきた人を見ればどうみてもムサいおっさん。
僕が、もてる。
たとえ、比率が女より男が多くとも。
「き、君を守りたいんだ」
当たり前だが、僕は断った。
僕は、ノーマルだ。
男よりも、女が好きだ。
こいつに、唯一共感できるのは、
僕も、守ってあげたくなるような人が好きだ、という一点だった。
僕は、それで終わりだと思っていたんだ。
うなだれた男に背を向けた。もう二度と会わないことを祈って。
それで、終わりだと。
だから、男が狂った目で、僕を見ていたなんて気付くわけもなかった。
その日から、僕の生活は徐々に狂わされていった。
君を守りたいといった男は、僕を追い詰めていった。
毎日届く、自分の写真が入った手紙に、
どこで知ったのか携帯には知らない番号が増え
夜歩けば、誰かにつけられる感覚が拭えない。
物がなくなるだけならいい、部屋には知らないものがおいてあったりすることもあった。
誰にも、言えるわけがなかった。
それ以前に、悔しくて仕方がなかった。
ベットの上に体操座りをして頭から布団をかぶり震えている自分が情けなかった。
悔しい悔しい・・・・・・けど・・・・怖い。
窓から見られている気がして僕は雨戸を閉めてあるから、
好きだった月を眺めることが出来なくなった。
けど、無意識に僕は・・・宙を掴んだ。
ダレカ・・・タスケテ。
そして、あの日。
僕は、最後まで、学校に行っていた。
最後の砦だった。
そこにいれば、少しは違うことを考えられたからちょっとした、オワシスだったのだ。
けど、そに日は行かないほうが良かった。
学校の帰り道に、僕はさらわれた。
僕を壊した相手に。
誰もいない廃屋に連れ込まれた僕は、必死で抵抗した。
息が荒く、「僕しか君を守れない」そういって近づいてくる男を殴りたかった。
実際のところ、数日間寝てなくても中学三年生の体力なら
その男を退けられたはずだった。
が、そのときの僕は、恐怖が体を支配していた。
一つも動けなかった。
イヤだ。イヤだ。
体に触れてくる男を振りほどけない。
あの時のように、僕は手を伸ばす。
ダレカ・・・タスケテ。
誰も助けてくれないと分かりながら、僕はまた宙を・・・
掴むはずだったのに。
「君は、何をしてるのかな?」
僕は、彼女の裾を掴んでいた。
「だ、だれだお前」
「うーん、レスリングにしては、相手が無抵抗で・・・死にそうな顔をしてるなぁ」
「おい、俺の答」
ふわりと、彼女が飛んだ。
羽根が生えているようだった。
そして、彼女の踵が男の顔にめり込んだ。
「もう、さっきからぎゃーぎゃーうるさいなぁ」
彼女は、男を潰すと僕に近づき。
「あー君か、助けてくれっていう音は」
と言って笑った。
やー、この頃聞こえるし、
今日に至っては死にそうだから気になってたんだよねぇ
とへらへら笑う。
僕は、真っ白になりながら、彼女を抱きかかえると
うわぁという声も聞こえたが、その時僕は必死だった。
中学生とは思えない子供のような泣き方をした。
時々ぎこちなく撫でてくる手が気持ちよかった。
泣きつかれて起きてみれば、自分の家で。
そこからは、はやかった。
家族は、ちゃんと事情を知っていて
お前はまだ子供だから頼れとかいって怒られて、
僕を襲ったやつは、警察に厄介になり
その後、誤りの言葉をいただいた。
僕をみると相手が震えるんだけどなぜだかはわからない。
ただ土下座までして謝り続かれた。
その頃には、怖さや怒りもほとんどなくて
あの人にもう一度会いたいと思っていた。
僕が、うっすらと覚えていたのは、白い制服。
近くの制服を探した。一校だけみつかって、
しかも、運もいいのか音楽科で。
僕は、小さい頃からピアノを習っていたから、そこへ入学できた。
音楽科へ入れば彼女は、すぐ見つかった。
伝説の変人。
歌を歌わない声楽科。
近づきたくても、僕には度胸がなくてそして以外にも先輩は見つからなくて。
きっかけがあれば・・・。
そう思っていた一年。
彼女が、コンクールに選ばた。
伴奏者がいるとばかり思っていて、そいつに嫉妬した。
勇気を出せばよかったそんなことがぐるぐる回り続けて、コンクールを見に行けば
・・・・・・僕は、本当に運がいい。
先輩、今はまだいえないけど言いたいことがあるんです。
それまで、僕と一緒にいてください・・・ね?
2008・12・4